4話 やりすぎた過去
どう考えてもおかしいでしょ。
いくら何でも、何故にシルク嬢が私のお見合い相手の中にいるの!
「クリフ、どういう事か説明しろ!」
「おや?このご令嬢はレイス様もよく知ってらっしゃる方ですよね?」
クリフは私の側近という立場もあり、バスクード国には一緒に留学していた。
無論、あの日の卒業パーティーにも出席していた為、あの日あの会場で何が起こっていたのか事細かに知っている。
「知ってるよ!君だって知ってるだろ!」
「ええ、よく存じておりますよ?」
しれっと言うクリフに若干イラッとする。
何その余裕!ちょっと上から目線の態度!
ニヤリと不敵な笑みを作りながら、私の手にある釣書を指さすクリフ。
そして、爆弾を投下した。
「この度、バスクード国エリンスト公爵家より、正式に婚約の打診がございました。しかも、バスクード国王の添え状付です」
「は?って、ちょっと待って何で急に!だって、シルク嬢はバスクードの第二王子と婚約するんじゃなかったの!?」
そう、あの騒ぎの後、王太子であったステファンは、案の定王族から一貴族になり、王妃様の実家に引き取られて行ったと帰国後に友人の手紙で知った。
だが、シルク嬢はその有能さが惜しまれ、次の王太子になった第二王子の婚約者になったはず・・・。
なのに、何故私の婚約者候補!
「何がどうなったらそうなるんだ!」
「おや、やはり興味をお持ちになりましたね?」
「はぁ?」
「では、お相手にはいいご返事をお出ししておきますね?」
「いや、私はまだ会うとは行ってないよ!」
「では、お会いにならないと?お相手に何か理由がおありでも知りませんよ?」
フフンと偉そうにするクリフに苛ついたものの、言われてみれば確かに。
新しい王太子の婚約者になったはずの彼女が、わざわざ何故私とお見合いをしようというのか。
なんだが両親とクリフの手の平の上で転がされてる感はあるけど。
「くっ・・・分かったよ!会うだけだからね!」
結局、そうなるんだよね。くそ!
*****
クリフから打診があったあの後、彼はその有能さを遺憾なく発揮。直ぐさまお相手であるエリンスト家に返事を出し、二日後には顔合わせの日程が決まってしまった。
うちの両親は「とうとうレイスが動いた!」と狂喜乱舞していた。本当にウザい。まぁ、気持ちは分からんでもないけどね。
因みに、隣国バスクード国は、私の住むセイグリア国王都から馬車で一週間の距離にある。
最速の早馬で連絡をとろうとしても二日でなんて絶対無理な距離だ。
うん、こういう時、この世界が「異世界」なのだと本当に実感する。
この世界には「魔道具」と呼ばれる魔力で動く便利アイテムが色々と存在する。
例えば、生活面で言えば、触れるだけで水の出る蛇口に、触れるだけで火が着くコンロとか。
今回バスクード国に返事を出したのも、手紙を落とすだけで相手に送られる「伝書箱」による伝達だった。簡単に言うと元の世界でのファックスやメールみたいな感じ。
元の世界で「科学」があったのと同じように、この世界では「魔法」が当たり前なのだ。
誰もが生まれながらに魔力を持ち、それを使用するのが当たり前の世界。
私自身、王族というチート一族だけあり、生まれつき高い魔力を持ち、「魔法」が使えた。
前世の記憶が戻るまでは、それが当たり前の日常だった為、不思議でも何でもなかったのだが、記憶が戻った途端、その事実に狂喜乱舞。
十歳という年齢もあり、それまでは生活魔法程度しか使っていなかった私だが、記憶が戻ると同時に、前世でのヲタク知識が炸裂。あれやこれや、試さないと損だとばかりに、その時の私の魔力量で可能な限りの魔法に手を出した。
連日図書館の魔道書コーナーに入り浸るその姿は、端から見れば異様以外の何者でもなかっただろう。
現に、付き添っていたクリフが、「レイス様が何かにとりつかれている!」とかなり心配していた。今思うとあの頃のクリフはスレてなくて可愛かったなぁ・・・あ、何か悪寒が。
さて、ここまでの話でご理解いただきたい。
先ほど申しましたように、私は王族というチート一族の生まれなのです。
しかも、この国は魔法に関してとても発達している「魔法国家」。
必然的に私の魔力量は桁違い。その事を理解しきれていなかった私はその事もあいまって、かなりの事をしでかした。
うん、今思うとやらかした感が半端ないんだよね。
まず、興味本位で始めた魔道具作成。そこで再現しうる元の世界の品々を作りまくった。
今回手紙を届けた「伝書箱」もその一つ。後は、映像を記録するものや、冷蔵庫もどきなど、とにかく、自分が使いたいというのも先立ち、色々な物を作りまくった。
そして、それに紐付けして、色々な魔法の構築を発見したせいで、私は「神童」と祭り上げられてしまった。
付け加え、母似のこの容姿だ。やれ「女神の生まれ変わり」だの「妖精の加護持ち」だの、知らない所で二つ名がどんどん増えていった。
ホント、自分の首を自分で絞めたよね。
兄上が私に「後は任せた!」と言った台詞。これにはそういった前提があったからでもあるのだと思う。
兄は昔から社交的だった、だから私はそれに便乗して外にあまり出ず目立たないように生活してきたのに。
いくら兄が有能とは言え、弟の私がこれほどの事をやらかしているのだ。私が表に出て更に目立つと兄にも迷惑になる。兄は次の王になるのだ。よからぬ考えの貴族連中が私を次ぎの王にと担ぎ上げようとしていたのも知ってた。だから表での目立つ行為は避けて、徹底的に裏方に回っていた。パーティーなども、王命以外のものは全て出席拒否していたしね。
「はぁ、ホントどこで間違えたんだろ・・・って、全部か」