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第2話 勇者御一行、まさかの魔物に命乞い!?

 よぅ、俺の名はジョエル・ジョークハルト。

 冒険をしながら行く先々の賭場とばを荒らす、さすらいのギャンブラーだ。

 その破天荒な冒険っぷりから、人は俺の名を略し、この冒険を、

 ジョ○ョの奇妙な冒険と呼ぶ。

 さぁ、今宵こよいはどこの賭場を荒らそう────


「勇者さぁ、現実逃避もいい加減にしとけ?」

 と、俺の渾身の自己紹介を遮り、見知った顔が俺の顔を覗き込む。暗殺者エイオスである。


「まぁね、目を背けたくなる気持ちはわかるよ? 俺達もお前と同じ立場だもん。でも、もう腹括るしかないっしょ。こんな魔物の巣窟そうくつに居たらいつ襲われるかわからんもん」

「ちっ……わかっている」


 そうだ。俺達は魔王を倒したにも関わらず、魔王の負けず嫌いな性格のせいで、全員がその身に呪いをかけられてしまった。


 基本的には魔王のせいだが、こうなると呪いも跳ね返せない聖剣に対してもイライラしてくる。

 ただの剣ではなくて聖剣だぞ? なんで聖なる力で呪いの一つも跳ね返せないのか。

 なんでこんな事になっているのか。

 第1話を思い返しただけでも腹が立つ。謎の語り手の少年は人の気も知らずに勝手に何か語ってくれているし。そもそも誰だよアイツ?


 ずっと良い感じだった。順風満帆だった。

 なのに何で俺達が最後の最後にこんな目に遇わなくてはならないのか。


 大きく溜め息を吐き、俺は一度ここまで死線を潜り抜けてきた仲間達を見つめる。

 剣士・ギルバート、魔術師・ニア、暗殺者・エイオス。彼らは黙って俺の指示を待っている。


 そうだ。どんな辛い道のりだって、俺達は皆で乗り越えてきた。

 そして最大の敵である魔王との闘いに打ち勝ち、皆で仲良く呪われた。

 言わば運命共同体。俺が辛いのなら、きっと彼らだって辛いはず。

 一刻も早く、この呪いを何とかしたいと思っているはず。

 俺ばっかりが辛いと思ってしまうのは俺の悪い癖だ。


 俺は一人、大きく頷き、

「これより、この道を引き返す。神殿内にはまだ魔物はたくさんいるはずだ。エンカウントしたら最後と思って、全員死ぬ気で隠密おんみつに動け」

「道は覚えてるの?」

 と、魔術師ニア。

「いや、わからねぇ。だからとりあえず迷いながらになるが……」

「言うほど迷路みたく複雑ではなかったはずです。エンカウントさえしなければ、然程さほど迷うことはないでしょう」

 なんて言うくらいだ。剣士ギルは道に自信があるのであろう。

 道案内はギルに任せ、俺は敵の動きの探知に注意を払うことにする。


 よし、

「それじゃあ、行くぞ……!」

 皆は静かに頷いた。


 俺は魔王の間の大きな扉に手を当て、押し開く。

 入る時は感じなかったが、今となってはこの扉がやけに重く感じる。

 これも呪いで腕力がなくなっているせいなのだろうか。


 何はともあれここからは静かに、バレないように────



 アラクネーが現れた!



「いや何でだよぉおおおおお!!!」


 嘘だろ? なんで?


「あ、これ多分ちょうど扉の前にいた感じじゃない? そこで勇者が開けて出ちゃったから、出会い頭にって感じの」

 と、エイオス。

「ちょ、えぇ……」

 予期せぬ唐突な戦闘に、俺は固まる。


 アラクネーだと?

 人間の女性の上半身と、蜘蛛クモの様な下半身を持つ魔物だ。

 魔王戦の前は経験値効率も良かった為、散々狩らせて頂いた相手だが、こいつから一撃でも食らったら死ぬとわかって居ると恐怖以外の何もない。


「ど、どうするんです……?」

 と、目を泳がせながらギル。

 そんなの俺が知りたい。


「幸いにもこっちが先制取れてるから、ちょっとどうするか考えようよ」

 ギルの後ろから顔だけ覗かせたニアが小声で提案する。

 てか何隠れてんだ。卑怯だぞ。


 とりあえず、俺は考える。

 いつまでも俺達が攻撃してこない事に、アラクネーが頭の上に?マークを浮かべているが、ちょっと待て。


 まず、攻撃・防御と言ったコマンドはまずい。

 攻撃力が皆無な時点でヤツにダメージは与えられない。無傷でヤツのターンになり、誰かに攻撃が行く。

 今の俺達に運良く回避する事なんて出来ないだろう。間違いなく誰かしらはやられる。


 同様に防御なんてのもダメだ。

 このステータスではまず間違いなく一撃でアウト。

 エイオスに関しては転んで尻餅をついただけで死にかねない。


 となるとどうする?

