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プロローグ上

やぁ。

「ねぇ……ブラジャー、とってよ」


「えっ。あぁ、うん」


 8畳1Rのなんてことない貧相な部屋の一角。


 皺が出来たベットの上で、背中を向けて座る彼女に下着を渡す。


 今更、後悔したって何かが変わるわけでもない。


 ただ、しょうは思う。


(やってしまった……っ)


 と。


「あっ。その、パンツも取ってくれない?」


「お、おうっ……」


 葵に言われ、翔はベットの下に無造作に置かれたパンツを背中にいる彼女に渡し、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


 渡したパンツが見ないようにしても目に映る。本当に今更だった。


「よ、汚れてるなっ」


「うっさいわよ……余計だわ」


「はははっ……ごめん」


「うん……ていうか、大体、翔の方だって凄かったじゃん」


「……よ、よかっただろ」


「っ——気持ち良かったけど! えと、その、ちょっと痛かったし」


「そっ——それは、初めてだからな」


「……私からしてみれば、痛いもんは痛いわよ…もっと優しくして欲しい」


「わるかったよ」


 薄汚れたパンツ。


 どちらのそれも汗が入り混じってぐちょぐちょに乱れていた。


 いっその事、何も考えずに眠ってしまいたいとすら思うというのに。


 背中の向こうにいる葵を思うと、心臓がバクバクなって嫌でも目が覚める。さっきまで見ていたはずなのに、裸も、声も……お嫁にいけないくらいにエッチで丸裸な彼女の姿を。


 しかし、葵はそんな素振りを隠すかのように立ち上がって。


「翔、明日も大学だし……掃除するわよ」


「あぁ……だなっ」


 そうして二人はパジャマを着て、部屋の掃除に取り掛かった。まるで何事もなかったかのように無言で片づけていく。


 翔は乱れたベットを整えて、葵は体液で濡れたティッシュやコンドームを片付ける。


 ベットの皺と汚れは事の重大さを天に変わって代弁するかのように目立っていて、コンドームは指でつまむとほのかな温かみを感じるほどに激しさを物語っていた。


「出しすぎ……」


「っそ、それを言うなら————葵だって出したじゃん」


 翔はタオルを見ながら言うと、葵はボっと顔を赤らめる。


「そ、それは————なしで」


「今更ぁ」


「うっさいわね……別にいいじゃない。出ちゃったもんは仕方ないでしょっ……」


 恥ずかし気に自白する姿。


 めちゃくちゃ可愛い。どうしてこうなったかなんてどうでもよくなってきて、翔は思わず笑みが漏れる。


「いいから片付けてっ——」


「はいはいっ」


 頬を赤らめながら、キツめの口調でものをいう葵。だいたい、誰だよさっきまでエッロい声で喘いでいたのはよ。


 なーんて。


 ただ、葵の喘ぐ姿はとても印象的で、鮮烈に鮮明に思い出せてしまう。


 1時間がまるで1分の間に起きたかのようで凝縮された気持ち良さがあった。


 何発出したか? 聞かれても答えは出ない。なぜならそれすらも覚えていないほどに翔も我を失っていたからだ。


 初めてのことに、初めての感覚、何より初めての感情だった。


 最初は良かった。服を脱がして、お互いの《《あんなところ》》や《《そんなところ》》を恥じらないがら興味津々に見つめ合っている時は良かった。


 葵はとても純粋で、汚れなど一つない可愛さを見せていた。


 こんな女の子、やれるわけない。

 そんな風に思ったさ。


 だが、決意なんて脆くて、瞬く間に崩壊した。


 まず、互いをリラックスさせつつ、気持ち良くなるように焦らしながら準備をしていく。


 葵の絶妙な色っぽさと肌の白さを見て、翔は徐々に慣れていき、心はだんだんと染まっていく。今すぐやりたい、やってやってヤリまくりたい。


 そして、お互いに焦らし焦らされた反動で、記憶を忘れるほどにやってしまっていた。それはもう気持ちがいい。


 反応を見ながらゆっくりとやっていくが身体も慣れてきて、葵も翔も本能が赴くままだった。




 そう、私と、俺は。


「っ」

「っ」


(自我を忘れ、こいつと裸でアレをこうしていたっ‼)

(自我を忘れて、翔と全裸でコレをあれされていたわけっ‼)


 ほんと、何やっているんだ自分たちは。


 今更遅いんだし、ここは普段通りに、昔の自分たちみたいにしていればいいじゃないか――――――ってできたら楽だった。


 しかし、世界はそうも簡単ではない。


 クソ恥ずかしい。


 後ろでティッシュを拾い上げて、ごみ箱に捨てている葵がどうもこう直視できない。あれ、さっきまで全裸であそこだって見てたんだよ? 


 後ろでズレた絨毯直してる翔が全く見れない。私、あんなみっともない顔で声出してたのに、なんで今更。


 お互いもはや精神状態は変な意味でギリギリだった。


 黙れば黙るほどにお互いを意識して、感じちゃって、思い出しちゃってたまらない。たまらなく苦しくて、ドキドキして、これが大人の世界かと絶句する。


 父さんと母さんは随分と凄い世界に生きてたんだな、マジで。尊敬に値しまくってエジソンなんて話じゃないくらいだよ、まったく。


 って、何を考えているんだと翔は自分の頬を叩く。


 後ろでパチンと音がして、ビクッと肩を震わせる葵。




 第三者の私から言わせてみれば、まぁ、これはもう絡まって、から回っている。




 ————だが、そんな気まずくも恥ずかしい状況は何気ない日常によって壊される。






 ピンポーン。

「宅急便でーす!」


 甲高い音とともに、陽気なお兄さんの声が玄関の方から聞こえてきたのだった。


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