第八十五話「ハーピー」
3月31日と4月1日。
どちらも奇数日ならもちろん、どちらも更新しますよ。
『トパーズ、ミスは許されませんよ』
『それは旦那に言ってくれよラピス姐。オレはぶっ跳ぶだけだぜ』
「照準は俺だが、タイミングはトパーズ、お前だ。任せたぞ」
ハーピー三体との第二ラウンド。
そこには、先程までいなかったウサギの姿があった。
アウィンでなく、トパーズを呼んだのは俺を侵入不可区域へ蹴ったあと、未知のエリアへ跳んでいってしまったからだ。
登ってる時はトパーズの吹っ飛ぶ方向がローツの町だったからいいものの、何がいるのかも分からない北エリアに行ってしまったトパーズを回収するのは、できるだけ急ぐ必要があった。
トパーズが怪我一つない状態で現れてくれた時は胸を撫で下ろせたぞ。テイムモンスのみが死に戻りした場合、すぐには連れ出せないからな。
『クェーケー』
『クァカーっ』
『……かー』
さあ来たぞ。
空中位置にいるだけでハーピーにはアドバンテージがある。
こちらから仕掛けるのは不利だ。先制はいつも相手から。
そのせいで、その攻撃の対応に動くしかなかったが、今はトパーズもいる。
後攻が後手に回るしかないなんて思ってんじゃねえだろうな。
後攻にだって、一撃必殺のカウンターがあるんだよ!
「トパーズ! 狙いは右側のやつだ!」
『んなもん、腕の角度見りゃ分かるっての! だが、こいつよりも先に違うやつが来るぞ』
『問題ありません。集中してください』
『そうかい。んじゃ、そうさせてもらおうか!』
右側から一体。
左側から一体。
そして、後方にもう一体。
先にこちらへ辿り着くのはどうやら左のハーピーだ。
だが、すでに対策はしてある。
『ピ、キ、ピキァ!』
急に左側のハーピーの羽ばたく速度が激減する。
その脚には青く丸い物体が。もちろん、その正体はラピス(1/2)。貰ったばかりの“鈍足の粘液”を使って、鈍足を掛けることができるようになったラピスだ。
身体を思うように動かせなくなったハーピー。その体で風を掴むなんてことができるはずもなく、俺達の近くに落下してしまった。
飛行モブは麻痺とかで身体の自由を奪い落下させる。常套手段だよな。
一体は鈍足の状態異常が切れるまでは考えなくていい。
残り二体。その内の一体に向かって、腕を向け続ける。
大きな岩の後ろでしゃがみ、その上に腕を乗せ、そのまた上にトパーズ。
トパーズのDEXは三角錐のマイナスもあって、俺と同じく初期値だ。
だが、今はそのサポートをしてくれるアウィンもいない。
だから、その代わりを俺がやる。俺のDEXも初期値。そんなことは分かっている。
だが、プレイヤーのDEXが影響するのは“自分の狙いに向かってその事象が上手くいくか”だ。
あの敵に魔法や弓を当てたい。この武器はこんな形にしたい。そういった“行動”にDEXは関わる。
ま、何が言いたいかというと。
「俺にだって狙いを付けるぐらいなら、アウィンの代役ができるってことだ」
『だけどよ、旦那じゃ跳んだあとの微調整はできねえだろ。アウィンは踏み切った後の一瞬に俺を挟んだ両手で調整してくれるぞ』
「アウィン、んなことまでやってたのか!? 確かに、長距離でもトパーズを当ててたが、まさか……」
『で、どうすんだよ』
「いや、俺には無理だ。できるはずねえだろ。精々、跳ぶ方向を定めるだけ。ってことで、狙うは至近距離!」
『それってもう、旦那いらなくねえか』
「お前、角向けたら前見えねえだろが。相手が左右に動いたらどう対処するつもりだよ」
『それもそうか、んじゃ頼むぜ旦那ー』
そんな会話の間にもハーピーは俺達へ襲いかかってくる。
腕に乗ったトパーズは角を前に向けて既に発射準備は完了。後ろ足に力が篭っているのを感じる。
『クキャァー』
左に四度修正。
『ピークァー』
仰角を下へ三度。
『ギキャー』
ハーピーの影が掛かった。
その瞬間。
「ぐあっ」
『ピギ、キァーーっ』
右腕に衝撃! 俺の力だけではとても受け止められないが、腕の下には岩がある!
