第一話 文化祭
学園・学校の雰囲気、というものを時にシリアスありで書いて行く予定です。
沈みゆく太陽がもうもうと夕日を校舎に照り付けている。
『華山市立鳳翔高校平成二十年度文化祭は、ただいま午後六時をもって終了となります。また来年もお待ちしております。』
「お、終わった・・・」
放送部の流暢なアナウンスを聞きながら、大和壮平は大きなため息とともに手近な机に上半身を突っ伏した。
「総長ぉ、片付け手伝いなってー。」
クラス副委員長の波山恵美が鉄板を洗い場に持って行く途中、壮平に声をかけた。
「・・・まだ、働かせるのかよ」
クラス委員長という貧乏くじを三年生になり早々に引き当てた「オトコ・大和」は、事ある毎に厄介な役を押し付けられていた。
高校生活最後の文化祭で「お好み焼き屋」をやると決めたはいいものの、文化祭まであと二週間もない。
「じゃぁ、何か意見はありませんかー。」
投げやりな質問だが、皆もう三年だ。これ以上手の込んだことはないだろうと、ボーっとクラスを見渡していたとき、
「はい!どうせやるなら本格的にやった方がいいと思います!本場の味を作りたい!」
いわゆるムードメーカーの水筆が、起立しながらこぶしを天に向けて発言した。
無論、このクラスには「本場」を知る人間なんていない。
お開きモード全開だった壮平は「また面倒なこと言って・・・」と、さも嫌そうに発言した。
「本場なんていいだろー。そもそも食というものは環境に合わせて変化してきたわけで、歴史的に見ても・・・」
「というわけで、大和君に本場・大阪を歴史的に見て調査してもらいたいと思う人は、挙手をお願い致します」
いきなり後を受けた波山に、皆が一瞬きょとんとする。
「本場を知らないなら、知ればいいんです。だから、クラス委員長である大和君に本場を調査してもらうと言うのはどうでしょうか?」
「見ても・・・え?」
適当に話をしていた壮平はギョっとした顔で左後ろの自分の補佐を見た。
「はい、もう一度挙手をお願いしまーす。」
にこやかに呼びかける補佐、波山。
「厄介事は大和君」を合言葉に、全員にこやかに挙手。
何も言えず目が点になる、クラス委員長。
愕然とする壮平を置き去りに、「本場を知るための企画・進行」は副委員長の進行でトントン決定していく。
交通費は、波山を中心とする「自称・三年二組経理部」が慎重に審査した結果、往復の深夜バス代を皆でカンパすることになった。
かくして週末土曜日深夜、委員長は単身「本場」へと潜入し、予め決められた店舗へ時間単位で調査(自費で食べられるだけ食べる、聞く、隙あらば厨房に忍び込む)を行い、その日の深夜バスで帰宅。
週明け、自宅で入浴だけ済ませた壮平がげっぷりしょぼしょぼ教室のドアを開けると、割れんばかりの拍手が彼を迎えた。
「イインチョーに惜しみない拍手をー!」
教卓に乗って、両手に持った自前の扇子を振り回しながら、水筆は教室を煽りに煽る。
「ヤーマート!ヤーマート!」
「ヤマト総料理長ぉ!」
「キャー!総料理長ぉ!」
この日から、「クラス委員長」改め「総料理長」となり、あまりの歓声に「そ、い、いやぁ」照れで言葉にならない壮平は気づかなかった。
親指を立てた波山が「ぐっジョブ!」のサインを水筆に送ったことに。
文化祭当日。
「総料理長、あーもー言いづらい!総長3パック追加ね!」
「総長、次5パック!」
「はい、はい、只今お作りしていますので、もうしばらくお待ち下さい・・・。ちょっと総長ー!?」
「総長、あたし4番(休憩)いってきまーす!」
「あたしもー」
「あ、俺も行ってなかった、タス、行く?」
「行く!総長、キャベツ宜しくー。あの仮装教師、見たかったんだよなぁ」
「ちょっと総長、3パックまだー!?」
結局時間が足りないということで、調理は壮平一人でやることになり、「本物を知るオトコ・大和のお好み焼き」という宣伝文句をでかでかと掲げた結果、二組のお好み焼きは予想外の反響を見せた。
「食っただけだぞ?俺は食っただけだぞ!?」
聞き込みは「秘密」を連呼され、潜入なんぞとてもじゃないが出来なかった壮平は強く主張したのだが、
「だいじょーぶだって!総料理長にしかできないよ、こんな大役!」
ポポンと肩を水筆に叩かれて、壮平はもう何かを言う気力をなくした。
「入れる、焼く、盛る。入れる、焼く、盛る。入れる、焼く、盛る・・・」
ぶつぶつとつぶやきながらお好み焼きマシーンとなった壮平を後ろから見ていた波山と水筆は、
「流石に・・・ま、いっか!」
「な!」
あまり気にしていなかった。




