第十三話 昔話と女の子
「なんだこの部屋……、ステイン先生! どこですか?」
…………
何も返事が無い
ここは武器庫ではないのか?
だとしたら考えられるのはあの剣の中……なんてありえるのか?
いやいや、ここは異世界だ、何でもあり得るだろう。
「と、取り合えずあのドアを開けろということ……だよな」
真っ白な空間に無造作に置かれた木製のドア。
やはりこれを開かなくては先には進めないということだろうか、
「……開けるか」
そう言ってドアノブに手をかけ、ゆっくりと回す。
『ガチャリ』
ドアを開けるとまた真っ白な部屋がある。
先ほどの部屋と何一つ変わらない。いや、一つだけ違う部分がある、なぜか老人が一人椅子に座っている。
「おお、よくきたのう!」
っひゃい! いいい、いきなり大声出すなよビックリしたじゃん
「おお悪いのう、何せ歳だからのう、声の加減が難しくての。ビビらせて悪かったのう、おしっこちびってもしゃあないしゃあない」
…………いや、別にちびってないし、ちびってないからね!? ただちょっとビクってなっただけだからね!? あれ? てか声に出してたっけ
「あ、あなたは? ここはどこですか?」
「ん? わしか? わしは神様じゃ」
神様? はぁ、可哀そうにボケて自分のこと神様だと思い込んでいるのか……
「失礼じゃの! 儂は正真正銘神様じゃよ!」
「はぁ、そうですか……」
嘘つけ! 神様だったらもっとこう貫禄みたいなものがあるだろうが! ていうかさっきから人の心の声聞いてんじゃねえよ!
「お主……心は口が悪いのう、それに心の声を聴くなんて儂くらいしかできんぞ?」
「心を読む奴くらい、いるでしょう。異世界なんだから」
「ぐっ、確かにこの世界にも一人や二人いたような気が……」
ほらな? このじじい一体なんなんだよ、何がしたいんだよ。
「てか、ここどこ? 何でこんなとこにいるんだ?」
そう、俺はさっきまでステイン先生とともに武器探しをしていたのだがなぜか魔法を使ったらここにいたのだ。訳が分からない
「おおそれはのう、おぬしと話したいことがあってな、お主が見つけた剣は昔、異世界に送った奴にいつでも連絡できるように魔法陣を仕込んで渡しておいたのじゃ」
あの六芒星か……
信じられないがどうせこのじいさんの話聞かなきゃここからでられないんだろう
「で? その神様が俺に何の御用ですか?」
「お、やっと聞く気になったか」
すると神と名乗る老人がいつの間にかどこから持ってきたのか、お茶をすすっている。
「立ち話もなんじゃから座っては無そう」
「座るってどこに? 椅子なんてどこにも……」
そう言った瞬間気がつくと椅子が目の前にあった。
「なに、これも神にもなれば簡単なことよ」
「は、はあすごいですね」
椅子に座ると机とお菓子もいつの間にか出てきた。
な、何だこの爺さん……ただものじゃねえ。
い、いや、俺は信じないぞこの爺さんが神様なんて
そう思っていると自称神様が耳元で呟いた。
「お主……セシルのことを好いているそうじゃのう、どうじゃ? 知りたくないか? 彼女のスリーーーーーサーーイズ。」
「なん…………だと…………!?」
「だからお主が好きなセシルのスリーサイズを教えてやってもいいって言っとるんじゃよ」
「バカな…………そ、そんなこと……出来る訳が」
「儂は神じゃぞ? それくらいのこと朝飯前じゃぞ?」
ま、まてまて、そんなの口から出まかせを言うに決まってる。本当のサイズかなんてわかる訳ないだろう。全く、危ない所だったぜ
そしてまた耳元に近づく神。
「パンツも…………付けてやっても良いぞ?」
その瞬間俺の中の何かが弾け飛び、気がつくと膝をついていた。
「よろしくお願いします! お爺さん……いえ、神様!」
「うむ、では本物のパンツであるということの証明としてセシルの職場の映像を映してやろうかの」
そういうとまたしてもいつの間にか姿見の鏡がそこにあった。
恐る恐るその中に映るものを覗き込んだ。
「て……」
「て?」
「天使がいらっしゃる……」
そこには緑の髪を後ろに束ね、見覚えのある制服に、見覚えのある笑顔が映っていた。
「そ、そうか、では行くぞ?」
「え? まさか……」
そう言い終わる前に神様は手を素早く横に振った。
「盗ったり。」
「え?」
横に振った手を俺の前に差し出し、手を開くとそこにはあった。
