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第4話 勇者御一行、呪いのことを打ち明ける

 アネモネの案内もあり、無事最終ダンジョンである魔王の神殿からまんまと脱出した俺達は、一先ひとまず一番近くの村へと避難した。


 村に入るや、村人達は俺達の生還、凱旋を喜び、宴を開こうと言ってくれたが俺達はそれを拒否。

 とにかく一刻を争うという時に、宴なんかして酔い潰れ、無駄にする時間はない。

 何より、死を身近に控えた状態で宴なんて楽しめるはずもないだろう。そっちの方ばっかり気になってしまい、食べ物の味もわからなくなりそうだ。

 ゆえに、凱旋パーティーは全て終わった後だ。



 そんなこんなで、俺達は宿屋に着くと、まず一目散に道具屋に光のお札 (呪い解除のアイテム)を買いに行き、その場で使ってみたがまさかの効果なし。

 残された頼みの綱はこのままベッドで休み、回復を待つ方法があるが、これは問答無用で一晩明けてしまうため、この後の次なる手段となる。

 となれば、まずは一旦諦めて、戦いで疲れきった体を休める他ないだろうと判断し、入浴の時間を取っていた。



「勇者よぅ、これからどうするよ?」

 と、体を洗いながらエイオス。


「どうするもこうするも、呪い解除のアイテムも効かないとなるとなぁ。寝ただけで回復出来るとも思えんし、他の方法を探すしかないのかもな」

 と、頭を洗いながら俺。


「呪いを解くにしても、僕らにはまず先にやらなきゃならない事がありますよ」

 と、体を流しながらギル。


 先にやらなきゃならない事?

 呪いを解く事よりも優先的な事なのか?


 そうです、とギルは頷き、

「仲間にした以上、魔王にかけられたこの呪いの事を、アネさんに打ち明けなくてはなりません。これから一緒に呪いを解く旅をするワケですから。質問さえして来ませんでしたが、さっきの道具屋でのやり取りも不思議そうに見ていましたし」


「ちょ、おま……正気か!? 本当にアイツを信用していいのか? アイツ、俺達が呪いで弱体化しているなんて知ったら、それこそここぞとばかりに親の仇とか言って襲って来るんじゃないのか?」


 俺の心からの心配を、ギルは鼻で笑った。


「ジョエルさんが彼女に対して本当に心を開いていないから、彼女もあんな態度なんですよ。アネさんはまだ幼く、心の優しい魔物です。現に僕らが今ここに居られるのだって、アネさんの案内があったからだ」


 いや、そりゃ確かにそうだが。


「それに、魔王を倒す為、レベルを上げる為とは言え、僕らが彼女の両親を惨殺ざんさつしてしまった事実は変わりません。彼女とこう言う仲になった以上、保護者として面倒を見てあげる事が、彼女の両親に対して、一つのけじめになるんじゃないかと思いまして」


 こいつはホントバカ真面目だな、と俺は思った。

 だってそうだろう。たまたま俺達はアネモネと遭遇し、仲間となった。

 しかし、もしその過程で他の魔物も、俺もお前達に親を殺された! 責任とれ! って言われ、言われるがままにいいやいいやで仲間に引き入れてみろ。

 レベルMAXまで上げるのにどれだけの魔物を倒したと思っている? 一瞬にして大家族になってしまうぞ。


「まぁ、頭の良い魔物は人間の心がわかるって言うしなぁ」

 と、エイオス。


 そうなのか?


「特に元々半人半魔なアラクネーだ。他の魔物に比べれば知能だって高い。こちらに本当に戦う気がないとわかったから、アネだって仲間になりたそうにこちらを見てきたんだろう。敵対心を感じなかったから、俺達が言うように、人間と魔物が共存できるんじゃないかって言葉を信じたんだろうよ」


「確かに、俺達はあの時如何にして戦わずにあの場を切り抜けるかしか考えて居なかったもんな……戦意と言う戦意は微塵みじんもなかったと言っても良い」

 言いながら、俺がアネモネに対して心を開いていないのを、アイツ自身が感じ取っているから、アイツも俺への態度を、当たりをきつくしていると言うのも納得できた。

 仲間に迎え入れた以上、ちゃんと向き合わなければいけないのは俺の方だったんだ。


 その時、

「あかん! 勇者! ギルちゃん! やけどだ! やけど負った!! 助けて!」

 エイオスが叫び出した。


 やけどだと? ただお湯かぶっただけじゃないのか?


「そうか!」

 と、ギルは何かに気付いたようで、

「エイオスさんの防御力が紙過ぎるんです! だからこんなお湯程度の熱さでもやけど状態になってしまったんだ!」


 まじでか! 俺も防御力は0だが大丈夫だぞ?

 防御力マイナス300にもなると、こんな普通のお風呂のお湯程度でもやけどしてしまうのか。


 俺とギルは渋々ながらエイオスを連れて風呂を出ると、道具屋にオ○ナインを買いに行った。

 このやけどは呪いとは関係のない普通の入浴時のものだし、さすがに薬も効くだろう。



 ◇


「美味しいぃいいい! 良いなぁ! 人間はいつもこんな美味しいもの食べてるんだぁ!」

 宿屋の何てことない普通の食事を、感涙かんるいを流しながらアネモネは頬張った。


「これくらい、って言っちゃうと語弊ごへいがあるけど、私でもこれくらいの物なら作れるから、今度振る舞ってあげるわね」

「本当!?」

 ニアの言葉にアネモネは目を輝かせる。


 一方の俺は、いい加減本題に入りたいのだが、見るもの食べる物全てが新鮮なアネモネがテンションを上げすぎていて、なかなか本題に入れずにいた。


「しっかし、酷い目にあった……」

 と、エイオスが未だヒリヒリしている頬を庇う様に擦った。

「エイオス、何かあったの?」

 そんな様子を見ていたアネモネがエイオスに問う。

 これはチャンスじゃないか?

