第八十話「クエスト」
第二の町ローツ。
そこで俺は双子のプレイヤーと出会った。
そして同時に二人の天然パッシブスキルを思い出す。
周りに二人以外の人影は見えない。
ってことはまさか……。
「また迷子か」
「おいおい、兄ちゃん。迷子って言い方はあんまり好きじゃねえぞ。そうだな、“数多ある道の選択者”とでも呼んでくれよ!」
「で、その迷子二人はどこに向かってんだ、ココ?」
「えっとにゃー。ローツの町にある冒険者ギルドで待ち合わせなんだよ、お兄さん!」
厨二忍者の妄言はさておいて、猫耳シスターに目的地を聞く。
冒険者ギルドか。確か、噴水のあるとこから見えたよな。
ここからなら、南東の方角のはずだ。
「冒険者ギルドはあっちだったぞ」
「おお、さすが兄ちゃんは頼りになるな!」
「ありがと、お兄さん! またね!」
そう言って、俺の指差した方と逆へと進み始める方向音痴二人組。
おいコラ、待てコラ。
「ぐえ」
「にゃにゃ!? にゃするにゃー!?」
「……お前ら、なんで逆方向行こうとしてんだ?」
「ふっふっふー。あたし達は今までの経験から学び成長したのだっ!」
「イワンでは歩いてると方向が逆になることが多かった。ならば、最初から逆に行けば目的地に着くという原理だ!」
「…………」
どんな経験をして、何を学べばそんな原理に辿り着くんだよ。
イワンの町は複雑な路地が多いってのは分かる。だが、進みたい方角さえ分かってればそこまで苦労することはない。
ましてや、逆方向に行くなんてことがあってたまるか。
さてどうするかと考えていると、ココの頭上で淡く光っている球体が目に入った。
ココは治癒術師であり、パートナーを連れている。
この球体はココのパートナー、ピカリンだ。
そして、俺の左腕で鈍く光を反射するスキルリング。セットされているのは《精霊言語》。
そういえば、他のテイムされたモンスターとは話したことがないな。エリーのワンコロは例外として。
「なあ、ココ。お前のパートナー、ピカリンは道案内とかしてくれないのか?」
「え? ピカリン? んー、そういうことをしてくれたことは無いかなー?」
「……ラピス、トパーズ。こいつと話せるか?」
『おいおい、旦那。種族が違うんだから無理に決まってんだろ。なんかこう、波長的なのが違ってんだよ、きっと』
『ご主人様。ワタシもトパーズと同様です。意思疎通が可能であるとは考えにくいかと。トパーズの“波長”という言葉は適切ですね。珍しいことに』
『ラピス姐、一言余計だろ、それ。素直に褒めてくれよなー』
ダメなのか。人外同士なら話せるとかでは無さそうだな。
ピカリンに道順を覚えさせれば任せられるかと思ったんだが。
……となると、仕方ないか。
テオとココは曲がりなりにも恩人だ。それに、知人が困っているのに助けないというのも後味が悪い。
「なあ、兄ちゃん。今、テイムモンスターと話そうとしてなかったか?」
「気にすんな。ほら、冒険者ギルドまで案内してやるから付いてこい」
「いいの!? やったぁ! お兄さん、ありがとっ!」
「マジか!? よっしゃ! 兄ちゃん、ありがとな!」
たまに見せる双子のシンクロを見て少し和んだところで、冒険者ギルドに向かって歩き出す。
崖とは逆方向だが、そんなに遠い訳じゃないし別にこれぐらいならいいだろ。
~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~
「そんで、トパーズがドーンって!」
「あの盾が木っ端微塵っ! それもまたいい!」
「んでんで、次がラピス!」
「姿を見せない暗殺者!」
「音もなく忍び寄ってじわじわと!」
「終わった後のお兄さんもカッコよかったよね!」
「無言で帰ってく奴な! さすがだぜ!」
「そして、決勝!」
「相手は“青姫”!」
「トパーズちゃんとラピスちゃんもカッコよかったけど!」
「アウィンのヒット&アウェイが見えないぐらい速えんだよな!」
「そして、同士討ち!」
「表彰の時もまたいいんだよっ!」
「アウィンちゃんのために大見得を切る!」
「アウィンは俺の大事な仲間だっ!」
「俺にとってはデータ以上なんだよっ!」
「「かっこいいっ!」」
「会う度にそれやるの勘弁してくんねえかな……」
俺を讃えるマシンガントーク。双子だからか息もピッタリで誰かの口を挟む余地すらない。
というか、よくもまあそんなに極普通な俺を褒める言葉がスラスラと出てくるもんだな。
だが、やられてる方の身にもなってくれ。ここ、人が多いんだから恥ずかしいだろが!
