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アイラの休日2

 アイラが見つけた黒い羽が生えた生き物は、能天気である。


 いつもすぐに何かに気を取られてしまう性格で、アイラの部屋をよくぐちゃぐちゃにしてしまうことがあるがそのくせ気にせず次の興味の対象へと気の向くままに動いてしまう。


 今日もまた何か気を取られるようなものを発見したようだ。


「くぎゅう」


「ん? どうしたのクギュ」


 彼女は拾った黒くて小さな生き物の名前をその鳴き声から『クギュ』と名付けたのだ。


「くぎゅ、くぎゅ」


 するとクギュはアイラが読んでいる本に興味を持ったようで鼻先でツンツンし始めた。


「わっ! 駄目だよクギュこれまだ読んでる途中なんだから」


 そういうとアイラはクギュを遠ざけ、なにかクギュが食べるものを出した。


 クギュは基本的に何でも食べることができる、しかし一番の好物は肉系だ、以前アイラが高級なお肉を買ってきて食べようとしていたがほんの少し水を取りにそこから離れ戻ってきたらなくなっていたのだ。


 いつもならもう少しゆっくり食べるのだがお肉になると一瞬で食べてしまうため、お肉はご褒美のときにしかあげないようにしているのだ。


「むしゃむしゃ」


 それでもクギュの食べる速度は尋常ではなく普通のペットが食べる速度の二倍はある。


「あまり早く食べ過ぎると喉に詰まらせるよ」


 夢中で食べるクギュに微笑みかけるアイラ。


アイラは小さいころから何かペットを飼いたいと考えていたが親が厳しくそういうのは一人で生きられるようになったらにしなさいと言われて飼うことができなかったのだ。


 だからクギュを見つけたときは本当に嬉しかったのだ、いつも笑顔が素敵なアイラだが天使のような笑みを浮かべてクギュを見つめていたのはそのためだ。


「ゲフッ! くぎゅっ!」


 アイラが天使のような笑みでクギュを眺めているとクギュが何やら苦しそうにしている。


「本当に喉に詰まらせた!?」


 そういうとアイラはクギュにお水を持ってきて飲ませた。


「ゴクゴク、くぎゅう~」


 ビールを飲んだおっさんのようにまるで生き返る~とでも言ったかのように気持ちよさそうな声をだした。


「クギュ、うちのお父さんみたいな声だしてる~あははは」


「くぎゅ~」


 そんなアイラの顔を見上げ、クギュもまたうれしそうな表情をしたがアイラには分らなかった。


「あ、もうこんな時間! クギュ、今日は友達のところに遊びに行ってくるからお留守番よろしくね!」


「クギュ?」


「あのね、友達が勝負するんだって! あ、勿論仲が悪くてじゃないよ? だから遅くなるかもしれないけど悪さしちゃだめだよ?」


「クギュ!」


「じゃあ、行ってくるね! クギュ~」


 そう言うアイラの顔を見つめ姿が見えなくなるまでクギュは窓から覗いていた。


「くぎゅー……」


 その視線の先には先ほどまでアイラが読んでいた本がある、クギュがアイラの勉強机くらいの大きさの机からその本を取ろうとしても全然届かない。


 それもそのはず、クギュはまだウサギ程度の大きさしかないのだ。しかし前はハムスター並みに小さかったクギュの成長は早く、一週間くらいで今のサイズに成長していたのだ。


「ぎゅーーーーー」


 いくらあがいてもその大きさの机に届くはずがなく、今度は椅子にのぼって机に置いてある本を取ろうとしたのだ。


 しかし椅子にも届かないので踏み台となるものを探すことにしたようだ。


「くぎゅ!」


 何かを発見したような声を上げたクギュが踏み台として見つけたものはまるい形をしたごみ箱だ。


 そのごみ箱をクギュは倒し、器用に裏返して立てた。ちょうどいい感じに椅子に届き椅子まで登り本をくわえ、床に落とした。


「くぎゅう~」


 嬉しそうに鳴くとすぐに本を食べ始める。


「むしゃむしゃ」


 びりびりと本を破く音が鳴り響き食べ続けるクギュ。しかし罰が当たったのかまたもや喉に詰まらせてしまう


「くぎゅ!?」


 しかし今度は水を持って来てくれるご主人様もいない、自力で吐き出すしかないと考えたクギュは人間が嘔吐するように吐き出そうとしていた。


「ぎゃっ、ぐぎゅ!」


 とその時、吐き出しそうとなった瞬間、口から炎が飛び出した。


 この時が、クギュが初めて炎をだせるようになった瞬間である。しかしアイラがクギュの炎を吐く瞬間を見るのは大分後の話である。


 そんなことよりも今はアイラが読んでいた本だ。表紙がみるみるうちに燃えていく、このままでは家ごと燃えてしまうということが流石にクギュにもわかりなんとか消化を試みる。


「クギュ!」


 クギュが考えた末、思いついたのは自分の口の中に入れるということだった。


 幸運にもクギュの口の中は炎をだすため、炎に対する耐性が備わっていた、そのため口の中を火傷することなく火を消すことができたようだ。


「クギュゥ……」


 なんとか消化することができたクギュは今度は疲れたのか眠気に襲われ始め眠ってしまったようだ。


 そしてクギュが深い眠りに落ちた数分後に扉が開きアイラが帰宅した。


「クギュ~、お肉買ってきたよおっ……」


 お肉が入った袋をドサッと落とすアイラ。


「クギュ? クギュ!」


 燃え痕、そして散らばった部屋を見てアイラは唖然として動かない、そしてその横で袋から取り出したお肉をむさぼるクギュ。


 こうしてアイラとクギュの休日は終わっていくのである。







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