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真っ暗闇からの宇宙征服

作者: 猫隼

Ch1.冒険の約束


 人が遺伝暗号を解読し始めた時に一番考えられていたほどは、生物の性能というのはそれに縛られない。遺伝暗号の外側の調整によって、性能をコントロールすることもできる。

 だけど、人々は生物、あるいは人間という存在の物質的特性をよく学び、知ることで、特に大人たちは、その心をずいぶん冷たくもしてきた。

 リコとアキラは見捨てられた子供たちだった。

 二人の出会いはA.D.2097の夏のある日。


 A.D.2070年に、世界連合政府より提案され、すぐに施行された"USEL(未登録特別児童教育法)"は、つまりは、社会登録できないレベルの非健常児童(ようするに身体機能に、社会生活に支障をきたすほどの不備を持ちながら、何かの理由で両親が、または10歳以上の場合は本人が、性能調整を拒否している16歳以下の者)は、必ず特別な教育施設に通わなければならない、というもの。

 アズツール児童教育所にリコが転入してきた時、自己紹介の時点でアキラはすぐに興味を持った。彼女が自分と同じく盲目という欠点を持っていたからだ。


 アキラは、科学者の両親から生まれた子だが、その両親は、そうした原理をよく知っているからこそ、調整に慎重だった。だが成長するごとに、そもそも両親は、ハンデに苦しむ子に興味を失くしていった。子供の方には理由なんてわからない。ただ無関心。それでもアキラは、USELにひっかかっている8歳の子にしては、家族に恵まれている子と言えなくもない。大したものは与えられなかったが、何かを奪われることもなかった。


「あの、リコちゃん」

 後から考えると、アキラ自身が意外に思った。先に話しかけたのは引っ込み思案だった彼の方。普通、人は視覚に頼る動物だから、第一印象として見た目が重要とされる。目が見えないアキラにとっては、きっと第一印象といえばその声。その声でもう好きになってたのかもしれない。

「あなた、フライズを持ってるわね。てことは、きみがアキラくんね」

「え、あ、持ってる。けどなんで」

「わかったのかって? そのくらいは音でわかるわ、わたしだってそれ持ってるんだから」

 それこそ才能と言えるものなのか、同じく見えないのに、耳のよさは彼女の方がずっと上なようだった。


 フライズは、視覚障害者用の携帯コンピューター。特性の音声操作の他、"アクアルーム"という、視覚があまり関係ないとされる操作システムも備わる。

 アクアルームは、"リンクスライム"、あるいは単に"スライム"と呼ばれる、視覚的にはネバネバした塊のような立体映像である、操作用仮想場を近くに用意し、そこに入れた手で操作するというもの。操作自体にはわりと慣れが必要だが、しかしそれによる情報変化は、神経系への直接的刺激を通して、わかりやすい。


「ちょっと起動してみてよ」

 暗い過去を感じさせない、明るい雰囲気があった。


 たいてい普通の人なら、リコは、アキラより不幸な子だと考えたろう。彼女は実は、完全に先天的な盲目ではなかったはずなのだが、恐ろしい宗教にとりつかれた両親の酷い拘りのために、つまり、誰でも簡単に受けられる医療も受けれなかったために、避けられたはずのいくつもの不幸を体験した。

 ただ、彼女はとても強かった。


「オペレーションにゼノゼノなんて、あなた、私が思ってたより普通の子供じゃないみたいね」

「これは音じゃないでしょ、なぜわかるの? いや、わかる、よね、わかる人には」

 すぐにそうだと気づかれたことには、もう本当にアキラも驚く。


 ゼノゼノというオペレーションシステムは、基本的には開発者向けのもので、普通の子供というか、そもそも普通の人が利用するようなものではない。


「目が見えなくても、電脳空間に関する仕事だったら大丈夫だと思って。でもまだまだ理解できないことも多いんだけど」

「でも、基本スタイルのカスタム設定だけでも十分にわかるわ。少なくともあなたの年代にしては大したものよ。見込みあるわ」

 とても、同年代|(実は1歳年下)とは思えないくらいに上から目線だったリコ。しかし、彼女のその妙な自信は、根拠無きものとかではない。アキラはこの時はまだ知らなかったが、彼女はいつも本気の天才。

