第七十話「人工異世界」
区切るところが見付からず、いつもより長めです。
(2017/02/28)
感想でご意見を頂き、エリーとメリーが悪人すぎたので、少し改稿致しました。
ちょっとだけマシになった程度ですが……
ご意見をくださった方々、ありがとうございましたっ!
イワンの町にある、ごく普通の一軒家、そのリビング。
そんなところに、プレイヤーが三人とモンスターが二人集まっていた。
その内の一人は俺だ。
そして、現在この部屋に閉じ込められている。
主犯者は目の前の二人、エリーとメリー。
どういう原理かは知らないが、なんの変哲もないドアをロックしやがった。
戦闘になる雰囲気はない。
というか、俺をここに閉じ込めた理由は分かっている。俺と話をするためだ。戦闘になる確率は低いはず。
「閉じ込めるような真似をして、申し訳ありませんわ。ですが、どうしても貴方には聞いて頂かなくてはならないお話がありますの。どうかご着席くださいませ。私も話辛いですわ」
「俺は一人じゃないが、いいのか? ラピスとトパーズがいるぞ」
「その二匹なら大きな問題はありませんわ」
どうする。保険としてアウィンを《リコール》で呼ぶか?
手札が増えればやれることも増えるだろうが……。
いや、やめておこう。
《リコール》を使うことだって一つの手段だ。
戦闘が始まってからは使えないが、使った直後に戦闘を始めることはできる。
意表をつくにはうってつけの方法になる。
それに、アウィンがいれば長話が更に長くなること間違いなしだからな。
「ほら、座ってやったぞ。話すこと話して解放してくれ」
「あら、存外素直ですのね」
「俺がどうにかすればこの部屋から出られるって訳でもなさそうだしな。癪だが、無駄な足掻きをするより、お前の話をパパッと聞き流した方が効率的だ」
「お言葉ですが、テイク様。お嬢様に向かってその物言いは」
「メリー。いいのですわ。この方はそういうお人なのでしょう。今は話の席に着いて頂けただけで充分です」
「……失礼致しました」
あれ、エリーの方が色々言ってくるかと思ったらメイドの方が突っかかって来たな。
まんまと話を聞くしかない状況にさせられてちょっと悔しかったから、からかってやろうと思ったんだが。
コイツ、俺に慣れ始めてやがる……!
『うー、ん? あー、たく、気持ち悪いな』
『トパーズ、あまりご主人様の耳元で挙動不審にならないで下さい』
『キョドってねえよ! ちょいと、気になることがあるだけだ』
『……また、胸ですか』
『違ぇよ! 確かにメリーちゃんのには興味あるけどな、今回はそうじゃねえ!』
『卑猥』
『だぁから、違うっつってんだろ!?』
そっと、スキルリングを左手首から外す。
耳元と頭上で変な言い合いをするな。俺までメリーの胸元が気になってきたじゃねえか。
「なにか?」
「いや、別に……」
「こほんっ。それでは、テイクさんへお話致しましょう。貴方には知る権利が与えられましたの。そして、知って貰わねばならないのですわ。この人工異世界“ESO”を創造した目的を」
……うっわー、想像以上に長話になる予感ビンビンなんですけどー。
適当に相槌打ってほとんど聞き流しとこう。それっぽい単語を聞き取っときゃ、後で内容を答えろって言われても何とかなんだろ。
最悪、ラピスが聞いてるだろうし、《精霊言語》で答えを教えて貰えばいいや。聞いてるフリだけしとこ。
「まず、始まりは貴方のお姉様メグミがエゾルテに召喚されることでした」
「……はあ!? 姉貴が!? 召喚!? 異世界に!?」
「そうですわ。今までは王国側のみに与えられた特権でしたが、レティスにだって召喚ぐらいできるのです」
「待て! 待て待て待て! 意味が分からん! どういうことだ!? なんで姉貴が!?」
「そして、メグミを召喚することで魔王様は」
「聞けよ! 待てよ! 理解できてねえんだよこっちは! もっとゆっくり噛み砕いて話してくれ」
「私の話は聞き流すのではなかったのですか?」
「分かった。俺が悪かった。到底、聞き流せる話じゃねえよ、これ」
くそ、後で姉貴に確認するとしても俺が理解してないと何を聞けばいいのかも分からねえ。
異世界があるとかないとかはこの際置いておこう。
とにかく今は、エリーの話を覚えることに専念して、後で姉貴に確認を取る。それしかできない。
「それでは改まして。この“ESO”の目的。話させて頂きましょう」
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「……ですので、この世界は創られ、貴方にこうしてお話することになったのですわ」
「頭痛い。作り話だと言ってくれりゃ楽になるんだが」
「全て事実ですわ。メリー、お茶のお代わりをお願い致しますわ」
「かしこまりました、お嬢様」
急須から緑茶を湯呑みへ注ぐメイドと、その湯呑みを手に取り小さく啜る金髪少女。
この光景も頭痛の種な気がする。
エリーの話をできるだけ短くまとめるとこうだ。
まず、異世界エゾルテでは王国領と魔王領で長年小競り合いをしているらしい。王国側はひ弱な兵士しかいないが、代々伝わってきた切り札“召喚魔法”が使える、と。
で、その呼び出された奴は強力な力を持っていて、召喚の過程で洗脳され魔王を倒すための手先になってしまう。
ここら辺はよくあるやつだな。まだ分かりやすい。
だが、これがノンフィクションだとか言うから質が悪い。
