知りたくて
栗の花が落ちる頃、あの人に出会った。
「(こんばんは)」
あの人は、掌を向けた両手を、左右から弧を描くように目の前で交差させる。それから、両手でそれぞれ1をつくって向かい合わせ、おじぎするように曲げた。
長い指と、すこし骨ばった手の甲。わたしはその動きに見とれていて、
「(こんばんは)」
と、真似て返すのがやっとだった。
手話や指文字で、少しでもあの人のことがわかると、わたしのことをわかってもらえると、嬉しくて楽しい。
わたしは、あの人が仲間内で手話で饒舌に話すのを見て、理不尽にさびしくなった。
音楽や読書が趣味のわたしを、あの人はどう思うだろう。
タチアオイがてっぺんまで咲く頃、あの人のことをもっと知りたい、そう思うようになった。