第三話 天使と波乱の幕開け
「なんだこれぇぇぇぇぇぇぇ!」
うわっ、赤髪の子がいる!あそこには緑髪の子も! っていやいやいや、そんな事よりも何だこの行列は! なんだこのブースみたいなものは! まさかこれ全部異世界に行く人達じゃないだろうな……
赤髪の女の子がブースで座り、そこに沢山の日本人っぽい人達が並んでいる。
セシル「あっ、今ご到着された方ですね! 私はセシル・ヴァーミリオン、この異世界案内所の案内係をしています。」
「え? 案内所? そ、そんなものがあるんですか?」
「はい。ここは日本全都道府県から集まった異世界転生者、または異世界転移者が転移先や転生先を決める場所となっております。」
ん? 異世界って自分で行ける世界選べるのか?
「あの、異世界って自分で行先を決めるんですか? てっきり神様が決めるもんだと・・」
「いえ、神様がいちいち一人ずつ決めているとうまく回らなくて『異世界転生まで30年待ち』なんてことになってしまうので、私たち職員が希望を聞いて神様がパッと見て問題が無かったら異世界へGOーという感じです」
さらっと知りたくない裏事情を暴露されてしまった……
「なるほど・・確かにこの人の数尋常ではないな」
ざっと見たところ片方のブースでも100人以上はいるようだ。
「では、転生をご希望でしたら右のブースへ、転移がご希望でしたら左のブースへどうぞ」
えっ、改めて考えてみるとどっちにするか迷うなぁ、今まで神様がそういうの決めるのかと思ってたから転生か転移なんて考えたことなかったな。
「まだお決まりでなかったらあちらにカフェがありますのでごゆっくりお考え下さい!」
カ、カフェ?そんなものまでここにはあるのか
「ではお言葉に甘えて」
「はい!ごゆっくりどうぞ」
「とは言ったもののどうするかなぁ~、取り合えずコーヒーでも飲みながら考えるか」
コーヒーを飲むついでにハンバーガーもあったのでついでに貰った。
「あむ んぐ はむ ガリガリ」
なんだ なんかすげえ勢いで大量のハンバーガーにかぶりついてるやつがいるぞ……しかも飲み物を氷ごと流し込んでるし、あいつには関わらないでおこう。
彼のゲップがこの案内所中に鳴り響いた
「ゲェェェェェェェェェェ!!」
全員が振り向いて彼を見る。
「足りない・・こんなんじゃ全然たりなぁぁぁい!」
すると豚の鳴き声のような音をだして周りの匂いを嗅ぎだし、なぜかこっちに向いた。
「お前それいらないのか?なら俺が貰うぞ」
「え、あ、ああ・・いいけ」
「はぁ~うまかった」
こいつ……俺が言い切る前に食い終わりやがった……
「お前いい奴だな、異世界に行ってもしあったら今度は俺が食べさせてやるよぉ~」
「は、はあ」
いい奴も何も勝手に食ってたけどな
「あ、あなたは転生と転移どちらにするんですか?」
自分でもわかるような苦笑いをしながら一応聞いてみた。頬がピクピクする。
「あ? 俺は転生だよ見て分かんだろこの体、異世界ではイケメンに転生して沢山の食い物と女の子に囲まれて楽しく暮らすのさ~」
いや太らない体にしてもらったほうが……
「へ、へえ~」
俺は、ここで余計な事を言って問題を起こすのもあれだし適当に返事をして受け流した。
「あんたはどうすんだ?」
「俺ですか?そうですね~、今絶賛悩み中です」
「ふ~ん、まああんたの場合顔もそんなに悪くないしどっちでもいいんじゃないか? いっそのことジャンケンで決めたらどうだ?」
そんな適当な……
セシル「いいんじゃないですか?ジャンケン」
先ほどの案内係の女の子だ、さっきのゲップを聞き様子を見に来たようだ。
「どちらでもいいという方は、案外そういう運に任せたやり方で決めることも多いいですよ?」
セシルさんがそこまで言うなら信じよう。
なぜかこの案内係の子に全幅の信頼を寄せ始めている、初めて優しくされた女の子だからだろうか。
「そうなんですね、ならそうしようかな」
「おう、決まって良かったな、それじゃあ俺は先に行ってるぜ~縁があったらまたあうかもなぁ~」
「さ、さようなら~」
やれやれ、まあ悪い奴じゃなくて良かった、ってジャンケンの相手してくれねえのかよ……
「ジャ、ジャンケンの相手なら私がしましょうか?」
あぁ、こういう時に気を使ってくれるセシルさんまじ天使だ。
「ぜ、ぜぜぜ是非お願いします!」
なんてキモいんだ俺、この後に及んでコミュ力の無さが影響してくとは……。
「それじゃ、私が勝ったら転移、あなたが勝ったら転生で良いですか?」
今のキモさを顔色一つ変えずにスルーなんて天使か! いや神様の従業員なんだから天使か
「は、はい」
「それではいきますよ~」
「さいしょはグー、じゃ~んけ~ん!」
俺「パー」
セシル「チョキ」
「「…………」」
「私の勝ちなので転移ですね」
「そ、そうですね、では早速転移の列に並んできます!」
「はい!私も案内係の仕事があるのでこれで」
「色々お世話になりました」
「いえいえ、これが仕事ですので、良い異世界ライフを」
会ってから30分もたってないのにとってもいい人だったなぁ。
俺も小学生の頃にあんな子と出会っていればなあ……やめよう、むなしくなるだけだ。
それから100人以上ある列に並び、2時間も待ちようやく俺の番がきた。
「では次の方どうぞ~」
やっとか、分担しててもこんなに待たせられるのか。
どうやら俺を担当するのは小太りのおっさんらしい、彼を見ながら俺は席に座った。
「こちらは転移専用の列になっておりますが、大丈夫ですか?」
「あ、はい。お願いします」
「ではこちらに希望される世界と自分の能力についてお書きくだ……」
紙を見ながらお決まりのフレーズのようなものを言いかけると、小太りのおっさんは黙った。
ん?どうした?急に考え込んで……。
「あなたは異世界適正年齢をオーバーされていらっしゃいますね」
「え、ああはい18歳です」
「少々お待ちください」
「は、はあ」
するとすごい急いで立ち上がり奥の方に消えてしまった。
お、おいおいまさかそっちもイレギュラーじゃないだろうな……いまさらあっちの世界に戻されてもなんか恥ずかしいからやめてくれよ?。どうせなら異世界で青春したいよ。
「えー、お待たせいたしました。神に確認したところあなたは例外で異世界に行かせるように神直々に取り計らったようです。」
「はあ」
良かった、その辺ちゃんと神様は知っていて。
「なので行先とあなたの能力、目的はこちらで決めさせていただきます」
「え?」
これが俺の異世界ライフの波乱の幕開けとなった。




