第十一話 むかつく男とレベル
あれから自分に合う武器を探していたがさすがに体育館一個分もある部屋を一人探すのは骨が折れるのでたまにアイラやエリザベスにも手伝ってもらっていた。
「ピンとくる武器っていわれてもなぁ~」
「ねえねえショウこれなんかどう?」
アイラが床を擦りながらもってきたのは刀というより鉄の塊だった、しかもそこら中錆びだらけでまともに使えるとは思わない。
「ないです。」
「え~、触らなきゃわからないじゃ~ん」
「触らなくても分かります。仮にそうだとしてもそんなの重すぎて使えません……」
触れても何も感じないし起きなかった。
「ちぇ~、そういえばショウってなんでいつも敬語なの?」
「え? いや、別に大した意味はありません、癖……ですかね」
「……ほえ~、そうなんだ」
流石に女性恐怖症なんて口が裂けても言えない……
「はい」
一瞬こちらをジッと見つめ、何かを考えているようだったが深く追求してこようとはしなかった。
「ちょっとトイレ行ってきますね」
「あ~い」 「分かりましたわ」
少し居づらくなり、トイレへ逃げるように武器庫から出た。
廊下を歩いていると何やら外の方が騒がしい、行ってみようと思ったその時角から女の子が飛び出してきて軽く肩がぶつかった
「あ、ごめんなさいちょっと急いでて!」
「あ、い、いえ、大丈夫ですか?」
「はい! では失礼します」
言ってしまった……可愛い子だな。青い髪にまるで月明かりに照らされた海のような瞳、走り去るときに見えた横顔。もろタイプ
「どこへ向かったんだろう」
そういえばさっき外が騒がしかったのと関係あるのかな行ってみよう
中庭に出ると女の子が何かに群がっている。その中にさっきの女の子もいる。
中心をのぞき込んでみると一人の男がベンチに座って偉そうに足を組んでいた。。
「男?」
女の子「きゃー! 士郎様魔人族の幹部を一人で倒しちゃうなんて素敵~!!」
士郎「そんなことないよ、相手もなめてかかってきてたし不意を突いたんだ。」
謙虚な言葉を言っているが口元がかすかに歪んでいるのが見えた、それよりもさっきの女の子がその男に群がってることにショックを受け呆然としていた。
女の子を呆然とした顔で見つめていると、士郎がその視線に気づき女の子に近づき見せつけるようにおでこにキスをして女の子を侍らせながらこっちに近づいてきた。
「君がA組に来たっていう異世界人かい? せいぜい魔法祭でもがんばっておくれよ。期待しているよ」
するとまた見せつけるように今度は頬にキスをした。
女の子達「きゃー! 士郎様素敵ー!」
青髪の女の子「士郎様……」
頬を赤らめながら見つめるその瞳はもうメロメロだ。
なんだろう、まさにゲームに出てくるイラつく奴って感じだが、ゲームからそのまま飛び出してきたような感じで悔しさよりも何やってんだこのアホは…………としか思えなかった。
「あれは異世界人の特権ってやつだね!」
するといつの間にかアイラとエリザベスが後ろに立っていた
「なんて下品な人、女の子を見せつけるための道具にするなんて」
「異世界人の特権って何です?」
「ん? 簡単だよ、異世界人はなにかしら強大な力を持っているでしょ? その力でああやって魔王の幹部だのなんだのを倒すと人気がでるわけですよ」
「それだけであんな人気が出るんですか?」
ゲームとかでもいつも不思議におもっていたことだが、なんで魔王を倒すとあんなに人気がでるのか
「そりゃあ女の子は自分のことを守ってくれるナイト様に憧れますからぁ、ね? エリザベス!」
「わ、私はあんな男は嫌ですけどね」
そんなものなのか……
しかしあの士郎とかいう野郎、あんな奴でもモテモテということはそうなんだろう。
「あの士郎とかいう人って本当に強いんですか? なんか傍から見ると目茶苦茶弱そうなんですが……」
どうにも俺にはあの野郎が強そうには見えない、例えるならそう、虎の威を借る狐とでもいうような……
本当に魔人族の幹部を倒したのだろうか
「実力は確からしいよ、僕もそう思ってこっそり模擬戦闘を見てみたんだけどそれはもう凄かったよ! 自分以外のクラスメイト全員対一人で戦って余裕で勝ってたもん、しかも基礎的な魔法だけで」
「私もその試合は見ましたわ、偉そうにする実力はありましたわ、だからといってあんな態度は気にくいませんが。」
「クラスメイト全員……それは凄いですね」
確かにいくら異世界人と言っても、アイラやエリザベスぐらいの天才は一人や二人いるはずだ、それを含めて一対クラスメイト全員で勝ったというなら異世界人の中でも才能は折り紙付きなのだろう。
「火の魔法だけだったら炎帝級らしいしね」
ん? えん……なんだって?
