第七十九話「ローツの町到着」
おおおっ!
総合日間に載れました!
ありがとうございますっ!
そしてまた、ちょっと遅れました、ごめんなさいっ!
「全員準備はいいな?」
『問題ありません、ご主人様』
『おう旦那! いつでもいいぜ!』
「あの、お兄ちゃん? わたしはやっぱり……」
「アウィンには悪いが待機だ。お前を狙ってるやつの目星もついていないし、今から行くのは最前線。第二の町ローツだ。人が多すぎる」
繭の店、オッドボールの入口にて頭にスライム、肩にウサギを乗せた一人のプレイヤー、つまり俺なんだが、そこで二人の人物に見送られていた。
一人は繭。この店からはなかなか出ない引きこもりプレイヤー。
きっとまた、俺が素材を集めてくることを期待して送り出しているのだろう。
もうちょっと、旅の祈願とか目的達成とかそういうのも込めて送り出して欲しいところである。
そして、もう一人。
目深に被った白いローブ。俺を見上げたことで、その下にある綺麗な青い瞳を見ることができた。
藍宝石色の瞳。もちろん、その持ち主は俺のテイムモンスの一人、アウィンだ。
ウィンドウをチェックする。
確かに、アウィンの欄は待機状態になっているな。
これで、イワンの町中央の噴水からローツの町へ転移してもアウィンは来ないはずだ。
ローツの町にどれだけ人がいるのかは分からないが、続々と新規プレイヤーが増えているイワンの町よりかは少ないだろう。
だが、俺の警戒すべきプレイヤーはアウィンの種族、町盗賊の被害にあっていたプレイヤーだ。
つまり、初期プレイヤー。新規プレイヤーの多いイワンの町よりもローツの町の方が初期プレイヤーは多いに違いない。
ローツの町へ転移した後、戦闘可能区域に出てから《リコール》でアウィンを呼ぶつもりではあるが、バレない方がいいに決まっている。
「お兄ちゃん、危なくなったらすぐに呼んでくださいね!? わたし、ずっと戦闘態勢で待ってますから!」
「いや、そこまでしなくていい。やばくなりそうなら繭にメールするから、その時に身構えろ。それまでは休んどけよ」
「……テイク。これ」
ん? 繭が何か渡してきた。
これは、リング? 指輪か?
ってことは!
「おお! ついに出来たのか、繭!」
「ちょっと、苦労した。でも、成功。完璧」
『ご主人様、それは?』
「“初級合金の指輪”だ。前に、癒香のとこでMP回復薬作ったろ? 回復値六百のやつ」
MP回復薬の回復量は注ぎ込まれたMPの十分の一になる。
だが、俺のMPは5,950。どれだけ頑張っても595の回復値にしかならないのだ。
そこで癒香は、俺の付けていた“銀の指輪”を“イワン生産職連合”で開発した“初級合金の指輪”に変え、おまけに“初級合金の腕輪”もつけて俺のMPを底上げ。
結果的にMP回復薬の回復量を上げることに成功した。
でさ。そんなの見せられたらさ。欲しくなるじゃん、やっぱり。
繭に貰った“銀の指輪”はMP+5。それが二つでMP+10。
そして、癒香に借りた“初級合金の指輪”はMP+20。二つでMP+40だ。ちなみに、“初級合金の腕輪”はMP+25だな。
俺にはスキルリングを外す選択肢はないが、それでも指輪の強化は見込める。
ってことで、繭に製作を依頼したのだ。
ヒントは俺が借りていた時のことだけ。
色、重さ、臭い。他にも、MPの回復を待っている間に磁石にくっ付くかとか、握り続ければ温まるかとか、色々実験した。
癒香に聞いても企業秘密って言われるからな。だが、調べるのを止められはしなかったので、ギルドの決まり事なんだろう。
そして、そんなチグハグな判断材料で作り上げてしまった繭も凄い。
時間は掛かったが、本当に作り上げてしまうとは思わなかったぞ。
これで俺のMPは5,980になった。微弱でも強化されたのには間違いないな。
あと、ちゃっかり闘技大会の景品であるスキルリングも繭仕様に塗装されている。
繭の作った装備のみって条件があるが、さすがにスキルリングを作るのは無理だ。
どうやら、塗装することで納得して貰えたらしい。
俺の左腕に装着されているスキルリングを見る。
今日も黒と紫でテラテラと艶めかしく輝いておられる。何故にメタリックにしたし。
“スケルトンウィザードの鞭”の時と同様。今回も変わらず繭の趣味が全開なようだ。
そして、この二つに合う装備が闘技大会の時に貰った魔王装備のみっていうね。
……いや、さすがに着ねえよ?
