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世界  作者: 田島 学
5/16

事件

「そんな顔してるってことは、収穫は無かったみたいだな」

ゴウが口角を上げ、嫌らしい顔でこちらを見てくる。

さっき、森から帰って来たばかりなので、まだシャワーも浴びれていない。

間が悪い時に連絡が来るのは、いつものことだ。

イデアが映し出す上司に向かって、今日の進捗を一通り話す。

ゴウは話を聞きながら、携帯を見ている。

今に始まったことではないので、気にせずに話を続ける。

「そんなわけで、これからどうしようか迷っています」

あてにならないとは思いつつも、相談を持ち掛ける。

このまま取材を続けるべきかどうか、答えを出せずにいた。

他にもネタはあるので、この件にだけとらわれる必要はない。

ただ、ウィトゲンが言った言葉が頭に引っかかっている。

ゴウは何日も洗っていないであろう髪をかきながら、こちらを見てくる。

決めるのは俺じゃないという気持ちが、ありありと伝わってくる。

沈黙に耐えられなくなり、とりあえずは直接の訪問は避け、情報収集する方向で落ち着いた。


地下鉄を乗り継ぎ、国立図書館へ向かう。

図書館の最寄り駅に到着した時、ゴウからの連絡が入った。

近くのベンチに座り、テレビ電話を取る。

画面越しに、昨日と同じ服装のゴウの姿が映る。

また風呂に入らなかったのだろうか。

画面越しに菌が届く気がして、嫌な顔になる。

ゴウはそれに気にも留めず、要件だけを伝える。

「ポルソネス学院で発砲事件が起こったらしい。至急現場へ向かってくれ。

 必要あれば応援を送るから。とりあえず状況が分かったら連絡くれ」

こちらの返答を待たずに、電話が切れる。

事件が起きるなんて、何年ぶりだろうか。

ポルソネス学院の場所を携帯に告げると、瞬時に地図が画面に表示される。

ここから歩いて15分の場所にある。走れば数分で着くだろう。

偶然にも現場に一番近くにいたので、自分が選ばれたのだ。

運が良いのか、悪いのか。

頭を傾げ、小走りで地上へ繋がる階段へと向かう。


学院の前には、複数の取材班が既に駆けつけていた。

大手のネットチャンネルのロボット記者が門の前に立ち、現状をユーザーに伝えている。

記者の比率で言うと、ロボットと記者が半々だろうか。

上空にはいくつものドローンが飛んでいる。

どうしようか右往左往していると、その集団の中に知った顔がいることに気づく。

他社の取材班に所属しているユウヤだ。

視線を送っていると、程なくしてこちらの存在に気づいてくれた。

ユウヤは片手を上げながら、笑顔でこちらに向かってくる。

「サハルちゃんも来ていたんだね。

 本当にこんなことが起こるなんて信じられないよ。

 犯人は捕まって、少し前に連行されたらしい。被害者が結構な数いるって」

先ほどの笑顔が嘘のように、神妙な面持ちになってユウヤが伝えてくる。

ユウヤが私に対して、好意を持っているのは分かっている。

過去に何度か、2人で食事に行ったこともある。

また誘われるかもしれないと思いつつ、それを餌に状況を確認する。


犯人は17歳の少年で、同じクラスの生徒や先生を銃で撃ち、重軽傷を負わせている。

既に数人の死亡も確認されている。

犯行の動機や、銃をどうやって手に入れたのかは、現在取り調べ中だという。

ここ数十年を振り返っても、大きな事件であることは明白だった。

殺人が起きたことなど、私の記憶ではない。

それも、学生がこんなにも凄惨な事件を起こすなんて。


携帯にゴウからの着信が入る。こちらから、連絡をするのを忘れていた。

現状分かったことを、端的に話していく。

一通り聞き終えた後、応援が必要かを確認してくる。

それを断ると、ゴウは引き続き調査を続けるように言い、電話を切る。

門を越えた向こう側で、多くの人が傷つき、苦しんでいる姿が頭に浮かぶ。

それが、9.11のテロの光景と重なってくる。

あの時よりも、現実として受け入れられないでいる。

まだ死を、現実のものとして理解出来ていないのかもしれないと思った。

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