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世界  作者: 田島 学
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出会い_Ⅱ

その言葉を聞くまで、何の疑いもなく自分は幸せだと思っていた。

彼は、それを真っ先に否定してきた。

今までの人生を振り返っても、不幸だと感じたことは無い。もし、これから不幸が起こるとすれば、他者に危害を加えられることぐらいだろう。

拳銃で撃たれれば、即死してしまう。

不老不死だと言っても、死が完全に無くなった訳じゃないのだ。

ただ、今ではそういった事件も見なくなった。

他人同士のいざこざが無くなったからだ。

その要因としては、貨幣の存在が無くなったことが大きいだろう。

人間が暮らすのに必要なものは、全て機械が生産を担っている。人工知能が、農作物の生産から出荷を管理し、衣食住に関わるものを機械が一手に引き受けている。

富は国が等しく国民に分散し、富裕層や貧乏人などという言葉は死語になった。


事実上、人間はお金のために働く必要はなくなった。誰もがそれを喜び、人生を謳歌出来ると思っていた。

だが、皮肉なことに、最初の内は遊び呆けていた人も、次第に何かの職業に就くことになった。

持て余すほどの時間の使い方を、国民は知らなかったのだ。かく言う私も、それに倣って記者をしている。

貨幣の代わりに、労働の対価としてリアというポイントが貰える。リアは、タイムトラベルに利用出来、それによってタイムスリップする年代と滞在時間が与えられる。

勿論、タイムスリップで歴史に影響を与える事は出来ない。そんな事をしようとした時点で、強制的に戻されてしまう。私も数回、タイムスリップをした。

前回行ったのは、ツインタワービルが崩壊した9.11のテロの現場。

実際に、飛行機がビルに激突した瞬間に居合わせた。

凄まじい爆風と衝撃で、立っているのもやっとだった。人々が泣き叫び、よく見ると、ビルからは人が飛び降りていた。これが実際に起こったことだと、信じられなかった。あれ程までに、恐怖を感じたのは初めてだった。死とはこういうものだと、身を持って感じた。


携帯がゴウからの連絡を告げる。

応答しますかと携帯が聞いてくるが、放っておく。

呼び出し音が切れるのを待ち、音声保存された伝言を確認する。

「お疲れさま。取材の具合はどうだ?

まぁ、期待していないから、気軽にやれよ。

掲載の枠も、そんなに用意してやれないから。

何かあったらまた連絡くれ」

相変わらず、人の心を逆なでする声で言ってくる。

期待していないとは、私になのか。

それとも、取材対象になのか。

確かに、今回の取材に対して、ゴウの反応は良くなかった。人が面白がる内容じゃない事は、自分でも分かっている。それでも、彼について知りたいと思ったのは、テロへのタイムスリップが影響していると思う。

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