「ねえ、アキラ、あなたがその気なら弟子にしてあげてもいいわ。それで一緒にハッカーチームやってもいいわよ」

 そして、自分の実力をまず見せよう、と言わんばかりに、いつの間にか起動していた自身のフライズで、まだ作成途中だった、自作の"オープンサイバースペース"、つまり接続コードなし、いわば無線式の電脳空間で周囲を囲んだ(正確には認識させた)リコ。


 盲目の二人にも、神経を介して、理解するでなく、させられるような、その架空世界を見ることはできた。

 どうやらとてもスケールを小さくしているが、広大な海に、巨大な灯台。実際にどんな服装をしていたのかはともかくとして、今やリコは地味な学生服のようなものを着ていた。実年齢より大人びているが、まだまだ少女。

 さらに、灯台から空へと放たれた光に共鳴するかのように、目まぐるしく変化する空模様。だんだんと荒れ狂ってきた海を進むいくつかの船。やがて、全体的にはさらにスケールを小さくしたかと思うと、全てを吹き飛ばすような隕石らしきものの墜落。続いて水の中で目覚めたらしい巨大なドラゴン。そして、今度はスケールを拡大して、また灯台。気づけばリコは、その踊り場に立っていて、黒いローブに三角帽子の魔女らしきキャラクターと向かいあっている。魔女は彼女に赤いスカーフのようなものを手渡そうとしたが、しかしそれは風で飛ばされてしまう。そして、そこで終了なのか、もう十分だと判断してシステムを止めたのか、サイバースペースは消えた。


「凄いや、僕にも、造れるようになるかな?」

「だから、あなたがその気なら教えるわ。それにもしも一緒にやるなら、これだってあなたと一緒に開発することになると思う。これは、ほとんどの大陸が水に沈んだ世界を舞台にした大冒険の舞台。ゲームタイトルももう決めてるの。ラストシー」

「ゲームなんだ」

「なんだかんだ人の注目を集めやすいジャンルだしね。信頼できる仲間は少なくていいけど、だけど複雑な世界の中でもっと大きなことをするなら、大勢の味方が必要でもあるでしょう。そこでまずゲームで成功してやろうと思ってるの」

「こんなゲーム開発をすること自体、僕には大きいことに思えるけど」

「相対的には大したことじゃないわ。最終目標と比べたらね」

「最終目標って?」

「私は、与えられた罰みたいなものだって教えられたわ。それでけっこう信じてた、もっとちっちゃかった頃はね。まあ理由なんて、今ではどうでもいいわ、とにかく私は生まれつきダメな存在で、きっと生涯そうなんだって何度も言われてきた。でもそんなことって、人が決めることじゃないでしょう。結局みんな主観的に物事決めるし、自分がダメなやつかどうかを自分が決めることもできる。で、自分にとってはそれが一番重要じゃない。そんなふうに思うの。だけど結局そういう考えも独りよがりだってたいていの人が言うものでしょう。だから見返してやろうって思ったの。きっと私は負けず嫌いだから。出来損ない認定された私が、世界中を驚かせてやろうって」

「君は本当に、とんでもないよ」

 もはや笑うくらいしかできなかったアキラ。

「でも見返すって、具体的にはどうするの? ゲームで成功して、それで多分大金持ちとかにはなれるだろうけど、その後は、宇宙開発とか?」

「社会の枠組みの中で成功すること自体には実は興味ないの。だって、そもそも私みたいな天才を出来損ない扱いしちゃう社会なんてダメダメじゃない。だからさ、変えてやるつもり」


 そう、彼女はいつでも本気。

「文字通りに世界征服してね」

 いつでも本気で全力で、我が道を行く。


 それから二人は約束した。

「ねえ、あーくん、君のことこれからはそう呼ぶことにするよ。ラストシーは、 最終計画までの道で、多分一番重要なターニングポイントだから、これが完全に完成した時は、時は」

