1話 義務から逃げたいです
なろう投稿はかなり久しぶりです。
つたない文章ですが、楽しんでいただけましたら幸いです。
季節の変わり目に伴い、最近長く降り続いていた雨も止み、窓の外は雲一つ無い青空。
それに引き換え、私の心は未だ雨模様。
きっとこの雨は当分晴れる事は無いだろう。
「はぁ・・・私の心も晴らせてくれないかなぁ・・」
晴れた空をしみじみと見ながら、ボソリと愚痴る。
私のその様子に、側近のクリフ・リガーが呆れた態度で溜息をもらした。
「現実逃避ですか?レイス様。そんな暇がおありなら目の前の「コレ」に目を通していただけないでしょうか?」
相変わらずな辛辣な物言いをする部下に溜息が出る。
母上の従兄弟である伯爵家の息子という事もあり、この男との付き合いは幼少期からと長い。
しかもそれと比例して、私の事を余計な事まで知りすぎている彼は、普段から本当に容赦なく辛口な台詞を浴びせてくる。
「現実逃避・・・ね」
侍女の入れた紅茶が自分の執務机に置かれる中、私は目の前の「山」を一瞥した。
「ねぇ、これ・・・・何?」
思わず問いただした私に、クリフは不憫な者を見る様な視線を私に向けてくる。
「レイス様、この「山」が何なのかお分かりにならない程、学がおありではなかったのですか?」
「いや、そう言う意味で言ったのでは・・・」
何だろう、年々クリフが「オカン化」してきている様な気がする。
クリフは私の思考を知ってか知らずか、呆れ顔でその山の一冊を手に取ると、見せつけるように私に突きつけてきた。
「レイス殿下、いい加減現実を見てはいかがですか?貴方様はこのセイグリア国の王位継承者、しかも先日立太され「王太子」となられたばかりではないですか」
「だからって・・・・この「釣書」の数は異常だよぉ」
私は、あらためて山のように積まれた釣書、つまりお見合い写真を見ながら盛大に溜息を漏らした。
平時にしている仕事書類に紛れ、それに負けない位に積み上げられたお見合い写真。
本当に勘弁してほしい。
それもこれも・・・・・全部兄上のせいだぁ!
あの脳筋イノシシ男め!
と、まぁ、愚痴はさておき、遅くなりましたが、そろそろ私の自己紹介をしようかと思います。
私の名前は「レイスリッド・グランツ・セイグリア」。
年齢は十七歳。
常春の国、セイグリア国の「第二王子」です。
と言っても正確には「元」なんだけどね。私は先日嫌々、本当に嫌々立太し、王太子となった。
実は、約二年前、第一王子だった私の一歳上の実兄に「この国はレイスに任せた!」とか、ふざけた寝言をぬかされた挙句、去年、以前からの婚約者である侯爵令嬢宅に「婿入り」してしまったのだ。
令嬢には弟がおり、家は弟君が継ぐ予定だった為、姉である令嬢は王家に入り、王太子妃となる予定だった。
当初兄から「任せた!」と言われた時は、また何時もの冗談かと、のほほんと気にも留めていなかった、あの時の自分を殴ってやりたい。
兄はその言葉を見事に有言実行してしまった。一年の間に各所に根回しし、私の知らぬ間にすんなり婿入りの支度を済ませてしたったのだ。
止めると思っていた両親も「幸せにな!」と心から送り出す始末。
婚約者の令嬢は幼少期から超有能で、王太子妃教育いらないって言われた位優秀だったのに・・・。
兄上だってカリスマ的とか呼ばれ、皆に慕われ、将来この国は安泰だぁ~とか、貴族達からの人気はかなりのものだったのに。
今は二人仲良く弟君のサポートに情熱を燃やしているらしい。
ホント、その情熱を是非とも王家で使っていただきたかったです!マジふざけんな!
と、まぁ家庭での事情はこんな感じなんだけど、ここまで私がこの地位を嫌がるのは、私個人の事情もある。
それは両親を始め誰も知らない秘密。
実は私、「転生者」なのだ。
しかも元の性別は「女性」。
転生前の年齢は二十五歳。
軽いヲタクで、ラノベとか乙女ゲーも一通り通過済み。
死亡原因は記憶にないけど、よくある過労だと思う。勤め先が小さな商社で、人数少ないのに仕事抱えまくって、必然的に従業員は社畜状態。
そのブラックさに頭に来て、辞める一月前に正式な退職届出して、やっと解放!
残念そうに向ける上司の視線と、恨めしそうに私を睨みつける先輩方を横目に意気揚々と退社し帰宅・・・。
でも、それからの記憶がサッパリありません。
本当に、十歳の時記憶が戻った瞬間発狂しそうだったよね。だって、女だったはずの私が「男」になってるんだもん。
昔読んでた小説とかに「TS転生」とかあったけど、けどよ?まさか自分にソレが降りかかるとは思わないじゃない?
あれは客観的に見るから面白いのであって、決して自分がそうなりたいとかの願望があった訳ではないのよ!
まぁ、幸いだったのは、今までレイスリッドとして生てきてきた記憶があったおかげで、そこまで私生活に支障が無かった事かな。
おかげで、女性の記憶を持った男として、精神面では直ぐに安定した。
ホント、十年普通に男として生きた記憶が無かったら、恐ろしい事になっていたこと間違いないよね。
でも、そんな私にもどうにもならない事があったのです!
それは「結婚」という王族の義務。
私はこの国の第二王子として生を受けている。と言う事は、必然的に上位貴族ないし他国の王族や上位貴族との婚姻が義務付けられてた。
まぁ、幸い両親は相手は自分で選んでいいと言ってくれていたので、それらの話をのらりくらりとかわし、逃げ続けていたのだが・・・。
今回の立太により、逃げ切れなくなってしまった。
でも、察してほしい。
体は男でも、中身は元女。
男性として生まれた分、男性としての思考はあるものの、前世の記憶に引っ張られる事がたまにあり、特に恋愛に関しては・・・。
女性と結婚なんて、生理的にホント無理なんですけど!
マイノリティーでの差別はないけど、生前の私はノーマル。
けど、だからと言って、現世で男と付き合うとかもありえない!
できれば一生独身でも構わなかったのに。
逃げ切れないのは頭では分かっていた。
分かってるんだけどねぇ。
結果、目の前に山のように積まれた「お見合い写真」ですよ。
ここ数日国内の有力貴族や諸外国の王族貴族からの釣書が山の様に届いているのだ。
両親にも、いい加減腹をくくれと言われ始めた。
女性と結婚。そして、必然的に発生するお世継ぎ問題。
好きでも無い「女性」と、あんな事やこんな事を・・・。
うん、考えただけで鳥肌が。
「レイス様?両陛下のお言葉では無いですが、本当にいい加減腹をくくられた方がよいかと。そのようにいつまでも逃げ回っていらっしゃるから、陰で「男色」の噂が立つのではないですか?」
「は?それ、初めて聞いたんだけど」