第二十話 殺人鬼と説得
「「…………」」
俺とセーラは目を丸くして闘技場にできた風穴を眺めていた。あまりの光景にこちらを柱の影からジッと覗く視線にも気づくこともできなかった。
それから色々な魔法を試したが剣を持っていると高出力の魔法を発することができた、逆になぜか剣を持っていないと魔法すら出せなかった。
そのおかしな光景にセーラは唖然としもっと色々試したそうにしていたが、闘技場を直さなくてはいけないため後日ということになった。
「この剣を持っていると本当に魔法が使えるようになるのか……しかも威力が半端なく」
これなら殺人鬼とやらにも引けを取らないのではないか? そう呑気に部屋に戻ると特訓で走ったり筋トレらしきものをさせられたせいかすぐに眠りに落ちた。
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『……ちゃん! 兄ちゃん!』
うるさいなぁ……なんだ? この呼び方酒場のおっちゃ……
『お兄ちゃん!』
!! 成美! 手を伸ばして成美の手を取ろうとすると目が覚める。
するとその刹那。
頭を鋭く空気を切り裂くかのような音を立てて何かがかすめていきベッドが先ほどまでちょうどショウの首があった部分から真っ二つに割れた。
「なんだっ!?」
とっさに電気をつけると、そこにはどこかで見覚えのある吸い込まれるような漆黒の瞳をした女の子が刃先がボロボロの包丁のようなものを握って立っていた。
「異世界人はみんな死ね……死ね……死ね!」
こ、この子が例の殺人鬼か!? あ、危なかった偶然成美の夢を見てなかったら首をとばされていたところだった。
「お、落ち着いて、君が異世界人を憎む気持ちは分かる! でもこんなやり方は間違ってるよ!」
「黙れ黙れ黙れ! お前に私の何が分かる!」
そういうと首をはねるため一気に間をつめてきた。
剣をとり魔法を使おうとすると剣を弾き飛ばされた
「魔法対策も完璧! 何が引けをとらないだ、そもそも戦いにすら……」
「死ねぇぇぇぇ!」
やばい死ぬ!
「家族が殺されたんだろ!」
ボロボロの刃先が首に触れるか触れないかのギリギリのところで無意識に口から零れた
「!! なんでそれを」
間一髪のところで刃が止まった。
「元の世界でも、この世界でも愛していた人たちを殺されたんだろ」
「……」
先ほどまでの殺意に満ちていた表情とは打って変わってとても悲しげな表情をしている。
そうだ、彼女は望んで殺人鬼になったんじゃない、本当は家族と幸せに暮らしたかったのだ。
「でもだからといって何の罪も無い異世界人を殺すなんて間違ってる!」
「うるさい……」
「殺してきた人たちにも異世界人とはいえ元の世界に家族がいたかもしれない……どうして自分が憎んだ奴と同じようなことをしていることに気づかないんだ!」
「黙れ……」
「鏡で今の自分の姿を見てみろ! 君の家族を殺した奴と君とで何が違う!」
「……」
言われるがまま鏡を見て自分の姿にようやく気付いたのかショックを受けている。
今まで誰も彼女に教えてあげなかったのだろうか……いや違うか、ずっと一人だったんだ、家族を殺され誰も当てにせず生きてきたのか。
「今からでもやり直そう、まだ間に合うよ」
「うるさい! だまれ! だまれ! もう後戻りなんてできない! 死ねぇぇぇぇぇ!」
しまった……俺は何を言っているんだ、時間を稼いで逃げるチャンスを作ろうと思っていたのにいつの間にか熱くなって逆に自分の首を絞めるようなまねを……
今度こそ振り下ろしてきた刃に殺されると思った瞬間
突然上から爆発音がし、崩れてきた。
「今度はなにが……」
「待たせたわね、ショウ」
崩れた瓦礫の上に現れたセーラが言った。




