004 ~巨乳魔術師登場~
ふわりと膨らんだ金髪あ二房に胸元あたりで結ばれ、大きな胸元の上をゆらゆら揺れている。
アリアは「こいつも巨乳か・・・」と心の中で舌打ちを打ちながらも、泣きじゃくる求道者の女性を宥る。
「ちょっと落ち着いてください、どうされたんですか?」
「ふえぇぇぇ・・・あ、あれ、あなたは?」
アリアの服に気づいたのか、潤んだ目を向けてきた。
その顔は、歳は20に近いだろうが、童顔と自信なさげな表情が相まって、どこか少女らしさを残している。
いまはアリアに何か助けを求めるべく表情を浮かべている。
宿屋の主人は何か納得行ったかのように、二人に向けて謝罪をした。
「求道者さま、申し訳ございません!!
わたしの思い違いでこのような事態になってしまい、本当に申し訳ございません!」
主人はこの事態に至った理由を語り始めた。
御者より連絡を受けた主人は部屋の手はずを整え、宿屋の前で待機していた。
求道者を泊めるということは、非常に名誉なことでもある。
町の入口から宿屋までは、遅く歩いても20分程度、少し興奮気味な心を落ち着けながら往来を眺めていた。
そこへ通りかかったのが、もうひとりの求道者である。
宿屋の主人は飛び出すように女性の前に立ち、その手をひっぱり宿屋へ連れて行った。
女性は何がなにやらといった感じで、混乱しながら言われるがまま宿屋へ連れ込まれる。
まさか主人も同じ町にふたりも若い女性の求道者がいるとは思わなかった。
すっかり思い込んだ主人は、出ていこうとする求道者を必死で引き止める。
女性の方はと言えば、なぜ自分が宿屋へ連れ込まれ、覚えのないお礼を受けさせようとしているのか、すっかり混乱し大泣きしたようだ。
「あのぉ、それでわたしはどうなるんでしょうかぁ?」
「本当に申し訳ございません、こんなにも長時間引き止めてしまい。
この御礼は後日させていただきますので、お宿の方を教えていただければと。」
「あ、わ、わたしまだ宿が決まってないので、また明日きますね。」
その言葉に下げていた頭を勢いよくあげ、驚いた表情で女性を見る。
「・・・宿が決まっていないのですか?」
「ええ、この町に着いたばかりで、ちょうど宿を決めようとしていたところだったんです。」
「ああっ・・・ほんっとーーーに、申し訳ございません!!!」
「えっ、えっ、なんですか?」
大きな失態を犯したかのように顔を真っ青にさせた主人。
後ろに控えていた受付嬢たちも、目を合わせ困った表情を浮かべていた。
「この時期は聖都へ向かう商売人が多いため、宿屋が空いていることはないのです。
先程までの時間帯であれば、もしかしたら空いている所もあったかもしれませんが、日が落ちようとしているこの時間帯はどこも空いておりません。
その、この宿屋も、一週間先まで空いておらない状況です。」
「・・・そのぉ、宿屋を取れなかった人はどうすればいいのでしょうかぁ?」
主人は下の唇を噛み締め、言いにくそうに言葉を紡ぐ。
「野宿ということになります。
ただ町中では禁止されているため、町を出て森の中でということになりますが。」
「ののの、の野宿ですか!!」
町につけば宿屋でゆっくり休もうとしていたところ、野宿しか無いと言い渡された女性はすっかり動転し、再び目の端に涙を浮かべた。
なんてしのびないんだと、アリアは心の底から同情した。
うら若き女性が、なにを好んで野宿しなければならないのか。
「ねえ、ご主人!!
もしそちらの方がよろしいと言えば、わたしと一緒の部屋に泊まることは可能かしら?」
「えっ、ええそれはもちろん構いませんとも、こちらの落ち度でございますから。しかしよろしいのですか?」
「そちらの方はどうかしら?」
アリアが目線だけ女性に向けると、驚いたように見つめ返し再び号泣しだす。
「あ、ああ、ありがとうごじゃいますーーーっ!」
そのままの勢いでアリアに抱きつき、えんえんと泣きじゃくる年上の女性。
それをしっかり受け止め背中をポンポンと叩いてあげる図は、誰もが逆なのではと思いたくなる構図であった。
ひとしきり泣いたあと、すこしまだ余韻で体が震えているが、アリアは彼女を引き離した。
「そろそろ離れてもらっていいかしら、その、鼻水とかちゃんと拭いてね。」
一張羅につけられては溜まったもんじゃないと心の中でつぶやきながらハンカチを手渡す。
女性はそれを受け取り、目の端の涙を拭う。
「うん、落ち着いたかしら。
自己紹介がまだだったわね、わたしの名前はアリア。あなたは?」
「あっ、ごめんなさい、わたしはムゥム。マトゥラ = ムゥムと言います。今日は本当にありがとうございました。」
「ムゥムさんね、それじゃあ少しの間かもしれないけど、よろしくね。」
何気ない二人の出会い。
ほんの少しだけの付き合いだとアリアも、ムゥムもこの時は思っていた。
運命とはいつも思いもがけないところで歯車が噛み合い、人々を巻き込み回っていくものだということを、二人は知らなかった。
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