確か、薄れる意識の中ペラペラ読んだ教科書の中にそんなことが書いてあったような、うーん、思い出せない……
「その、えんていなんちゃらってなんなんですか?」
「「え?」」
え? なんかまずいこと言ったのだろうか
アイラとエリザベスは信じられないという顔でこちらを見ている。
「…………」
「ショウちゃんと勉強してないでしょう」
ぐっ
確かに勉強はまだ全然していない。
しかし、仕方のないことではないだろうか
まだこの世界に来て日が浅いし?
そんな暇じゃなかったし?
俺だって一応読もうとはしたんだよ? ほんとだよ?
だってしょうがないじゃん!、睡眠欲は三大欲求なんて言われるほどだからね?
そんな三大ラスボスみたいな呼ばれ方しているものに俺なんかが勝てる訳ないじゃない……
うん、これは仕方のないことなんだ。
でも、取り敢えず謝っておこう。嫌われたくないし……
「はい、勉強不足でした。すいませんでした」
「全く、ショウって本当に異世界人なのかしら? 雰囲気とか、かけらほども感じられませんわ」
それを言われると俺も自分が本当に異世界人なのか不思議になる……
妄想でもしてる痛い子なのではないだろうか
「まぁまぁ、ショウもこっち来たばかりだし、しょうがないよ。えっとね、炎帝級っていうのはね、魔法の階級のことだよ」
階級? 強さの基準があるのか、柔道の帯とかそんな感じか?
ーー
アイラ達の説明によると、この世界には遥か昔、炎帝、水帝、雷帝、氷帝、土帝、緑帝、闇帝、光帝、神帝の九大帝という偉大な魔法使いがいたらしい。
彼らが今現在、俺たちが住んでいる世界を創造したとされ、
炎帝は炎を創り、水帝が海を、雷帝が雷を、氷帝が氷河を、土帝が大地を、緑帝が植物を、闇帝が闇を、光帝が光を、そして神帝が人間や魔人、獣族、長寿族など色々な種族を生み出したと言われている。
彼らは後に弟子を取り、それぞれおのが得意とする魔法を教えた、弟子たちは帝程の使い手にはならなかったがそれでも圧倒的な魔法を会得した、魔法を使わない人たちはその弟子たちをいつしか王と呼ぶようになり、自分たちの国の王にした。
そしてしばらくすると、争いは起こった。
それぞれの王同士で土地をめぐり自分の配下に魔法を教え兵として戦場に送り出したのだ。
その中でも群を抜いて魔法の才能を発揮し、千を超える兵を圧倒したという噂が流れ始めた。
その噂は瞬く間に広がりいつの間にかその魔法使いは仙人と呼ばれ恐れられた。
まぁ、要するに仙人級→王級→帝級と、どんどん魔法使いのレベルが上がっていくらしい。
仙人級は千人に一人、王級は十万人に一人、帝級は各属性に世界で数人しかいないらしい。
ーー
おとぎ話かなんかだろうけど、そこからレベルが作られたのだろう。
ってことは数人しかいない炎帝のうちの一人があんな奴なのか!?
「あいつってそんなにすごいんですか……信じられませんね」
「まぁ、しょうがないよ、馬鹿でも力があるってのはいくらでもいるしね!」
あらやだ、アイラさんってば口が悪いですわよ
「ちなみに二人のレベルって……」
「僕はまだ上級、でも仙人級もできるようになってみせるよ!」
「私も上級ですわ」
おお、二人ともあと一歩で仙人級になれるのか、すごいな……
そこで、一つ疑問を覚えた。
「重力魔法って何の属性なんですか? さっきの話には重力の帝なんて出てこなかったような……」
「お! よくぞ聞いてくれました! それはね~」
「闇魔法と土魔法の応用属性ということになっていますわ」
「ちょっとエリィ!? 僕が言おうと思っていたのに!」
「闇と土? なんで闇と土で重力になるんですか?」
意味が分からない、闇はなんか分かるけど土ってなんだ!?
重力関係なくね?
「ん~、詳しいことは分からないけど、昔仙人級の人で重力魔法が使える人がいて、王級が聞いてみたらしいんだけど、その時に『この魔法は土と闇を組み合わせたものです』って言ったらしいんだよね、それが正しいかは分からないけど……」
何ともまあ曖昧なことで
だとしたらやり方さえ分かれば誰でもできる気がするような
「だとしたら、アイラは土と闇の魔法が使えるんですか?」
「いや? そんなことはないよ、僕もそう思って試してみたけど全然使えなかったよ」
「そうなんですか」
「うん」
「難しいもんですね」
「そうだね~」
そうして三人は武器庫へと戻っていった。