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シープメン料理

 大量のシープメンの死体を二人で担ぎながら街に入り、絶賛街の人たちから注目されてる親子。どうも稲光さんちの篝と鳴です。

 シープメンの血抜きが終わった後、どうやって街まで運ぼうか悩んだ。近くに森があったから多少引き摺ることになっても問題はなかったが、さすがに街まで30分の距離を引き摺っては肉がダメになってしまうからな。


 だがそこで鳴が機転を効かせたのだ。なんとロープとロープを繋げて網を作り、死体を一纏めにして運びやすくしてくれたのだ。

 おかげでこうして地面に引き摺って肉を傷付るなんてことにならずに済んでいる。女神様のバフを受けてるからこそ出来る解決方法だな。鳴は自力だろうけど。


「凄い視線ですね、パパ」

「そりゃそうだろ。総重量は二百キロ前後ありそうなこの死体の小山。これを二人で楽々運んでいて注目されない方がおかしい」

「それもそうですね。恐らく常人が十人いても運ぶのは難しいと思います」


 道行く人たちの注目を集めながら冒険者ギルドに到着。

 シープメンの死体は入れられないので、前みたいにギルドの裏手に運んでから報告しに行こうかと考えていると……


「よう。やっぱお前らだったか。もうギルドまで噂が届いてるから、出て来てやったぞ」


 ちょうど鑑定士のロザリオさんが、ぶっきらぼうな態度を隠さずにギルドから出て来る。

 昨日は鳴に注意しろと言われた人物だから、少しばかり身体が強張る。しかし努めて冷静を装い、俺は要件を伝えた。


「こんにちは。シープメンの肉と角を納品しに来ました」

「見ればわかる。そのまま解体所まで運んでくれ。こっちだ」


 ロザリオさんに案内され、隣の解体所までシープメンを運んだ。

 彼はそのシープメンの死体を改めて確認すると、俺たちにある提案をしてくれた。


「角の依頼者はあるだけ納品してくれと言っていてくれたから、特に使い道が無いのなら納品してやってくれ。追加報酬もちゃんと出る。肉の方は5、6匹分あれば良いって話だったから、残りはお前たちに回したり、ギルドで買い取って適当に市場に流したりするんだが……どうする?」

「あ。じゃあ十キロくらい肉をください。角はいらないです」


 ロザリオさんの、肉を俺たちに回してくれるという発言に、うちの子が嬉しそうに顔をキラキラさせている。

 彼女の胃袋は結構デカいみたいだから、十キロくらいあった方がいいだろう。


「十キロか。結構食うんだな」

「はい。うちの子は育ち盛りですので」

「そっちが食うのか…」


「!? か、勘違いしないでください。疲れた身体には、美味しいご飯と質の良い睡眠が一番なのです。別にお肉を分けてもらえて嬉しいだなんて思っていませんっ」

「何言ってんだお前?」


 若干引いた様子で鳴を見るロザリオさん。

 おいおいそんな目で見ないでやってくれよ。凄く可愛いんだぞ?飯食ってる時の鳴は。


「難しい年頃なんですよ。大目に見てやってください」

「ほ~ん。これだけのシープメンを短時間で狩って来れる実力があっても、所詮はお子様って訳か」


「むぅ~…」


 シープメンの解体を待つ間に、不服そうな顔をしている鳴を連れてクエストの達成報告をしに行く。

 報告して少しした頃には、俺たちの分の肉は用意出来てるそうだ。


 ギルドの受付へと移動して、最早お馴染みになりそうな受付嬢にゴブリン討伐も含めたクエストの達成報告をした。

 ちなみにゴブリン一体の討伐につき、銅貨5枚となっている。


「はい。確認致しました。こちら報酬の銀貨38枚と銅貨85枚です。内2枚は角の追加報酬ですのでご確認ください。こちらに卸してくださるお肉の分は、ロザリオさんから直接受け取ってください」

「了解です」


 ふぅー。思ったより簡単に終わったな。初めてのクエスト達成だが、正直そこまで苦労しなかったので、身体の疲れは感じない。

 でも精神的な疲れは微かに感じる。ゴブリンの耳を切った時の感覚がまだ少し手に残ってる感じがあって、頭から離れないからなぁ。

 早く慣れるよう努力しないと。


 ……あと早くバッグを洗いたいな。ぎゅうぎゅうにゴブリンの耳を詰め込んだから汚いったらない…。しかも臭うし。


「それにしても凄いですね。シープメンを短時間で11匹も狩るだけでなく、ゴブリンをこんなに大量に……ルドルフさんが推薦するほどです。これで少しだけゴブリンの被害が改善されそうです」