装備の一つ二つ浮いてたとしてもオンラインゲームではよくあることだ。
「だから諦めろ、繭」
「あの衣装なら、映える。絶対」
「笑われるのが目に見えてんだよ」
『旦那! オレは好きだぜ、あの装備!』
「わたしも! カッコイイと思います!」
「うるせえ! ほら、もう行くぞ! 繭、指輪製作お疲れ様。ありがとな」
「…………ん。それが、繭の、仕事だから」
「お兄ちゃん、行ってらっしゃいっ!」
よし、目指すは第二の町ローツだ!
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「で、到着したのはいいんだが」
イワンの噴水からローツの町へ。
どうやら、この町も中央に噴水があってそこが転移ポイントとなっているようだ。
で、着いていきなり目に付くのは目の前に堂々と聳え立つ崖。いや、もうこれ壁ってか城壁レベルだな。
ミニマップによると、崖は北側にあるらしい。
つまり、第三の町は崖の上か。東と西のボスを倒せば行けるようになるんだろうな。
崖は東西へ際限無く伸びているように見える。
どこかで途切れるのかもしれないし、穴があるとも考えられるが、見た限りそんなことは無さそうだ。
さて、ここで俺の選択肢は四つ。
一つは、南に行って“沼の主 異形の泥蛙”を俺達だけで倒して、ソロ討伐報酬を狙いに行く選択肢。
だが、最初の突撃を耐え、尚且つ周りに“火種”を配置するまで動きを止める方法が思いつかない。
それさえ出来れば後は巨大火球とトパーズで仕留められるだろうが、今は無理だな。
二つ目と三つ目は、東のボスを倒しに行くか西のボスを倒しに行くかだ。
まだ、この崖を登った話は聞かないし、今一番人が集まっているところだろう。曲がりなりにも情報屋であるウィルが言ってたんだから信憑性はある……と思う。きっと。
しかし、やはり問題はある。アウィンを呼べないのだ。何しろ、人が多すぎる。
ローツの町中にも結構な人がいるのだ。一番人気な選択肢を選んでしまうと間違いなく人の数は多くなり、アウィンがトラブルに巻き込まれる可能性も高くなる。
かと言って、アウィン抜きで攻略を進めるのは効率が悪い。そもそも、三人で攻略できるかは怪しいところ。
行くなら知り合いを誘うか、他のプレイヤーが北へ進出してからだな。
最前線の攻略組ってのに興味はない。競走だってする気はないんだ、俺は。
そして、四つ目の選択肢。
正直、こんなことするのはどうかと思うんだが……。
四つ目は、崖を自力で登ること。
東と西のボスをスルーしてしまおうって作戦だ。
これなら、他プレイヤーは皆無。アウィンを呼ぶこともできる。
それに、もしこれができれば俺が最前線を開拓することになる。興味は無いがやっぱり最前線に立ってみたくはなるからな。
で、問題としてはそんなことができるのかだが……。
これは、行ってみないことには分かんねえよな。
「ってことで、とりあえず北に向かうぞ。目指すはあの崖の足下だ」
『ご主人様の行く所ならば何処へでも』
『へいへい。んじゃ、さっさと行こうぜー。……ん? おお、あの娘可愛いじゃん。ほら、オレのこと触りに来てもいいんだぜっ!』
『ご主人様、早速、出発しましょう』
ん、ああ。
でも、確かにあのプレイヤーは可愛いな。
もしかしたら、俺の肩で毛繕いし始めたトパーズをダシにしてお近付きに……。
『……ご主人様』
「よし、行くぞトパーズ! 今は攻略のことだけを考えようぜ!」
『そ、そうだな、旦那! かわい子ちゃんは二の次だな!』
だから、スライムの身体を頬の辺りに押し付けないでくださいませんかね、ラピスさん!
頭の上から冷たい感触が『たらぁ……』と伝わって、なかなか恐怖を感じるんですよ!?
ラピスにせっつかれる様にして噴水を離れた俺達は崖へと歩く。
イワンの町に比べて、背の高い建物は無く商店も少ない。あまり商売は考えられていないようだな。
この町のできた理由はなんだろうか。イワンの町は流通の町って感じだったがこの町は……。
遠くには櫓が見える。崖に近付くほど家は少なくなり、代わりに見えてくる防衛施設。戦闘の傷跡も少なくない。
「ほんと、この町は何なんだ?」
「あれ? あれれれ? もしかして! ししょーっ!」
「おお! 師匠!」
「……ココとテオか。師匠って呼ぶなっつったろ」
「えへへー。ついつい」
「師匠の名前なんだっけ。とにかく久しぶりだな!」
「テイクだ。それぐらい覚えとけよ」
うるさいのに出会ってしまった。
この二人は確か、“イワン生産職連合”に所属しているはずだったな。
こんな兵器ばっかりが並んでいるところで何やってんだ?