『このお二人は、やはりご主人様のことをよく理解していますね。その通りだという他ありません』
『加えるとすれば、もちょっとオレのことを言ってくれても良かったんだぜ?』
「お兄さん、今女の子達の間で注目されてるんだよ! 知ってた? アウィンちゃんを守るためにあんな台詞! あたしも言われてみたいっ!」
『そのご主人様を守るのはワタシ達ですがね。そして、ワタシ達のことをご主人様は守ってくれるのです。どこの女が言っているのか知りませんが顔も見たことの無い輩にご主人様は渡しません』
うわあ、何かまた“アウィン親衛隊”みたいなイレギュラーが起こってやがる。
さすがに、親衛隊と同じくらい騒動になることは無さそうだが、これもまた面倒そうなことになってんな。
あと、ラピス。張り合わなくていい。
「あとさあとさ! あの衣装! マジでこう、なんかもうすっげえよな! かっけーっ! すげえ!」
「うん! うんうんうんっ!」
「落ち着け。語彙力がどっか行ってんぞ」
「見たい!」
「見たい!」
『見たい!』
「ぜってえ着ねえ」
「「『えーっ!』」」
誰があんな魔王装備着るか。
……いや、まあ、悪く無いとは思うぞ? でもな、何度も言うが人が多いんだよ、ここ。
あんな恥ずかしい衣装、この場で着れるかっての。
あと、トパーズ。ちゃっかり乗っかってんじゃねえ。
「おし、着いたぞ。ここで待ち合わせだったか?」
「わ、ありがと、お兄さん! そうだよ、ここでギルドの人と待ち合わせ!」
「そういえば、アウィンはいないのか?」
「アウィンは留守番だ。ギルドってことは攻略か? 素材集めとか?」
「アウィンちゃんいないんだね。残念」
「ああ。ギルドで攻略だ。東のボスは倒したから次は西だな!」
この二人と話してると、今どっちと話してるのか分からなくなる。
格好も性別も全く違うってのに双子ってのは不思議なもんだ。
それと、二人のギルドってことは“イワン生産職連合”だよな? もう東を攻略したのか。
生産職っつってもさすがギルドNo.001。立派に最前線の攻略組だな。
「んー。ギルメンはいないみたい?」
「なら、クエストでも見ながら待ってるか。兄ちゃんはどうする?」
「あー、そうだな。一応チェックしとくか」
クエストはあんまり好きじゃないんだがな。
一々ギルドに報告に来る手間もあるし、討伐数が決められているとそれに縛られてしまうのもマイナスだ。
俺はできるだけ自由にやりたいからなあ。ギルドのクエストを受けないゲームの楽しみ方もあると思うんだよ、俺は。
いや、もちろんレベル上げとかではクエスト活用してるからな?
攻略する時は自由がいいってだけだぞ。
でもま、チェックぐらいしておいて損はないか。
どんな敵が出てくるのかのヒントだって見付かる。
スネアキャンサーやバインドサーペントの討伐依頼。これは東のエリアだな。確かマングローブ林が広がっていたはずだ。
他にも、木の上から攻撃してくるリスとかがいるらしい。
んで、西の方はゴースト、ウィスプか。
どうやら、亡霊関係のエリアらしい。そういや、アンデッドに回復魔法を当てればダメージ食らったりするのかね?
それなら、ココが大活躍間違いなしだな。
うーん、北エリアの討伐依頼らしいものは無さそうだな。
誰かが北エリアへ行けるようになれば新しく追加されるとかだろうか?
崖の上だし、鳥系のモブが多そうだよな。
って、なんだこの依頼?
「お兄さん、どう? いいのあった?」
「ん? ああ、いや。ダメだ。北エリアの情報が欲しかったんだが、北の依頼は出されてないようだな」
「北? ってことは兄ちゃんもう東と西をクリアしたってことかよ! すっげえっ!」
「いや、違うぞ。あの崖を登ってみようと思ってるだけだ。無理そうなら諦めるが」
「あー。お兄さん、ローツの町初めてだね?」
「最初来たらやっぱりそう思うよなー」
なんだ、どういうことだ?
もう既に誰か登ってるのか?
まあ、崖を登ればショートカットできると考えるやつは他にいても驚かないが。というか、全員考えはするだろ。やるかは別として。
「兄ちゃん、崖登りは無理だぜ。やめとけって」
「なんでだ?」
「見えない壁があるんだよー。これ以上は登れません! って壁が」
「扉的なものがあるから、東と西を攻略すれば通れるんじゃないかって皆言ってるぜ」
システム的に登れないのか。
それはもう、どうにもならないかもしれない。
でも、とりあえず見に行くかな。何か発見があるかもしれないし。トパーズの突撃で穴開いたら面白いんだけどな。
「それで、お兄さん、何見てたのー?」
「そうそう。何か発見してたじゃねえかー」
「ああ。この依頼なんだが。何なんだ? これ」
俺が見付けた依頼は所謂初心者向けクエストだ。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
ペットとはぐれてしまいました。
いつもなら一人で帰ってくるのに……。
探してください。お願いしますっ!
内容
リーリャのペットの捜索
依頼主
リーリャ
報酬
250G リーリャの指輪
△△△△△△△△△△△△
ペットを探すのに戦闘はないだろうし、報酬もあってないようなもの。
どう見ても初心者向けだと思うんだが、ここって第二の町だよな?
薬草採取的なクエストがあってもやるやつなんていないだろ。
「これねー。何かのイベント発生フラグだと思ってる人がいるけど……」
「なっかなか見つかんねえんだよ、このペット。依頼主のとこで詳しい話を聞けば特徴教えて貰えるんだけど、それだけじゃなあ」
「それで、報酬もしょぼいし誰もやらずにクエスト依頼だけが残ってる訳か」
「お兄さん、やってみる?」
ココが俺を覗き込むようにして聞いてきた。
まさか。やるはずないだろ。
どう考えても非効率。時間の無駄だ。
リーリャってNPCとは会ったことも無い。顔も知らないやつを助けるほど俺はお人好しじゃないからな。
リーリャって人には悪いが、俺はパスだ。別の心優しい聖人君子が現れることを祈っておこう。
さてと、崖が登れない仕様なのは知れたし。それの偵察にでも行ってみるかね。
ちょっと、試したいこともあるし、な。