天使が身に纏いし、聖なる三角形の布が。
「ほれ」
そう言うと神は俺の頭に聖なる衣を投げつけた。
そしてその際に漂ってくる柔軟剤のいい匂い、そして、ほのかに香る酸っぱい匂い。
「バカな!」
そして再び姿見を見るとスカートを抑えもじもじしているセシルさんの姿が
「どうじゃ? これで信じたか?」
「はい、神よ、すべては仰せのままに」
「お主も現金な奴よのう」
それにしても、もじもじしているセシルさんかわいい……デュフ
そう思っていると姿見からセシルさんの姿が消えていった。
「ああ……もうちょっと」
「さ、いきなり本題なんじゃがおぬしをここに呼んだ理由じゃ。」
「……」
「まずは昔話をしよう。」
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昔々まだ異世界なんて知られていなかった時代のことじゃ、あるところにごく普通の女の子がいました。その子は優しい両親、かわいい弟がおり、お金に困ることもなく友達にも恵まれ幸せな日々を送っていました。
人あたりもよく周囲からはとても人気のある女の子だった、しかし、ある日家に帰ると両親と弟が無残な姿で殺されていました。
突然のことに呆然としているとそこに犯人がやってきて彼女も殺されてしまいました。
神様はこの家族をかわいそうに思い異世界で記憶をなくして転生させてあげることにしました。
そのあと家族は何もかもを忘れ、異世界で幸せに暮らしていました。
しかし神様は憐れな人間を次々と異世界に送るだけで人の本性を見てはいませんでした。
後に異世界人で人々を脅かすものがでてきました。
神様が送った異世界人が幸せに暮らしていた家族を襲い女の子の家族を皆殺しにし、彼女も殺そうとしました。
しかし彼女の目の前に広がる家族だったものが前世の記憶を呼び覚まし、彼女の決して開花するはずのない才能が開花し、皮肉なことにその才能のおかげで犯人を返り討ちにし生き延びることができました。
しかし彼女の心へのダメージはとても酷く、異世界人をひどく憎むようになりました。
そしてしばらくすると、異世界人が狙われ殺されるという事件が頻発するようになりました。
神様はあらゆる手を試して彼女にやめさせるよう仕向けましたが彼女の心は既に壊れてしまっていて彼女は止まりませんでした。
神様は取り返しがつかないことをしてしまったと、とても後悔しましたとさ
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「それは……」
「事実じゃ、幸せにしようと思ってかえって不幸にしてしまった愚かな老人のな……」
確かに異世界人の力は強力だ、悪事に利用する人が出てきたら対策は難しいだろう。
「でもどうして俺にそんな話を?」
「そうじゃな、それはその殺人鬼となった彼女は君を狙っていることが分かったからだ」
「え……?」
いやだってそれってかなり昔の話なんじゃ、ていうかそうだとしても何で俺が狙われているんだ? 異世界人なら他にもたくさんいるのに……
「そうだの……、確かにかなり昔の話。が、しかしある王国にあった秘薬をなぜか彼女が手に入れて飲んでしまったんじゃ、しかもその秘薬の効果は自分が望む不老不死の効果を得ることができる。」
不老不死!?
「の、望む効果とはどういうことですか?」
「例えば使用者が年をとりたくないと思えば年をとらなくなり、死にたくないと思えば絶対に死ぬことがなくなるみたいなことじゃ」
それってもう無敵じゃん……
てか、は? そんな危ない奴が俺オンリーで狙ってきてるの!?
そんなのに狙われたら絶対に勝ち目なくね!?
俺の人生詰んだんじゃ……
「そ、そんな、どうしてそんな危ない奴がいるところに俺を転移させたんですか!」
「いやぁ~、そこにしか適正年齢が遅れた君を送る枠がなくての、てへっ」
てへっじゃねえよ……、いますぐこの神ぶっ殺してやろうか
「笑い事じゃないんですけど……」
「ま、まあ使いこなせればそこそこ使える能力を君に授けたんだから頑張ってくれの! 話は終わりじゃ、また会おうぞ」
「え、ちょまっ、まだ話は……」
「正直儂もお手上げでの……ダメ元で頼んどるんじゃよ」
「はぁ!?」
「頼んだぞ~」
気がつくと武器庫に戻ってきていた。