第七十七話「アウィン親衛隊」
またちょっと遅れちゃいました!
すみません!
束の間の静寂が訪れたオッドボール談話室。
「おい、ウィル」
「んー?」
「今、何て言った?」
「ギルド“マイエンジェルアウィンたんを守るために立ち上がった同士達の会”の設立を宣言しまーすっ!」
何だそれは。
ダメだ。思考が追いついていない。
いや、勝手にギルドを作ったりするのはいいんだよ。俺の預かり知らぬところで俺に関係の無いギルドを設立するのなら何の問題もない。
俺の目の前で、しかもバッチリこれから厄介事を持ってくるぜと言わんばかりのギルド名を宣言されたのなら、放っておく訳にもいかない。
「おい、ウィル」
「オニーチャン、俺ちゃんの対応、雑になってない?」
「知るか。とにかく、んなギルド作らせねえぞ。そもそも、傘下組織とか言ってたが」
「……繭は、聞いたこと、ない。初耳」
「そりゃそーだよー。だってそんなシステムないんだもん」
ねえのかよ。
てっきり、あるのかと思って繭に聞こうとしちまったじゃねえか。
まあ、聞く前に繭からは返答されてしまったが。
何だかんだで、繭とは別ゲーの時からの付き合いだ。
意を汲み取ることだって出来てしまうのかもしれない。
俺が繭の意を汲み取ることは難しいと思うが。
いや、だって前髪で表情なんてほぼ分かんねえし。判断材料になるのが声だけでも、気分の善し悪しが分かるって時点で我ながら結構凄いと思うぞ?
「傘下組織ってのは、俺ちゃん達の気分の問題だけだねー。ま、気にしないでちょ!」
「そうだとしても、せめてギルド名は変えろ。ギルドを作るなとは言えないが、ギルド名が厄介事の気配しか感じない」
「えー。イケてると思うんだけどなー」
「そう思うならお前のセンスは壊滅的だ」
「そーかなー。それにさ、オニーチャン勘違いしてるみたいだから言わせてもらうけど、このギルドはね、アウィンたんを厄介事から守るためのギルドだよ?」
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ウィルの話は聞いてるとイライラしてくるので省略。
言葉に無駄な装飾があって非常に非効率なんだよ。
簡単にまとめると、ウィルの作るギルドはアウィンに近付くために必須となる組織であるらしい。
これだけ聞くとよく分からんが、アイドルの握手会に参加するためにはファンクラブに入会する必要がある。って感じだな。
なぜ、そんなことをするのか。
それは、アウィンへ危害を加えようとする輩をあぶり出すため。
常に、アウィンの近くにいることでアウィンへ近付く者を警戒し、手を出せなくするそうだ。
ファンクラブという名のガードマン集団ってとこか。
どうやら、ウィルの連れてきたプレイヤー達も、掲示板で募集しただけらしく、もしかするとアウィンへ復讐しに来たやつも紛れている可能性が高いらしい。
そいつらを全員、ギルドに放り込んで相互に監視させるって作戦だな。
普通にアウィンを愛でたいだけの奴らからすればただただありがたいギルドだが、報復を考えているプレイヤーからすると、とてつもなく面倒な集団ってことになる。
正直、驚いた。
ウィルはふざけているのだと思っていたが、結構真面目に考えられた作戦だったんだな。
確かに、この作戦は効果が期待できる。
むしろ、俺達からすれば、無償でガードマンが雇えるようなものだ。
ただ、デメリットもある。
まず、ウィルの作るギルドに所属することで旨味を感じられるようにしなくてはならない。
どうするかなんて、1つしかない。
アウィンを目的としてる奴らなんだ、アウィンを生贄とするのがいいんだろう。
だが、そうなると、アウィンをゲーム攻略に連れ出すためにタイミングを見計らう必要がある出てくる。
それに何より「アウィンたん」とか言っている連中にアウィンを渡すのは色々危険だ。