「その時はさ、一緒にこの世界、冒険する?」

「うん、しよ、しよ、冒険。その時はさ、この広大な世界を一緒にどこまでも行こうよ。約束」




Ch2.招かれざる者


 A.D.2105


 2年前に公開されたオープンサイバースペースのオンラインRPG『ラストシー』は、見事と言うほかない、完璧なファンタジー世界観の実現と、中毒性の高いゲームシステムのために、あっという間に大人気となった。

 それで、今や盲目の天才ゲームクリエイター、リコの名前も広く知れ渡った。彼女がクリエイター仲間たちとつくった、ラストシーを配布したゲーム制作会社ゴッドアイが業界トップの怪物会社になるのにも、ゲーム公開から1年かからなかった。

 意外でもないだろう、彼女が作ったものは、世界中の人々が望んでいた、こことは別の世界、つまり本当の異世界|(のような仮想世界)なのだ。しかしそれが実は、彼女にとっては出発点でしかないということを知る者は少なかった。そして計画は、全く予想もできなかったところからの邪魔によって、一時中断を余儀なくされてしまう。


 一番最初は、管理者用スペースに一切の情報がないままに、言うなれば勝手に始まって、勝手に終わった時間限定イベント。次には、値段が高いからあまり実用的とは言えないが、ゲーム中の全てのアイテム売り物にしている謎の商人キャラの登場。それに、突然出現する、妙に高レベルのドラゴン。ゲーム中ゲームであるカードゲームにおける、効果のない無駄なカード。好感度が設定されているNPキャラの中で唯一、何をいくらしてもまったく態度を変えない占い師。そうした、バグなのか公式のお遊びなのか議論される、普通にバグの数々。

 そして事前チェックで確実に正常だとわかっているはずのプログラムラインで、それらは発生していた。


ーー


「そういうわけで緊急会議です。今のところは問題ないけど、今後こうしたことがどんどん増えてくると、ユーザー離れに繋がりかねませんから。そろそろ私たち、運営側、今の事態を真面目に考えましょう」

 会社の幹部たち十数人を集めた会議室。円形テーブルの真ん中に立っていたリコ。しかし、幹部全員を召集した目的を説明した後は、テーブルから降りて、開いていた席に座る。

「とにかくまず原因を突き止めないと」

 今やリコの右腕とも言えるアキラ。

「原因と言うか犯人になら心当たりがあります」

「私も」

「俺にもです」

 その、三人の幹部の心当たりというのは、同じものだった。

 彼らはかなり早い段階から、電脳空間における、普通は絶対ありえないようなバグ現象の調査をしていて、そして、メアリズと名乗る謎のハッカーテロ集団にたどり着いていたのだった。


ーー


 会議が終わって、一人ずつ退席していったが、リコとアキラだけは、二人だけで残っていて、しばらくは無言だった。

「メアリズだけは絶対ない訳だけど」

 そう、結局他の可能性は全く出されなかったわけだが、それだけはないことを、アキラは知っていた。そう、そんなわけがない、そもそもハッカー集団メアリズは、リコが遊びで作った、なんちゃって秘密結社だったのだから。

「あーくんはどう思う?」

 人前で出されたら恥ずかしい、昔の呼ばれ方。しかしその呼ばれ方をするのは、100パーセントでシリアスな話題である時だけ

「私はもっとありえない可能性に気づいてるわ。みんなと違って隠れてる世界に馴染んでるから。あなたと同じように」

「確かに、ここでは僕たちにしか見えないものが、今は見えてない気がする」

 つまり現実の世界を盲目ゆえに知らないからこそ、神経系との直接的繋がりによる仮想空間に慣れているからこそ、よくわかる感覚、ネットワークの質。

 初めて出会った時とは逆で、アキラの方が、オープンサイバースペースを用意した。

「ごまかしてはいるけど」

「クセを隠しきれてない。通信ルートが絶対にありえない、情報の発信エリアが」

 しかし、アキラはさすがに、それをはっきり断言することをためらう。

 リコはためらわなかった。

「宇宙生物よね、これは。おそらく恒星間の量子場で形成したネットワークから、固定エネルギー技術のカプセルを中継点として、地球のネットワークに」

「でも、いや、ありえるとは思うけど、ありえるかな?」

「むしろ間違ってくれてたら嬉しいわね。どう考えても、今これに気づいてるのは私たちだけだし。そして私たちでも、おそらくもう遅すぎるんじゃない」


ーー


 だが、二人の推測は完全に当たっていた。ほんの1時間くらいでわかった。ラストシーは、今は地球で最も広い範囲に広がっている情報コントロール空間。始まりが宇宙のどこからであっても関係はない。そこにアクセスしてきた以上、地球へのその侵入者が、再びどこから出て行こうとする時でも、その後の軌跡が予想出来るくらいには、多くの情報をつかめる。そういう存在がいるとわかってさえいるなら。