「100匹以上狩って、少ししか改善されないんですか…」

「はい。ゴブリンの繫殖力は異常でして、1匹いたら周りに30匹はいると思えと言われるほどです」

「じゃあその少しの改善になるかも怪しいな…」


 その理屈だと倒した分×30匹で、4000以上は周りに潜んでることになるぞ。大雑把に金に換算すると銅貨2万枚以上の値段だから、金貨2枚と少し……割に合わねぇ気がする…。

 そんな一斉に襲って来ようもんなら確実に逃げの一手だぜ。


 その後、受付嬢にルミナリアで需要が高まってる魔物の肉や薬草の話を聞いて、受付から離れる。

 まだランクが足りなくて受けられないクエストの話だから、今は気にしなくて良さそうだ。

 あとは適当にクエスト掲示板を眺めて、鳴と明日受けるクエストの相談をして、解体所に肉を取りに戻った。


 ロザリオさんが言っていた通り、十キロの肉が用意されていて、それを鳴は食い入るように見つめていた。


「もう少し待ってろ。今袋に入れてやる。……ほれ。袋は返さなくていいぞ」


 そう言ってロザリオさんは、よく高級肉とかが包まれてそうな紙で包んで、それを皮袋に入れて鳴に渡してくれた。

 鳴は頭を下げてお礼の言葉を口にする。


「ありがとうございます。美味しく頂きます」

「そういうのはお前たちの血となり肉となるシープメンに言ってやれ。いただきます、ってな。嬢ちゃんにはまだ、そういうのはわからないかもしれないがな」

「いえ。知識としては知っています。命を頂くというのは、とてもありがたいことで、感謝すべきことであると」

「……へぇ~」


 そんなことまで頭に入れられてるのか…。女神様は鳴に一体どんな風に育って欲しいんだ?

 だけど、ロザリオさんの言う通りだな。こうして命を奪ったんだ。ちゃんと感謝して、美味しく頂かないとな。

 ゴブリンは例外だろうけど…。


 ちなみに死体は野生の動物や他の魔物が食ってくれるらしいので、放っておいた。


「お前さん。良い教育してんだな」

「いや、鳴が優秀過ぎるんですよ。それじゃあこれで失礼しますね。お金は明日お願いします」

「あいよ。キッチリ査定しておく。どれも鮮度が良さそうだから、値段は期待してくれ」

「はい。ありがとうございます」

「礼を言うならこっちだ。美味い飯は街の活気を良くする要因の一つだ。しばらくは卸さなくていいが、またシープメンを見かけたら、二匹くらい狩って来てくれ」

「わかりました」


 ロザリオさんはぶっきらぼうだが、やはりルドルフさんの兄弟だけあって真面目で優しい性格をしているようだ。

 ただ……鋭い目付きのせいか、どこか俺と鳴を見定めようとしているように見える。


 自意識過剰ならそれでいいんだが、鳴に言われたことが引っ掛かって気になってしまう。


「それじゃあ俺たちはこれで。また明日お願いします」

「失礼いたします」


「おう。明日もいい素材を卸してくれ」


――――――――――――――――――――――――


「あれまー!なぁんて立派な肉さね!?これはシープメンの肉かい?」

「はい。それでお願いしたいことがあるんですが、その肉で美味い飯を作ってくれませんか?残った分はそちらで自由に使ってくれていいので」


 猫の冠に戻って、さっそくと女将さんにシープメンの肉を渡して、これで美味い飯を作ってくれないかお願いした。

 女将さんはポニーテールの明るい茶髪の女性で、ふくよかな体型をしている。ザ・宿屋のお母さんって感じの気持ちのいい性格をしている。

 昨日部屋を取る時に俺たちが親子だと言うと、「立派だねー!アンタ!」と肩を思い切り叩かれた。凄く痛かった(丸)


「任せときんさい。昨日娘から、その子がいっぱい食う子だってのは聞いてるよ。いっぱい美味いもん作ってやるから、楽しみにしときなさい。ほれ、作ってる間に身体綺麗にして、服も着替えて来なさいな」

「……なんだか私が大食いと言われてる気がします…」


 実際そう言ってるんだと思う。普通の人が食べる量じゃないカルボナーラとトンカツサンドを二つ食っておいてお腹一杯になったなんて言ってなかったし。むしろもっと食べたそうにしていた。