 魔法もニアが全部忘れている今無意味。アイテムも世界獣せかいじゅうの歯一個じゃ攻撃アイテムにもならない。


 逃げるコマンドも使えない。


 やはり詰みの状態だ。



「ちょっと……まだ、ですか?」

 と、いつまでもコマンドを選ばない俺達に痺れを切らしたアラクネーが口を開いた。

 が、今は無視だ。


「お前ら、どうする」

 俺は小声で仲間達に聞く。

「さっき、本当に剣の切れ味が悪くなっているのか気になったので、エイオスさんを斬って見たのですが、切れ味が悪くなった所か、まるで新聞紙チャンバラみたいな強度になってしまっていました」

 と、ギルが悔しそうに言った。

「え? いつの間にそんな実験したの? 斬れなかったから良かったかもだけど、なんで俺で実験してんの? 今俺の防御マイナス値だからね? 斬れなくても死ぬ可能性あるんだからやめてくんない?」

「すみません」

 エイオスがギルにマジ説教を始めたが、さすがにエイオスの言う通りである。

 ギルも申し訳なさそうに謝っている。


 待てよ、と俺はひらめいた。

「剣の切れ味はともかく、投げて打撃型の武器にしちゃうとかってのはどうかね?」


 俺達が手にしている限り切れ味が悪いのなら、手放したらどうなるのか。

 もしそのままの切れ味なら打撃型として、

 万が一にもそれで切れ味が普通になり、まんまとヤツに刺さってくれればダメージは与えられる。

「でも、仮にそれで剣の切れ味が戻ったとしてもヤツを一撃で倒せるとも思いません。もし剣を引き抜かれ、自らの武器として使われたらそれこそ僕らは手も足も出せませんよ」

 ギルの意見に俺はむぅ、と顎に手を当てる。


 それか、エイオスの防御力はもう皆無だが、暗殺者なら暗殺者らしく、俺達がヤツの気を引いている内に背後に回ってもらい、スニーキングキルしてもらうか。


「あのぉ、もう早くしてく────」

「ちょっと待てっつーの!!」

 再び痺れを切らしたアラクネーが口を開くが、俺は仁王の如く形相でそれを遮って叫ぶ。

 が、

「ちょ、静かにしなさいよ! 今の声で他の敵が気付いてこっち来たらどうすんのよ!」

 と、更にニアが俺の胸ぐらを掴み上げ、小声で叫んだ。

 そうだった。危ない危ない。


 幾分か冷静さを取り戻した俺にアラクネーは、

「あのぅ、この雑魚、どう言う殺し方してやろうかwとか思ってるんでしょうけど、舐めプするなら舐めプするで良いんで、もう早く一思いに殺してくれません?」

 俺達と戦闘になったことで、すっかり死を覚悟していた様だ。

 おまけに、

「なんでこんな所通っちゃったんだろう。私ってホント馬鹿」

 と、心境を吐露とろする始末。

 普段ならそうしている所だよ、アラクネーのお嬢さん。

 だがな、今キミは魔王を倒した勇者御一行より遥かに強いんだよ。生半可な戦略で戦おうもんなら、俺達全滅しちゃうんだよ……


 それを見ていたエイオスは、

「なぁ勇者。このアラクネー、俺達が呪いで弱体化してることを知らないのなら、それを利用して追い払えるのではないか?」

 と、耳打ちしてきた。


 なんだと?