だが、挟まれてっからめっちゃ痛ぇっ!
しかし、それも一瞬。
気付いた時には右腕が軽くなっていて、頭上の影は吹っ飛んでいった。
おー、さすがATKの怪物。格上相手でも攻撃力じゃ、まだまだ通用してんな。
ま、耐久力はお察しなんだが。
そして、墜落していたハーピーはというと。
『ピ、ク、キァ……』
「うっわぁ……」
俺のところにいた毒のラピスと一緒に青いビー玉三十二個で一体のハーピーを侵食していた。
もちろん、状態異常は鈍足と毒のダブルパンチ。
分裂していても状態異常攻撃には変わらない。一回の攻撃で十六体ずつの鈍足と毒を付与する攻撃が与えられるようなものだ。
あ、ハーピーがポリゴンとなって消えていった。
まあ、少なくとも三十二ダメージのスリップダメージが延々と断続的に続く訳だからな。そりゃあ、結構なダメージ量になっていただろう。
それに加えて毒のダメージもある。お陀仏しても不思議ではないな。
「で、残りは一体か」
空中でホバリングしている最後の一体。
やる気のなさそうな奴だ。かと思えば、仲間を守るように俺の火球をかき消したりとよく分からんやつだな。
さて、相手さんはまだ戦うつもりなのだろうか?
こちらから仕掛けることはしない。というかできない。
俺の魔法はかき消されるだろうし、《風種》も一度やっている戦法だ。通用するかは怪しい。
それに、ラピスの攻撃は超至近距離のみ。相手から近付いて貰わないと何もできない。
というか、早く戻ってこい。ズリズリピョンのサイクルを早めることはできないのか。
トパーズのハウリングなら何とかなりそうだな。しかし、MPの消費が痛い。
そもそも、トパーズはまだ跳んでいったままだ。ハーピーはポリゴンと化したところを確認済み。だが、肝心のトパーズは帰ってこない。
……ハーピーさん。できれば、引き返して頂けないでしょうかね?
ハーピーの高度が下がる。
そして、地面へ着地。
空中から襲いかかってくる訳じゃないのか? このハーピーだけは行動が読めない。
とりあえず、残念ながら壁の上に帰宅するつもりは無さそうか。
そのまま、トコトコとこっちに向かって歩いてくる。地上戦を仕掛けるつもりか?
……いや、違う。
その視線は岩の裏にいる俺を見ている訳じゃない。
狙いは、ラピスか!
「ラピス! 急げ! 狙いはお前だ! 《火球》!」
『……かぁー』
しかし、その火球もチラッと一瞥しただけでかき消されてしまう。
だが、やらないよりはマシだろう! 次はこいつだ!
「《光球》!」
なんでもいい、時間を稼げ!
俺がラピスの元へ走ってもラピスと同じ速度しか出ないから意味がない。
こんな時にアウィンがいてくれれば!
『……けー?』
「お? なんだ?」
光球を見たハーピーの動きが止まった。
そのまま、光球を見つめ続けている。
よく分からんが、チャンスだ! 今のうちにラピスを!
『……くけーっ』
「は? いやいや、は? なんでだよ!?」
光球を見ていたハーピーに光球がダイレクトヒット。
ハーピーのHPが削れる。
いや、避けろよ。それか、かき消したりしろよ。なんで当たってんだ。
『ご主人様、助かりました』
「お、おう。おかえり」
『いやー、なかなか跳んだなー。帰ってきたぜー』
「ごほっ、ごほっ。お前の登場はいつも土煙が凄いんだよ。何とかしてくれ」
『何とかしなさい』
『えー、いや、無理だろー』
ラピスは何とか無事生還。トパーズも着地地点から跳んで帰ってきた。
だが、問題は目の前のハーピー。
『くーかー』
「なんか、すっげえ見られてる気がする」
しかも、キラキラした目で。
何かを期待されているのだろうか。となると、やっぱりこれか?
「《光球》」
『……くぉー』
明後日の方向へ撃った光球。
それをまたハーピーは見つめながらトコトコと追いかける。
あ、岩にぶつかって消えた。
『くーかー』
「何なんだよこいつは……」
ハーピーの頭上に浮かぶマーカーは紛れもなく敵対モブ。
しかし、その雰囲気には敵対している様子は見られない。
これは、どうするのが正解なんですかね……。