 さすがにあれ以上は金の問題で食わせることは出来なかったが、今日くらいはたらふく食わせようと思う。十キロもあれば足りる……よな?たぶん。


 というわけで、俺と鳴は風呂(もちろん男女別)で汗を流して身体を清めて、服を着替えて食堂へ向かった。

 ただ替えの服なんて買ってないから、また鳴は学ランを着ることになってしまった…。明日また服屋さんに行こ。


「お待ちしてました!もう少しで料理が完成しますので、お好きな席へどうぞ!」


 ウェイトレスさんにそう言われ、俺と鳴は昨日と同じ席へ行く。

 あのウェイトレスさんも茶髪で、女将さんと雰囲気も似てるし、あの人がさっき言ってた娘さんかな。


 魔力玉をコロコロと掌の上で転がして、鳴に雷魔法の使い方のレクチャーを受けながら待つこと少し。


「お待たせしました!こちら『シープメンの生姜焼き』です!」


 まず最初に来たのは、生姜焼きだった。やっぱ凄い量…。一枚一枚が大きくて、しかも俺が知ってる生姜焼きより分厚い。

 箸は無いみたいだが、もしあったとしても持ち上げるのが大変だろう。


「美味しそうですね!パパ」

「……ああ。そうだな」


 鳴。もう気持ちを隠せてないのぜ。笑顔というほどではないが、目を大きく開けてキラキラさせてる姿は、見ていてとても微笑ましい光景だ。

 鳴と一緒にいただきますをして、ナイフで切る。お?全く抵抗を感じなかった。

 そして同時に一口食べて……


「ッ!?」


 うわうっまっ!?肉は柔らかくジューシーで、嚙めば嚙むほど肉の美味しさがダイレクトに口いっぱいに広がっていくのを感じる!

 絡めた甘辛いタレも効いていて、米があったらかき込みたくなる味だ。

 それに一緒に乗っかってるキャベツもシンプルに美味い。やはり生姜焼きにはキャベツだよな~。異世界もそこは共通認識なのかな?


 ここにあるのが米ではなくパンのみというのが非常に残念だ。しかし!パンだからこそ出来ることもある。

 パンを側面から割って、そこに生姜焼きとキャベツを挟む。

 そして思い切りかぶりつくっ!


「ん~っ!美味い!」


 昨日のトンカツサンドとはまた違った味わい。まぁ当然だけど。

 生姜焼きのタレを吸い込んだこのパンがまた美味いのよね~。


「どうだ鳴。美味いか?」

「おかわりしてもいいですか?」

「うわはっや」


 もう食べ終えてる鳴を見るに、聞くまでもなかったようだ。


「そんな急いで食べなくても、まだ料理は来るって。ほら、口にタレが付いちゃってるぞ」


 鳴の口をハンカチで拭いてあげる。


「んっ。すいませんパパ…」

「気にするな。それだけ美味かったんだろ?」

「それもなんですが……どうやらパパの言った通り、私はシープメンのお肉が余程食べたかったようです」

「え?もしかして自覚無かったの?」

「はい。口に入れて初めて、その自覚が持てました。平原では自分でもよくわからないことを口走ってしまった気がしますが、思えばそれは私の本音だったのでしょう」


「お待たせしました!こちら『シープメンカツ』でございます!」


 鳴が自分の本音を吐露していると、次の料理が運ばれて来た。

 ソースとからしも付いている。そしてデカい…。俺はまだ生姜焼きも食い終わってないってのに。


「こうして美味しそうな料理を目の前にすると……少々恥ずかしいのですが、今すぐにでもかぶりつきたい衝動に駆られます」

「そうか。まぁ別に恥ずかしがることじゃないと思うけどな。遠慮なく食えよ。俺はいっぱい食べる鳴が好きだぞ」

「パパ……はい。パパがそう言うのであれば、遠慮なく……」


 そう言って鳴は、次々と運ばれて来るシープメンの『炭火焼き』や『ジンギスカン』といった料理を完食していった。

 俺の分のほとんども食べ終えて、満足した表情だった。

 あと……


「パパ。おかわりしてもいいですか?」

「ごめん。さすがに今後のことを考えると、ここら辺でやめていただけると助かります…」


 伝票を見ながら申し訳なく思いながら言う。もう銀貨70枚分も食ってるよ…。


「そ、そうでしたか…。すみませんパパ。ではこれでごちそうさまです。ですが……やはりもっと食べたかったですね」


 ちょっとだけ、食事に関して我儘になった。

 早くランクを上げて、いっぱい稼げるようにならなきゃ。うちの子が笑顔で腹一杯に食えるようにっ!

飯テロ小説を目指してる訳じゃないんですけどね。


面白かったらいいねと高評価をお願いします。

次回は少し日数が進んだところから始まります。

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