第五話 出会いと魔法学校
「ここここんなにいるなんて聞いてないぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」
全力で走りながら後ろを振り返るとさっきまで見えなかった沢山の赤い物体が月明かりに照らされてその姿を現した。
真っ白な体毛に包まれ、真紅の瞳をぎらつかせ、甲高い鳴き声を上げながら追いかけてきている。
一匹目を倒した時は分からなかったが、今は分かる。
一見普通のウサギにも見えるが一つだけ違う点がある。
牙だ。
普通のウサギなら二本の前歯が可愛らしくちょこっとでているくらいだが、あんな立派な牙が左右に生えているところは見たことがない。
あれにかぶりつかれたら一溜まりもないだろう。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅ」
一瞬なにかが視線の先で光った気がした。
その一瞬の気の緩みが足元の木の根を見逃し派手に転んだ。
「しまっ」
後ろを振り向くと既にウサギ型のモンスターが俺にかぶりつくためにジャンプをした後だった。
俺はこんなとこで死ぬのか、異世界でやり直そうって思ってたのにいつから命懸けの戦いになったんだっけ……。
こんなことなら異世界なんて来るんじゃなかった……
「迅雷よ!」
どこからともなく聞こえた声は美しくも儚い、まるで雷のような声だった。
刹那、目が眩むほどの光が辺りを包みこんだ。
気がつくとモンスター共は黒焦げになりそこら中にいい匂いを漂わせころがっていた。
少しだけ……おいしそう。
???「大丈夫? 立てる?」
そこには月明かりに照らされて、銀色に輝く髪をした女の子が手を差し伸べていた。
「あ、ありがとうございます」
手を取って改めてみると真紅の瞳、プリンみたいに柔らかそうな唇。
それになによりとてもかわいい……
???「ここら辺のモンスターは夜になると集団で行動するから気をつけた方がいいわよ、ってあなた木の棒しか持ってないじゃない! いくら低級モンスターといっても人を一人食い殺すのも容易なのよ?」
「は、はい。すいませんでした」
???「はぁ……分かればいいのよ、ところであなたこんな所で木の棒一本でなにをしていたの?」
俺は自分が異世界から来たこと、お金がなくて困っているなどこれまでの経緯を説明した。
すると、納得したような顔で頷いた。
???「なるほどね、道理でこん夜遅くに木の棒一本で歩きまわっているわけね、良かったら私がここのモンスターを倒すの手伝いましょうか? 二人のほうが安全だし、はかどると思うわよ。」
確かにまたさっきみたいになってもこの人がいれば安全だ。
だがいいのだろうか、女の子に助けられ、その後のお世話もしてもらって男としてのプライドはそれでいいのか!
……五分後……
「お願いします……えっと」
セーラ「私はセーラ・エイプリル、セーラって呼んで」
「俺の名前は……ショウ。よろしくお願いします、セーラ……さん」
「ショウ……、珍しい名前ね。よろしくショウ」
男のプライド? そんなものはさっき襲われた時に落としてきちゃったぜ。
それからセーラさんにモンスターの弱点など色々教えてもらいながらなんとか10日分のお金を手に入れた。
「ここまで手伝ってもらってありがとうございます! これでしばらくはお金に困らなくてすみそうです」
「いいのよ、あのままほっといて翌日死体になられても寝覚めが悪いしね。」
「死体……」
あながち間違っていないかもしれない。しかしこの後どうするかな、目的もわからないしすることが……
と悩んでいると
「それはそうと異世界から来た人は王都の魔法学校に通わなくてはならないのは知ってる?」
「え、そうなんですか?」
「やっぱり知らなかったのね、異世界から来る人は世界を救うような人が多いいからこの世界の歴史を学ぶために異世界から来た人は通うように義務付けられているのよ」
そうなのか、これは青春を謳歌するチャンス! いままで散々な目にあってきたけどようやくか。涙がでそうだ。
「宿を見つけたら行ってみるといいわ、王都の中心にあるからすぐに分かるわ。そこで手続きをしたら編入試験があると思うけど……、まあ本当に異世界から来たのなら大丈夫でしょう。」
テスト…?
「それじゃあ、私はこっちだから」
「あ、今日は本当にありがとうございます」
セーラは軽く手を振って行ってしまった。
いやしかしすげえ美人だったなぁ、セシルさんも相当だったけどそれ以上かも……
やっぱり異世界は美人が多いんだな。
取り合えず宿を適当に見つけて明日手続きをしにいこう。
今更だが、世界観はアニメとかで見た中世ヨーロッパ風? に魔法を加えたイメージとでもいうべきか……
しばらく歩いて宿を探していると『宿屋』という看板を見つけた、どうやら地下にあるようだ。
「今日はここに泊まるかな」
中に入ると厳ついスキンヘッドのおっさんが新聞のようなものを読んでいた。
「あの、空きはありますか?」
すると気怠そうに答えた
宿屋のおっさん「一日銅貨3枚」
「じゃあこれでお願いします」
「一番奥の右側の部屋だ。」
宿爺は金を黙って見つめると部屋の場所を気怠そうにだが教えてくれた。
とりあえず二日分をだして部屋に向かった。
部屋の中は地下なので窓は無くランプが一つあるだけだった、それ以外はベッドしかないが寝るだけだし問題はないだろう。
「あ~、疲れた」
ベッドに乱暴に飛び込み枕に顔を押し付けた。
「とりあえず明日は魔法学校の入学手続きをして…」
頭の中にあの子の姿が浮かんだ。
「そういえばあの子も通ってるのかな……」
早く女性恐怖症も直さないとな……
初対面ならいいけど、女の人の前ではなぜかいつも敬語になってしまう。
無意識のうちに恐れ、格上のものとして見てしまっているからなのだろうか……まぁ今日見てきた人たちは明らかに格上だったが。
とにかく、壁を作る癖と敬語を直さないと。今後の目標だ。
こうして異世界生活一日目は終わりを迎えた。