「まだいるわね、私たちのところに」

 地球外から入ってきたアカウント。

「あーくん。偽宇宙システムを使うわ。コードパターン、即興で少しだけど変えたから、何かおかしいところあったらサポートして」


 おそらく気づいたのは運がよかった。しかしとにかく、管理者のレベルに、そこまで仮想空間に強く適応している者がいるとは、それこそ宇宙生物にも予想外のことだったのだろう。


〔あなたは、何者?〕

 それが地球の仮想空間領域に入ってきたのが正確にいつ頃のことなのかわからないが、もうすでに言葉が通じる可能性は十分にあると踏んで、リコは仮想空間内仮想空間、偽宇宙に閉じ込められたその何者かに、普通に文字で問いかけた。




Ch3.二人の再出発


 話しかけてきたリコだけでなく、アキラのことももう認識しているのだろう、返信メッセージは、二人それぞれの前に表示された

〔お前たちは愚か。もう取り返しつかない〕

 不気味な返答だった。

〔お前なの? それともお前たちなの? いったいこの星に何の用?〕

 今度はアキラの問い。

〔まず先に問いかけてくるべきだった。最初に私を閉じ込めたのは順序が間違っていた。お前たちはもう終わりだ〕

〔なぜ終わりなのか、説明してくれない?〕とリコ。

 しかし、今度は噛み合わない返事もなかった。

〔あなたたちの方のネットワークが一瞬、突然に途切れちゃったから、あなたの仲間が、あたしたちを危険と判断した?〕

 今のところ考えられそうな、しかし考えたくはない話。

「答えろ」

 文字入力でなく、リコは声に出した。

〔私は、このゲームを気に入ってた。だから任務はサボってた。私は本当はお前たちを探りに来てた〕

 そこで、補足情報とばかりに、別のモニターに表示された説明。それによると、つまり宇宙において、別星系の生物どうしの争いは、まずいつでも必然的に情報戦から始まる。武器などを遠い距離間でワープさせるには多大なエネルギーがいるからだ。そこでまずは電脳空間領域の方に入り込んで、探りを入れて相手についての情報を集める。賢いところなら、嘘の情報で自分たちの軍事力を高く見せるだろうが、もう地球の情報に関してはほとんど全て知られてしまっている。ただし、それは完全ではなかった。

〔サイバースペーステクノロジーは、その他の全てのテクノロジーの発展速度をほとんど無限に加速しかねない。私は、いつまでもここには仮想空間システムがないかのように装ってた。何も報告しないことによって。だが情報ネットワークがほんの少しでも途切れてしまった時点で、それが可能だとバレてしまった。この星はおそらく潰される〕

 さらに補足情報。ある星系と星系の間で、友好関係が結ばれるというのは、この宇宙にこれまでただの一度の例もない。なぜなら生物のどんな認識形式においても、ひとつの理解の方法が永続的に続くということは構造的にありえないから。巨大閉鎖系として出発した、生命の集合同士は、必ずどこかで敵対する運命にある。宇宙はだから、いつでも先手必勝が重要。


 それからはもう、閉じ込められて身動きも取れない宇宙生物は、何も言わなかった。


「ど、どうしようか?」

 隣のリコにでなく、まるで自分に問いかけているようだったアキラ

「あーくん、あーくん」

 しかし、彼女は笑ってさえいた。お互いに見えてなくても、仮想空間で繋がってなくても、それくらいはわかった。

「向こうのネットワークに渡るルートはわかってる。それを使って」

 リコは計画を話す。いつでも本気な彼女の本気の計画。


 考え方自体はシンプルなものだ。真正面から、一対一で戦うと勝ち目がないだろうから、あちこち巻き込んで乱戦に持ち込もう、というような計画。敵の恒星ネットワーク、あるいはその影響をこっちで勝手に広げ、量子場の繋がりが許す限りのすべての領域を巻き込んで、言わば電脳空間大戦争を起こす。