「いやほら、そのまま聖剣ちらつかせてさ、死にたくなければ逃げて良いんだぜ?って。相手さんもこの戦闘は故意ではなく不慮の事故だったっぽいし。大手を振って逃げていくかも知れないぞ?」


 エイオスの案に、ギルとニアもいいじゃん! と賛成した。


 こいつは天才かよ? 確かに、今はその方法が一番穏便かも知れない。

 戦闘面ではあまり活躍しないエイオスだが、参謀として時折神がかり的なアイディアをくれる所は素直に認めている。


 善は急げと思った俺は、おもむろに鞘から聖剣を取り出し、

「死に急ぐな雑魚魔物め!」

 剣の切っ先をアラクネーに突きつけた。


 ぐっ、とアラクネーに力が入るのを感じた。


「俺達は強い。貴様のボスである魔王よりもな! そんな俺達にしてみれば、貴様一匹を殺すことなど造作もない……魔王と同じように、貴様もこの聖剣の錆びにしてやろうか?」

 言いながらも、内心俺はびくびくしていた。

 台詞の途中にも関わらず、ヤツが自棄ヤケになって襲いかかってくる可能性だってあるのだから。


「なんか、勇者……魔王より魔王っぽいね」


「魔物からしたら、我々も十分正義の味方サイドの魔王みたいなモノですからね」

 と、俺の名演技の傍らでニアとギルがこそこそ話をしている。

 聞こえているぞ。


「よし、勇者! もっと押せ! 高圧的に! サイコな感じに!」

 セコンドとなったエイオスが俺にアドバイスを飛ばした。


 サイコな感じ……?


「ふ、ふひひひ! どこから切り刻んでやろうか……手か? 足か……それとも目玉をえぐり出すか……? じっくりなぶり殺してやるぜぇ!」

 言って、俺は聖剣にペロリと舌を這わせる。

 サイコな感じってこんなんでいいのか?


 俺に脅されているアラクネーは、

「この悪魔め……! 末代まで呪ってや────」

「呪いとか言うな!!」

 デリケートになっている部分を口にされ、対する俺もつい声を荒げてしまう。


 アラクネーはビクッとすると黙り込み、

「もう嫌だよぉ……一思いにと言っても攻撃もしてこない。こんな死を待つだけの時間なんてぇえええ」

 泣き出した。


「あーあ、泣かしたぁー」

 ニアの言葉に、俺は指示を出してきていたエイオスへと振り返ると、

「言い過ぎだぞ、勇者」

 他人のふりをしてそう言った。

 こいつマジぶん殴るぞ。


 そんなやり取りの最中、ここぞとばかりに行動を起こしたのはギルバートだった。

 命の危険があるにも関わらず、何を思ったのかギルは泣きわめくアラクネーの元へと駆け寄る。


 そして、アラクネーの脇で腰を下ろすと、魔剣をこれ見よがしに放り捨て、

「もう魔王との戦いは終わりました。私達は、これ以上魔物と戦うつもりはありません。だから、お行きなさい」

「え?」

 アラクネーが不思議そうな顔をする。


「おおっと、ギルちゃんこれやってくれたんじゃないの?」

 ギルバートの行動に、エイオスはニヤニヤ笑った。


「やっぱこう言う役は勇者よりギルの方が適任だよね」

 と、ニアも続く。


 ちっとも面白くない。美味しいところだけ持っていかれた気分で釈然しゃくぜんとしないが、今は事の成り行きを見届けた。


「なんで……」

「言ったでしょう。我々の目的は最初から魔王の討伐。あなた方だって、人々や村を襲っていたのは、魔王の指示があったから。それがなくなった今、あなただってもう人を襲うことはしないでしょう。人を襲う気のない心優しい魔物を殺すつもりなど、我々にもありませんから」

 言って、ギルはニッコリと微笑んだ。


 凄い。この演技力、剣士をやっているのが勿体ないくらいに思える。


 ギルに諭されたアラクネーは、

「ゆ、勇者様ぁあああああ!」

 叫びながら、まさかのギルバートに抱きついた。


「ギル!」

「大丈夫! 大丈夫ですから!」

 ギルは抱きつかれた衝撃で体力をごっそり持って行かれたりしていませんよ、大丈夫です。と言う意味で大丈夫と言ったのだが、

 俺がギル! と叫んだのは別の理由だ。


 勇者様は俺ぇえええええ! 確かにやりたくなかったとか言ったけど俺だから!

 お前も勇者はあの人ですよと教えてやれ!?


