*話 「婚約者の逆修」~ユリーカ~
主人公の妹と、側近のお話になります。
( *・ω・)*_ _))ペコ
皆様、ご機嫌よう。
私の名はユリーカ・ミレニア・セイグリア。
そう、この物語の主人公である、レイスリッド・グランツ・セイグリアの妹です。
本日、皆様には私と一緒にこの出来事の目撃者となって頂きたいのです。
実は、今日は私の人生で一番と言っていいほどの大事件が起こったのですわ!
「はぁ、何てこと!とうとうお兄様にも春がきましたのね!」
そう、ついに我が兄が女性に初めて異性としての感情を持ちましたの!
今まで兄は、女神と称されるお母様そっくりなその容姿のおかげで、出会う令嬢出会う令嬢、そのほとんどから嫉妬という嫌がらせや陰口を受けて育ってきました。そのせいではっきり申し上げて女性恐怖症と言っていい状態でしたの。
そんなお兄様ですから、一生独り身でも構わないという姿勢で、お父様お母様も手をこまねいておいででした。
おかげで男色だとか噂がたつ始末・・・(まぁ、私にとっては美味しい噂でしたが)。
そんな中起きた転機。
上のお兄様であるエドモンド兄様が、かねてから婚約していたシリウス侯爵家のご令嬢の家に婿入りしてしまったのです。
確定していた「王太子」の座をあっさり捨てて、レイス兄様に丸投げする形で、成人すると同時にさっさと結婚され、今では次期シリウス家当主である、奥方の弟君のサポートに力を入れておられます。
そんな感じで、半ば無理矢理王太子にさせられたレイス兄様は、必然的に「お妃様」をお迎えしなくてはならなくなってしまったのです。
王太子としてのお仕事の合間に行われる、毎日の様に届けられる山の様な「釣書」との睨めっこ。
本当に、ご愁傷様としか言いようがございませんでした。
そんなある日、とうとう事態は動いたのです!
留学していたバスクード国の筆頭公爵家であるエリンスト家のご令嬢とお見合いをする事になったのです。
事の成り立ちは、留学中にお兄様がやらかしてしまった事件。
まぁ、結果的に令嬢をお助けできたのは良かったと思いますが・・・まさか、他国の王族の婚約事情に口を出されるとは思いませんでしたわ。
まぁ、私もバスクードの王太子殿下だったステファン様は少々苦手でしたが。
だってあの方頭のできが少々・・・いえ、かなり悪い方でしたもの。
と、まぁ話を戻しますが、本日そのお見合いが我が城で行われたのです。
そして、現在。
なんやかんやあり、お兄様とシルク様は城の中庭に面した回廊で雑談をなさっている最中ですの!
私の私室は、その回廊の向かい!これは絶好の鑑賞チャンスですわ。
という訳で、こんな絶好のチャンスを私だけで堪能するのもと思いまして、ゲストを招いているのです。
お兄様の側近にして、私の婚約者であるクリフ・リガー。
先ほど、彼の妹で私の専属侍女であるマリカに迎えに行かさせたところです。
「で、何故・・・私がこんな目に合っているのでしょうか?ユリーカ様」
「あー、もう!暗くてお二人の顔がはっきり見えませんわ!」
「・・・・話、聞いてませんね」
隣でクリフがブツクサ何か文句を言っていますが、大人しく私と鑑賞会を楽しんほしいわ。
「クリフ煩いですわって、・・・キャー!」
あぁ、何てこと!シルク様からお兄様に接吻!しかも二回も!
これはもう萌えの大洪水ですわ!私、溺れてしまいますわ!
「は、はぁはぁ、これは、心臓に悪いですわ」
名残惜しいですが、あまりの萌えに側のソファーに倒れる様に座り込んでしまいました。
そんな私に、冷たい視線を向けるクリフ。
侍女のマリカはそんな私と自分の兄の様子に対し、何時もの様に落ち着いた表情で側に待機中です。
「く・・クリフ。私、いつ昇天しても構いませんわ」
「・・・・・はぁ」
両手で顔を覆い、悶絶する私に対し、盛大な溜息をつくクリフ。
長い付き合いですもの、この男が冷めた性格なのは百も承知ですが、少しは私に付き合ってくれてもいいと思うのです。
だって、せっかく婚約したのに、この男ときたらいつも「レイス様」しか頭にないのですもの。
そりゃぁ、私だってわきまえていますわよ?甘い言葉をくださいなんて言いません。でも、少しは私との時間を大切にしてくれてもいいのではないかしら。
だから腹いせと趣味を兼ねて、お兄様との「お話」を作ってみたりするのよ・・・。
「クリフは、自分の主の幸せが嬉しくないのですか?お兄様一番の貴方が」
お兄様一番の所、ついつい強調して言ってしまいましたわ。
自分の兄にヤキモチなんて、私も相当だとは思いますけどね。
「まったく、貴女は本当に」
あら、呆れられてしまったかしら?
私はクリフを背にソファーから立ち上がると、部屋の出入り口に足を向けました。
だって、先ほどからまともな会話一つ無いのですもの。
この鑑賞会・・・いえ、私との時間を何とも思っていないのでしたら・・・。
「つまらない表情の貴方をこの部屋に引き留めるのも悪いわね、どうぞ?私も堪能しましたし、お帰りになっても結構ですよ?」
私自ら部屋の扉を開け、クリフに視線を向けました。
そんな私に、クリフは案の定面倒くさそうな表情をし、座っていた椅子から立ち上がると、私、いいえ、扉に近づいて来たのです。
(本当に・・・つまらない)
彼が近づいた瞬間、思わず顔を伏せてしまいました。
その瞬間。
「まったく、寂しいならそう言いなさい、貴女は不器用すぎだ」
彼はドアノブを握っていた私の手をとると、扉を閉め、そのまま手首を持ち自身の方へ「グイッ」と引き寄せました。
「クリフ、何を!」
へ?・・・えっと、何が起こっているのでしょうか?
クリフは何と、私を引き寄せると軽く口づけをしてきたのです。
一瞬にして起こったそれに、頭の中がついていきません。
「ユリーカ様、幼少期から一緒にいるのです、貴女が考えている事ぐらい少しは分かるつもりですよ?」
「く・・・クリフ?」
「少しは・・・言葉でねだりなさい。態度だけでは私もつまらない」
な・・・・何ですの!
これ、本当にあのクリフですの!
「では、私は仕事に戻りますので」
力が抜け、ふにゃふにゃになった私をマリカに託し、クリフは部屋を出て行きました。
や・・・ヤリ逃げにも程がありますわ!
「ユリーカ様?大丈夫でございますか?・・・我が兄ながら、やりますわね」
心配そうにこちらを伺うマリカに、半泣きになりながら私はしがみついていました。
「ま・・・マリカ!こ、コレは「逆襲」ですわ!」