5話 腐った妹
まぁ、今更愚痴っても仕方ないですけどね。
それから、時間はあっという間に流れ、とうとう私はシルク嬢とのお見合いの日を迎えた。
おかげで、城内は朝から騒がしい。
メイドや侍女達が何時も以上にせわしなく動きまわっている。
そんな中、私の執務室に珍客が現れた。
シルク嬢がこの城にやって来るのが昼からという事もあり、私はやり残していた仕事を片付けている最中だった。
「お兄様!」
簡単なノックはしたが、私の返事を待たずに突撃してきたのは、妹のユリーカだった。
父親譲りの金髪に、母親譲りの水色の瞳を持つ美少女。
黙っていれば引く手あまただろうに、その父親似の活発さが国内外に知れ渡っているせいで、中々婚約者が決まらなかった残念な妹だ。
魔物討伐に参加するわ、気づいたら騎士団の鍛錬場に勝手に混ざって一緒に剣を振うわ・・・ホント、お兄様は君の将来が不安でしかたないですよ。
そう言えば、こいつ騎士団はいいネタの宝庫とか、狂った発言してたな。
はぁ・・・この腐れ腐女子が。
「ユリーカ、淑女としての作法がなってないよ?」
溜息まじりにそう発した私に、きょとんと小首をかしげる妹。
うん、見た目は本当に可愛いんだけどね。
「あら、こんな態度で気軽に接しているのは家族やクリフの前だけですわよ?」
はぁ、さようですか。
ユリーカの専属侍女であるマリカが後ろで疲れた顔してるよ。まぁ何時もの光景だけど、お疲れ様。
因みにだが、マリカはクリフの妹だ。年齢はユリーカと同じ。私とクリフと同じで、母の推薦で選ばれた専属侍女。
「で、何?今日忙しいのはお前も知ってるだろ?」
「ええ!ですが一言どうしてもお兄様に申し上げたくて!」
「ん?」
あれ?私なにかしたっけ?この妹に。
「お兄様!」
「はい?」
両手を胸の前で組み瞳を潤ませる妹に、思わず庇護欲を刺激される。
やだ、ちょっと、この子超かわいいんですけど!
「お兄様!私は、私はお兄様とクリフの仲を応援しておりますから!禁断の恋とは思いますが、どうか頑張ってっ・・・ゴフ!」
思わず妹にチョップ。
「何をなさいます!」
「何をなさいますじゃない!お前こそ何言ってんの!だいたいクリフはお前の「婚約者」だろうが!兄と自分の婚約者を変な妄想に付き合わすんじゃない!」
「え~、お兄様ひど~い。妄想ではありませんわ!その夫婦のようなご関係は、いくら私が婚約者になろうと割って入れるものではございません!」
腐ってる・・・誰だ、こんな女を生んだのは・・・あ、うちの両親か。
昔は可愛かったのに。兄上と私の後をちょこちょこ雛のようについてきて、「お兄様大好き」とか言ってたのに。
どこでどう間違えたらこんな事になるんだ。
「マリカも止めなさい!って、君も同類だったね。・・・はぁ」
「申し訳ございませんレイスリッド様。ですが、私は完璧な妄想ですのでご安心を!不敬とは思いますが、趣味と実益を兼ねておりますので!」
うん、この妹にして、この侍女だよね。
てか、二人とも自分の兄達をどうこうって、この腐れ腐女子どもめ!
私だって、前世ではBがLなお話好きでしたけどね?自分に降りかかるのは問題外ですよ。
「では、お兄様!そう言う事ですので、お幸せに!あ、ですが、お兄様のお嫁様が嫌な訳ではございませんので!これはこれで熱い展開に萌えですわ!」
「ではレイスリッド様、お兄様、失礼いたします。お騒がせいたしまして申し訳ござません」
何事もなかったように退室した二人。
パタンと、静かに閉まる扉を見ながら、私は机に突っ伏した。
室内は嵐が去った後のように静まりかえっている。そんな中、コトリと私付の侍女が入れてくれた紅茶が目の前に置かれた。
うん、できた侍女さんだ。でも、この子も妹の同類だと私は知ってるんだよ?
ところで。
「クリフ、さっき何も発してないけど、言う事なかったの?ユリーカは君の婚約者だし、マリカは実妹でしょ?」
「あれは、相手にしないのが一番です。相手にすればするほど調子に乗りどんどんエスカレートしますから。特にウチの妹はああ見えてかなりのムッツリ系です」
うん、その情報は聞きたくなかったよ。