「あぁ、風呂でお湯をかぶったらやけど状態になったんだ」

「あのお湯で!?」

 素直にツッコミを入れてくれたアネモネ。


 俺はここぞとばかりにギル達とアイコンタクトを取り、頷き合う。

 今、打ち明ける時。


「アネさん、僕たちはあなたに話しておかなければならないことがあるんです」


「え? 何?」

「実は、僕らは呪いにかけられてしまったんです」

 説明するはギルバート。

 アネモネが一番慕っている訳だし、ギルが言う方が信じてもらいやすいだろう。

 しかし、凄く重い切り出し方をしているのに、改めて、なんてマヌケな話なんだ。



「何それ、笑えるんですけど!?」

 と、一部始終を聞いたアネモネは無邪気に笑った。

 笑い事じゃねぇんだよ。


 俺が、

「これを見てくれ」

 と、さっき拾った魔王の呪いリストをアネモネに手渡してやると、

「何これ!? ギャハハハハ!」

 今度は腹を抱えて笑い出した。

 だから笑い事じゃねぇんだって。


「え、じゃあ何? エイオスがお風呂のお湯でやけどになったのは、防御力がマイナス300になってるからなの?」

「十中八九間違いないね」

 と、エイオスは頷いた。

「で、ニアは魔法を全部忘れて、ギル様とジョジョの剣は斬れない剣になって……」


「まぁそう言う事だ」

 俺も頷いた。


「だから私と遭遇してもいつまでも攻撃してこなかったんだ……」


「でも、もう戦う気がなかったと言うのと、人間と魔物は共存できるはず、と言うのは本心です。例え呪われていなかったとしても、あそこで出会ったあなたを倒す事はしなかった」

 ギルが補足する。

 しかし、アネモネは浮かない顔をすると、黙り込んだ。


 今がチャンスと言って襲ってきたりしないだろうな?


 万が一に備え、俺はいつでも逃げられるように椅子に浅く座り直す。


 すると、

「ねぇ、この最後に書いてあるのも……本当なの?」


 アネモネがリストの最後の一文。レベルが0になった時、俺達はもれなく死ぬ。と言う部分を指さす。


 そして、

「さっき道具屋さんで呪いがどうのって言っていた意味……わかったよ」


 参ったな、と言う表情をしながらも、

「レベル170だった私達のレベルも今や163……さっきステータスを確認したら素早さと運のパラメーターが下がってたわ」


「一日当たり24レベルが減るので、残りのレベル数的に、実質後6日と19時間……と言った所でしょうか」


「呪いの7日間って、貞子かよって感じ? 即死にしないでジワジワって辺り、魔王も嫌らしい性格してるよな」

 ニア、ギル、エイオスが各々に言葉を吐く。


「嫌だよ……」

 と、アネモネが小さく呟いた。


「あん?」


「……折角仲良くなれたのに! 皆が死んじゃうなんて嫌だ!」

 叫ぶアネモネの目には大粒の涙が溢れていた。

「アネちゃん……」

 自分も目頭が熱くなっているのを感じながら、ニアがアネモネを抱き締めた。


「無論」

 と、二人の、否、皆の様子を見ていた俺も言葉を紡ぐ。


「俺達だってこのまま何もせずに死ぬつもりはない。呪いを解く方法ってのは絶対にあるはずだ。この7日間以内に呪いを解いて、皆で生きて始まりの街に戻る。本来なら魔王を倒して終わっていた旅が、とんだ遠回りをする事になっちまったがな」


 そして、今一度泣きじゃくるアネモネへと視線を移し、

「アネモネ。こちらも必死だったとは言え、さっきは酷いことを言ってすまなかった。今、俺達の戦力は0どころかマイナスだ。万が一戦闘になれば即終了状態。だからもう一度、こちらから正式に頼みたい。俺達の仲間となり、お前の力を貸してはくれないだろうか」

 言って、深々と頭を下げた。


 勇者勇者と持てはやされ20年、か。

 頭を下げられる事はあったが、こうして自ら頭を下げたのなんていつぶりだろうか。


 俺達の頼みをしかと受け止めたアネモネは嗚咽おえつを抑えながら、

「当たり前じゃん……私達、もう仲間でしょ……?」


 ありがたき御言葉である。


 俺が右手を差し出すと、アネモネはいつになく優しげな表情でまた、右手を差し出した。


 これは、俺も仲直り出来たと思っていいんだよな?



 こうして、マヌケな事に最強だったのに最弱となってしまった四人に、雑魚の中では最強 (最終ダンジョンの最深部出身)の一匹改め一人が加わり、呪いを解く為のエクストラステージが始まるのであった。



 呪いのカウントダウン

 運命の刻まで

 あと6日 (レベル163)

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