「まぁ、勇者はさて置き」

 と、エイオスが手をパンパンと叩きながら前へ出る。さて置くな。


「そう言うわけだ、アラクネーのお嬢ちゃん。見逃してやるから、とっとと消えな」

 こいつもこいつで良いとこ取りしようってか。


「お父さんとかお母さんにも、もう人間はあなた達を襲わないから、あなた達も人間を襲ったりしないでと伝えてくれる?」

 と、ここぞとばかりにニアも出張る。

 どいつもこいつも美味しいとこどりかよ。


 まぁしかし一件落着か。

 一時はどうなるかと思っていたが、なんとか生き長らえることが出来た。


 そんな事を思っていると、

 ギルから離れたアラクネーは、

「お父さんとお母さんは、あの人に殺されました」

 と、俺を指さした。


「……俺?」

 一斉に皆が俺を見る。

 俺一人じゃないよね? 皆でやっつけたんだよね?

 なんで俺だけ悪者みたいな感じになってんだよ。


「すみませんでした」

 と、ギルが申し訳なさそうに深々と頭を下げる。

 だからなんで俺達が悪いことしたみたいな空気になってんだよ。世界を救ったんだぞ? その為に魔物を倒しただけだぞ?


「ごめんね。これからは、人間と魔物が共存できる世界になるといいわね」

「そうだな。お互いにない部分を補い合えば、世界の文明は一気に発達するかもしれない」

 と、ニアとエイオスがまとめに入る。

 なんで勇者の俺が置いてけぼりになってるんだよ。


 すると、何かに気付いたギルが俺に言葉を投げ掛けた、

「ジョエルさん! アラクネーが!」


「ん?」

「仲間になりたそうにこちらを見ています!」


 なんだと? 魔物が仲間になりたそうに……?


 一瞬にして俺の脳内に様々な憶測が飛び交う。

 確かに、今俺達のパーティは戦力的にも壊滅していると言っても過言ではない。

 魔物が仲間になってくれるのなら、これ程心強い事はないだろう。

 しかもラストダンジョンの敵。そこそこ強い。何より、この神殿内の案内役としては適任だ。


 だが、こいつは仲間になったフリをしただけで、裏切って俺達を襲ったり、人間を襲ったりしないのか?

 万が一寝ているときにでも奇襲を受けてみろ。一発で死亡してしまうぞ。


 俺が一人、葛藤していると、

「うっほマジで! いいじゃん心強い!」

「嬉しい! このパーティ女一人でむさ苦しいしつまらなかったんだぁ♪」

 と、約二名は大賛成の様だ。


「絶対に迷惑はかけないから! お願い!」

 アラクネーも必死に懇願こんがんする。


「ジョエルさん! いいですよね!?」

 ギルが更に俺に問う。

 あくまで、俺の意見待ちと言うことか。


 どっちみち出会ってしまった魔物を倒す術も、逃げる術もない。

 が、こうやって仲間にすれば、それで戦闘は終わると言うわけか。



 今は闇討ちされないことを祈りながら、こいつの仲間入りを受け入れるしか他無さそうだ。


「ったく、仕方ないな」

 俺はコメカミをかきながら、ばつが悪そうに言ってやった。

 そんな俺の返事を受け、

「やったぁ!」

 と、皆が皆歓喜の声を上げる。


 が、まじでいいのか? お前ら正気か?

 魔物だぞ? 本当の本当に魔物を信じてもいいのか?


 俺の心配を他所に、連中は嬉しそうだ。



 何はともあれ一件落着、俺も輪に加わりますかね。

 と思った時、

「私はお前だけは許さないっ……! 悪魔の化身め!」

 アラクネーがキッと俺へと向き直った。


 Wow! こんなのってある?


「嫌われたもんだな、勇者」

 思わず目を丸くしている俺を見て、エイオスが笑った。

 元はと言えばお前の作戦のせいだろ? 何笑てんねん。


「よろしくね♪ えーっと、アラクネー……ちゃん?」

「よろしくお願いします、ニアさん♪ 私の事はアネモネと呼んでください♪」

 女子二人はすっかり打ち解けていやがる雰囲気だ。


にぎやかになりますね!」

「よろしくね♪ 勇者様♪」

 ギルに関してはすっかり受け入れ態勢だ。

 しかも相変わらずアラクネー、改めアネモネはギルを勇者だと思っている始末。

 

 俺は一度舌打ちすると、

「ったく、とにかくここから出るぞ」

 一人先頭を切って歩き出した。


 後ろの賑やかな声を背に、俺は飛びっきり大きな溜め息を吐いたのであった。



 呪いのカウントダウン

 運命の刻まで

 あと7日 (レベル168)

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