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第4話

 午前10時30分。

 東大学教育学部棟201室にて。


「おはよっ、葵!」


「んん~~、おはよぉ……」


「あれ、どったん? 眠いの?」


「いやぁ、まぁね……そんな感じかなぁ」


「ふぅん。珍しいね、あの葵が」


「そうかもねぇ」


 高梨葵たかなしあおい、現役大学2年生。JKならぬJD、女子大生である。皆さん好物件ですよ。非処女、美少女、三茄子的な―—ご利益があるとは思わないかい?


(——って、何言ってんだか)


 気を取り直して。

 彼女の名前は高梨葵。齢20歳になる現役女子大生である。


 目元はぱっちりとしていて、髪の毛はJD御用達の焦げ茶、ピン止めで前髪をあげているボブ。容姿を見れば100人中90人は可愛いと言うくらいには可愛いと思う。少なくとも友達にはそう言われてきたし、今までも高校の三大美女にも入ったことがあるので自信はある。


 そして、そんな彼女は現在眠たい目を擦りながら中学からの腐れ縁である椎奈瑞樹しいなみずきに肩を叩かれたところだった。


「かもねぇって……バイトとかなの?」


「バイトじゃないわぁ」


「じゃあ課題……いや、課題なんて出てなかったものね。え、何? 私なんてこの通りぐっすりなんだけど」


「この通りって何よ……」


「平常運転ってことよ?」


「バスか何か?」


「——何言ってるのよ、葵。もしかして寝不足で頭まで悪くなった感じ?」


「おい、そんなこと言うのはやめてくれよ……これでも私は後期日程だし」


「あははっ……負け組か」


「むっ‼‼ 馬鹿、私は蹴ったのよ、ていうか私が本当に行きたかったのは教育でもなくて——私立の女子大よ」


「へぇ。そりゃ滅相もない」


「別に滅相はあるわよ……ていうか、何、滅相って」


「えっとぉ……とんでもない、仏語でもあるらしいわね」


「調べなくていいわ」


「葵が言ったんでしょうが」


「あれ、そうだったかしら……」


「えぇ……ほんとに大丈夫?」


「まだだめかもぉ……」


 さすがに眠い。


 いつもなら朝は7時には起きて、予習は欠かさないし、コーヒーを楽しみながら読書だってするくらい余裕があるのだが——今日は別だった。


 いや、正確に言うならば《《今日ではなく昨日かもしれない》》、が。


 とにかくいつも通りではなかった。


(正気ではなかった。私は。普段なら絶対にあんなことは言わない。ていうか言わないようにしようと思っていた。男と言う生き物は野獣で、性獣で——化け物と姉から聞いた事がある)


 だけど、葵はあろうもことか誘ったのだ。自分の方からおいでよ、坊やと。


「淫乱……っあ」


「え、なに? いんら……え?」


「な、なんでもないっ」


(失態だぁ! この事は二人だけの秘密にしようって朝話し合ったのに……こんな早々にヒントを口走ってしまうなんて!!)


「なんでもないから……ほんとっ」


「何よ、そんなに焦って」


「別に……何もない」


「ふぅん……そ」


 いぶかしげに頷く親友。

 ギクッと肩が震えたがとりあえず分かってくれたのだろうか。


「どうせ、好きな男とかなんでしょ?」


(なっ————ば、バレてる!! 昔から勘は鋭いと思っていたけどさすがにそこまでとは……やばい、どう誤魔化そう)


「……なわけ」


「顔に出てるわ、顔赤いもの」


「うっ」


 平然な顔で隣に座り、頬杖をついた。


 そう言われてすぐに突っ伏す葵を見るなり、瑞樹みずきはクスッと笑みを溢す。


「なに顔隠してるのよっ。だいたい……悩み事でさえなかなかしない葵が顔真っ赤にするなら男くらいしかないでしょ」


「……別に違うし」


「声が小さいわよ」


「っ……」


「まぁ、別に詮索しないから安心しなさい。ほら、高校の時から良く告白されてた葵なら私よりも詳しいし大丈夫でしょ?」


「まぁ」


 まぁ、正直大丈夫ではない。

 ほんとに気まぐれだったのだ。


 顔を見たら惚れた。久しぶりに再会したせいで私もどうにかしていたのかもしれないけど、ちょっと気がくるっていたというか今までは男なんて好きでもなかったのに、昨日の夜は別で……。


 初めて人というものを好きになった。


 多分、そう。


 でも、正月のおみくじで「恋人:思い人はすぐそこ、自分から押せ」と書いてあったのもちょっとは背中を押した気がするけど。


 本当に一目惚れしたのだ。大人になった幼馴染の顔に。


「よしっ……ひとまず恋愛は忘れなさい! 今日は小試験があるんだし、そっちが大事よ!」


「うぅ……」


 忘れられるもんか。


 「好き」って言うのよりも先に、あろうもことか「抱いてほしいなぁ……」って言ったのだから。


 お酒も入っていたし、二回もしちゃったし。


 あいつの——気持ち良かったし。


(って、私は何を考えてるんだよ!! とにかく切り替えよう、今日バイト終わりにあいつの家に行くことになってるし……その時に考えよう、とにかく‼‼)


 そう自分に言い聞かせながら葵はほっぺを引っ叩いた。


「えっ、ちょ何?」


「なんでもない! ほら、復習するわよ!!」




 結果など言わずもがな、昨日は保健体育しか勉強してなかった葵は大負けしたのであった。





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