かと言って、対策をしなければゲーム攻略どころか外に出るだけで支障が出る。
垢バンだって、このゲームの運営がしてくれるとはあまり思えないし、そもそもエリーの話の事もあって運営が信用ならない。
「おい、ウィル」
「オニーチャン、さっきからそればっかりだねぇ。なんじゃらほい?」
「そのギルドを作った後は、お前が管理するのか?」
「そのつもりだよん。アウィンたんへの愛情は、誰にも負けやしないさぁ!」
「あ、あの、えと、ありがとうございます?」
「アウィン、答えなくていい。ほっとけ。繭、こいつがリア友なのは間違いないんだな?」
「……ん。間違い、ない」
ってことは、身元が割れてるだけまだマシか。
繭とグルになって俺を騙そうとしてるなら話は別だが、繭との付き合いは長い。繭に騙されることは考えたくもないな。
繭は白。そのリア友も、赤の他人よりかは信用しやすい。
「ウィル」
「あり? おい、はどっかやっちゃったの?」
「……おい、ウィル」
「はいはーい!」
「そのギルドを作るにはアウィンの協力が不可欠なんだろ? アウィンには申し訳ないが、どうやらこの話に乗った方がいい様だ」
「お兄ちゃん。わたしは、大丈夫です。お兄ちゃんのことは誰よりも信用してますから!」
『アウィン、その言葉は聞き捨てなりませんね』
『ラピス姐! 今は黙っとけって! 空気読んどこうぜ、ここはよぉ!』
「んん? ってことは、ってことは!?」
「ただし、条件がある」
「じょうけんー?」
このギルドに入ればアウィンに何でもできると思われては困る。
そもそも、他のゲームのNPCと同じように接されるのもあまり、気持ちのいいものではない。
「条件と言っても、そこまで多いものじゃない。俺達、ギルド“オッドボール”のメンバーおよび、そのテイムモンスターに不利益が被らないこと」
「まあ、そだね。おっけ、おっけー」
「アウィンに触れるのは握手会とかのイベント時のみ。スクショはやってもバレないがあんまりさせないでくれ」
「おおー、なんかほんとにアイドルっぽいねぇ。僕らのアイドルアウィンたん! うん、これもいい」
「……後の細かいとこはそっちで決めてくれ。繭、そこら辺は任せてもいいか?」
「ん。ウィリアムとは、話す時間、多いし。任された」
「ほうほう。こんなもん?」
「いや、あと一つ。一番大事な条件が残ってる」
もしこれが飲めないって言うのなら、この話はなしだ。
別の方法を捻り出す。
「んー? 大事な条件ってなんよ? ほれほれ、はよ言ってみー」
「ギルド名を変えろ」
「異議ありっ!」
「認めん。即刻変更しろ」
「何故だ! 何故、“マイエンジェルアウィンたんを守るために立ち上がった同士達の会”がダメなんだ……!」
「長ぇよ! てか、んなギルド名こっちが恥ずかしいわ!」
「なら、“不埒な輩からマイエンジェルアウィンたんを守れ! 君の力が必要なんだ!”だったらどう!?」
「却下だ! てか、繭と同じレベルのネーミングセンスだぞ、それ!」
「む。テイク、それ、どういう意味」
「繭ちゃんのセンスは神がかってるよね! 俺ちゃん、シビレビレ!」
「とにかく、そういうんじゃなく、ファンクラブとか親衛隊とかにしとけ!」
「マイエンジェルアウィンたんファンクラブ!」
「“アウィン親衛隊”で決定! それ以外は認めん!」
「ええー!? マイエンジェルは!? アウィンたんは!?」
くそっ、こいつしつこいな!?
これでも譲歩したんだ、“アウィン親衛隊”でもいいだろが!
それに、これからエリーに会いに行かなくちゃならなくなった。
アウィンが消されるのか待つしかないと思っていたが、聞きに行けるじゃねえか。
ああ、ゲーム攻略に乗り出せる日はいつになるんだよ!
これにて、第3章「闘技大会編」は終了です!
説明回多くてごめんなさい。
次回からは閑話を挟んだ後、第4章「ローツ攻略編」を更新していきます!