洗脳て。怖ぇよ。まあ、そいつが暴れたらひ弱な兵士じゃ手がつけられないってことだろうが。
問題はここから。
なんと、魔王側も召喚魔法を開発しちゃったのだ。
だが、洗脳はできないし、とてつもなく膨大な魔力を必要とするとか、何とか。
そして、栄えある召喚第一号が俺の姉貴、矢柄 恵だったそうな。
もうね、ツッコミどころ満載でどうしましょうかね。
とりあえず、王国側が可哀想だな。切り札開発されちゃったよ。どうするんだろう。
どうやら、現魔王が魂を操ることに長けていたからこそできた芸当だそうだ。
姉貴がこっちにいることは矛盾じゃないのかと聞いたところ、返還機能は付いているのでちょっとは良心的なのかもしれない。
だが、ここでアクシデント発生。
姉貴を召喚することで、魔王の魔力が枯渇。今、魔王は結構ヤバい状態らしい。
なんでも、召喚に必要な魔力は計算通りだったが、姉貴が異世界へ行くことで代わりにその分の魔力が地球へ送られたとか。しかも、そのせいで姉貴の帰る分の魔力がないと来たもんだ。
姉貴が地球へ帰るために異世界で頑張ってたとこは割愛。長いからな。
そもそも、姉貴は冒険とかする性格じゃない。姉貴が向こうでなにやってたか軽く説明すると、召喚魔法を色々弄ってたんだとさ。姉貴らしい。
そんなこんなで帰るための魔力も集まり、召喚魔法も繋げてしまえば行き来が可能な優れものへと変貌し、いざ帰ろうとしたところでまたもや事件発生。
神妙な面持ちの魔王様、姉貴の腕を見込んで頼み込む。
俺様の跡取りのため、協力して欲しい。
はい、ここで弟の俺プッチン。
一人称が“俺様”なんて奴に姉を渡せるかってんだ。
暫くエリーの話が中断してしまったが、どうやら俺の勘違いだったらしい。
というのも、魔王の跡取りは魔王の魔力を持つ奴の中で一番強い奴がなるそうなのだ。
しかし、まさか召喚魔法で魔王が死の淵に立たされるなんて考えていなかった魔王領の皆さん大慌て。
一刻も早く、魔王の魔力を持つ人物を探さなくては跡取りができる前に魔王が死んでしまう。
そこで思い付いたのが召喚魔法開発陣のメンバー。姉貴曰く、地球には魔力はない。それでは、あちらの世界へ行ってしまった魔力はどうなってしまったのか。
姉貴自体は異世界へ渡り練習することで魔法が使えるようになった。つまり、地球人へ魔力が宿ることは可能。魔力が地球で存在するために人間へ吸収された可能性も無いわけじゃない!
それじゃ、どうやってそれを判断するのか。魔王の魔力を持つのなら、恐らく他の人とは違う特徴があるはず。
どうやって見分けようか、まさかそれっぽい地球人を全員エゾルテに召喚する訳にもいかない。
よし、それじゃ、エゾルテに近い世界を人工的に作ってしまおう!
誰がこんなこと言い出したのか。残念なことに俺の姉だ。そしてそれが、今俺達のいるゲーム世界なんだとさ。
どう考えても信じられねえ。だが、ここはぐっと我慢だ。姉貴に確認すればことの真相なんてすぐ分かる。
姉貴は魔王の魂を操る力を使って俺達の言う“VR機器ヘッドギア”を作り、人工異世界へダイブする機械を作った。
これが本当なら、そりゃ、姉貴の会社以外に精神投影型VRが真似すらできないのも納得だ。生産工場だって、国外どころか世界外だなんて思うまい。
どうやって剣と魔法の世界であんなメカメカしいものを作ったんだろう。やっぱ魔法なのか。むしろ、ヘッドギアの中身なんて体裁を整えるだけのほぼ無意味なものなんだろうか。
ダメだ、考えれば考えるほど、どつぼに嵌まる。どうせ無駄な思考なんだし、やめておこう。
それで、こんな話をわざわざ俺に話したってことは、俺が関係者だってことだよな。
姉貴が渦中の人ならガッツリ関係者ではあるが、それが理由ならもっと早くに教えられたはずだ。それこそ、リリース初日やβ版でだって。
そうせずに、ここまで引っ張ってきたってことは。
「俺がその魔王サマの魔力を持ってることが闘技大会で発覚したからこうして話をしてるってとこか」
「闘技大会は貴方の力量を量るための材料に過ぎません。魔力に関しては少し違いますの。前回言ったはずです、貴方は少し特殊なのだと。そもそも、テイマーはモンスターの魂を扱う職。魔王様の魔力に一番近い能力ですわ」
「だから、俺がそうだって話じゃねえのか? 見た通り俺はテイマーだぞ」
「ええ、貴方は紛れもなくテイマーです。しかし、貴方は殲滅数上位十名の中に入ったことにより、異世界側から相性のいい魔力を注ぎ込まれ強制的になった、所謂、人造テイマー。極一部の自分の才能でテイマーを選んだ方々には魔王様の魔力が宿っている可能性がありますが、貴方は少々勝手が違いますの」
どういうことだ、話が見えない。
つまり、俺は強制的にテイマーとなっただけで魔王の魔力がないってことか?
なら、魔王の跡取りになる可能性だってないはずだ。エリーが俺にこの話をする必要も無い。
「分かりませんか? エゾルテで貴方と相性のいい人物なんて一人しかいませんわよ」
「……姉貴か」
「ええ。そして、メグミの魔力は召喚時に魔王様から授かったもの。間接的ですが、現在確実に魔王の魔力が存在していると言える地球人は貴方とメグミだけなのです、テイクさん」
感想でご指摘が来る前に……
他のテイマーについては次話の最初に!
これを入れてしまうと、またもや区切りどころがなくなっちゃうので。汗