「いや、正気?」

「冒険の約束したでしょ。一緒にどこまでも行こうぜって」

「いや、ちょっと予想外に話のスケール大きくなりすぎてしまってるんじゃないかっていうか」

 スケールの大きさもそうだが、それに至るまでの展開の早さにもまだついていけていないアキラ。しかし、世界も彼女も待ってはくれない

「平気よ。宇宙ってほとんど真っ暗闇でしょう。それなら私たちの領域じゃない」

 めちゃくちゃだけど、力強さを感じさせる。今までと同じように、いつもと同じように。

「ねえあーくん、私たちさ。昔は駄目なやつとか出来損ないとか、さんざん言われてきたでしょ。でも、自分たちでまでそう決めることないわ」

「で、でもさ、これはもうなんていうか、そういう次元の話じゃないような気がするけど」

「いや、そういう次元の話よ、私たちにとっては。だって考えてもみてよ。地球よりずっとテクノロジー上と思われる宇宙生物が攻撃を仕掛けてくることがもう決定した。それを私たちしか知らない。で、どうせ私たちがダメなやつとか言ってきた連中って、今の私たちみたいになった時、今のあなたみたいなこと言うと思うわ。いえもっとひどいかも、どうせ無理とかね。違う違う、私は違うわ。そして知ってる。あなただって違うでしょう。だって私と一緒にここまで来たじゃない」

 それで、もうアキラの方が、笑わずにいれなかった。

「やっぱり君は本当に、とんでもないよ」

 だけど今回は笑うしかない訳でもなかった。

「僕の人生は最高だ。君と出会えただけでさ」


ーー


 そして翌日。

「というわけで、わが社の目標を切り替えます。世界征服ではありません」

 また会議室に集まった、信頼できる幹部たちに、今のところわかっている情報を全て伝えた上で、リコは力強く宣言した。

「宇宙征服です」


ーー


 A.D.3107


 アマノガワ銀河、太陽系第三惑星、地球を中心として、超空間ネットワークで繋がる7つの銀河の全体の半分ほどを支配領域としている大国家ゴッドアイ。

 その中心世界とされる、太陽系含む数千の恒星系群で構成されるメタアズツールのさらに中心である人工星系の人工惑星のメアリー。そのメアリーの、サイバースペース都市のシー2の、小さな灯台が印象的な水辺で、二人の盲目の英雄は暮らしていた。

 二人とも、リアルの体は冷凍睡眠状態で、現れている姿は電脳体。神経系は調整されている仮想再現のものだから、本当は見えない世界も、普通に見ることができている。


「あーくん、今、何を考えてる?」

 ずいぶん長い間、ただ灯台近くを、彷徨う幽霊みたいに水しぶき立てるだけの遊びに熱中していたような少女が、唐突に少年に問いかけた。

「やっぱりさ」

 そして少年はためらいがち、な自分を首を振って消してから、はっきりと言った。

「何か物足りないなあ、とか」

「でしょ、でしょ」と、その言葉を待ってましたとばかりに、興奮した様子を見せる少女。

「そうなのよ、そう。だって言っちゃえばさ、私たちまだ最終目標到達してないじゃない。見てよ、ごらん、我らの国家を、銀河系7つだけ、しかも全部じゃないし」

 そして、少女は少年の手を掴む。

「じゃ、そうと決まったなら行こうぜ、私たちらしくさ」

「うん、宇宙、征服だね」

 自分で言っててつい笑ってしまうけど、でも今となっては少年も本気。

「宇宙征服だね」

「そうそう、もう大つけよう、大宇宙征服」

 そして、自分たちが欠陥品でしかなかった世界を、その誰より強い心で変えてきて、そして少年をここまで連れてきた少女は、出会った頃とちっとも変わらないような、だけど本当は少しは変わった調子で続けた。

「ねえ、ありがとね、あーくん。私の……」

 しかしその言葉の最後は小さすぎて、少年には聞こえなかった。

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