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極振り好きがテイマーを選んだ場合  作者: ろいらん
第3章「闘技大会編」
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第六十六話「大将」

あああ、またちょっと遅れちゃいました!


申し訳ありませんっ!

 闘技大会テイマー部門決勝戦。

 そこで俺は窮地に立たされていた。


 先鋒、トパーズ。中堅、ラピス。

 その両者がたった一体のテイムモンスターによって、儚く散ることとなったのだ。


 “森林の大狼(リェース・ヴォールク)”。

 さすがにボスモンスター、強い。

 更に、決勝の相手、エリーはもう一体テイムモンスターを隠し持っている。

 絶望感が(ただよ)い始めてもおかしくないな。


 だが、ラピスもトパーズも何もせずやられた訳じゃない。

 狼の頭上に浮かぶHPバー。その残量は半分もなく、今も刻一刻と減っている。息遣いもどことなく苦しそうだ。

 これはラピスの付けた傷痕。ラピスはLv.1の毒を付与できる。Lv.1だからダメージも影響も軽微ではあるが毒は毒だ。


 それに、ここからはまどろっこしいことなんて無しの運動能力がものを言う勝負になるはず。

 ほんの少しでも毒で動きの鈍っている狼がこいつに付いて来れるか?


「最初から、飛ばして行けよ、アウィン!」

「と、飛ばすんですか? ナイフを投げちゃえばいいんでしょうか!?」


 さあ、初お披露目と行こうか。


 ……頼むから恥はかかせないでくれよ。


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~


「おい、オッドボールのギルマス側から出てきたの、人型モブじゃねえか!?」

「あれ、テイムモンスターか!? どこにそんな敵モブがいたんだよ!?」

「はあ!? あの娘、NPCじゃなかったのかよ!? 前に聞いた時はクエスト用NPCだ、って」


「おい、人型モブなんていたか?」

「いや、第二の町ローツでも発見報告は聞いたことないな」

「……ふーん、これはちょっと、好奇心が(うず)いちゃうねぇ」


「なあなあ、あのテイムモンスター、よく見たら……めっちゃ可愛くないか?」

「……実は俺も思ってた。遠目だが、あれはまさしく美少女っ!」

「ギルマスが何か言ったぞ! あうぃん? アウィンちゃんって言うのか!」

「アウィンちゃんも何か言ってる! 声可愛いな、おい!」

「おい、お前ら、俺は凄まじいことに気付いてしまった。あの娘はテイムモンスター。テイム(調教)、されたんだよ……!」

「「うおおおおおおおおっ!」」

「やっかましいわ! あんた達、アウィンに何かしたらただじゃおかないわよ!」


 ……。

 うん、とりあえず、目の前の試合に集中しよう。

 耳に飛び込んでくる怒号やら歓声は極力無視する方向で。

 ……調教がどうとかは完全に濡れ衣だからな?

 そこら辺はユズに任せとこう。どうやらいるみたいだったし。


「アウィン」

「はい! 任せてください! ちゃんと当てられる自信はあります!」

「ほぼ唯一の攻撃手段を投げるな。いいか。俺の声をよく聞いとけよ。お前、今はラピスがいないんだ。防御もできなけりゃ(かす)っただけで終わりなんだからな」

「了解しましたっ!」


 アウィンの調子はいつも通り。どうやら緊張はしていないようだな。

 まあ、緊張なんてしていたら大会どころじゃない。今まで大会で見てきたテイムモンスターも緊張しているような奴はいなかったし、システム的なものかもしれない。

 ま、普通に動けるなら朗報だ。単にアウィンが図太いだけかもしれんが。


「……驚きましたわ。まさか、貴方の三体目がそんな子だったなんて」

「おっと、驚くのはまだ早いぞ? 俺のテイムモンスターがそれだけで終わるはずがないだろ」

『ぬ!?』

「てい! やあ! たあ、たあ!」


 気付いた時にアウィンはいない。

 (またた)きの合間に(ふところ)へと潜り込む。

 見失った頃には死角から、気の抜けた掛け声と痛みに気付く。


「なっ、いつの間に!?」

『この、小娘が!』


 狼の身体の軸が動く。重心は右後ろ脚。

 顔の向きは左に少し傾いている。左前脚が少し浮いた。

 ってことは。


「アウィン! 左に見える脚に近付け! その後離脱だ!」

『くっ、逃したか』

「リルちゃん、見えましたか?」

先程(さきほど)は油断した。まさか、あのような速さで駆けるとは』

「よく見て、対処してくださいませ」

『承知』


 よし、まずはいい感じに攻められたな。

 毒のおかげか、動きが読みやすい。これなら、アウィンへの指示もできるだろう。

 デカい狼の懐へ入れば周りなんて見えない。それを俺がカバーする。

 俺が判断を間違えれば終わりだ。アウィンにあの攻撃は耐えられない。


「その調子だ! もういっちょ、行ってやれ!」

「行ってやりますっ!」

「リルちゃん!」

『確かに速度は目を見張るものがあろう。だが、斯様(かよう)な速さ、扱いきれる訳がない!』


 アウィンが狙いを定め走り出すと狼が大きく脚を横薙にする。

 アウィンの進行方向を見て、経路を塞ぐ作戦か。

 言われてみれば、アウィンの速さで走れば戦闘どころか、移動だって満足にできないかもな。実際、俺がDEX(素早さ)極振りした時は壁にぶつかりまくったし。

 ただ、なあ。


「てやぁ!」

『なに!?』

「アウィンの場合、そこら辺はセンスなんだろうなあ」


 突然目の前に現れた自分を薙ぎ払おうとする巨大な脚。

 しかし、その動きをアウィンの青い瞳は逃さない。

 前脚で薙いだのなら、その付け根に空間が出来る。そこへアウィンは加速することで入り込んだのだ。

 ま、アウィンはそんな小難しいこと考えちゃいないだろうが。攻撃が来たから避けた。それだけなんだろう。


 駆けながら後ろ脚へ必要最低限の攻撃をして、その場を離れるアウィン。

 ここからはヒット&アウェイだ。

 チャンスは必ず、来る。


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~


 アウィンの戦いが始まってからどれだけの時間が経っただろうか。

 アウィンはまだ健在。HPバーもフルで残っている。

 しかし、このHPは一発食らえばあっという間に消え去ってしまうだろう。フルだからといって余裕を持つことはできない。


 大狼のHPは残り二割を切った。

 だが、毒は自然治癒してしまい、アウィンの動きにも慣れ始めている。

 さっきの攻防は危なかった。アウィンの動きに合わせて微調整してきたのだ。

 焦る様子もない。やはり、油断はできないな。


「アウィン、こっからは今まで以上に気合い入れろよ」

「は、はい! 頑張りますっ!」

「リルちゃん、対処できるようになったとは言え、このままでは何も変わりませんわ。幸い、攻撃力は低いようですので、(から)め手も使いましょう」

『御意』


 またしても、息の詰まる攻防が始まる。


 今まで通り、先に動くのはアウィン。

 狼が動いてくれれば隙が出来るってのにいつも待ちの姿勢だ。

 自分からの攻撃では、アウィンに当てることは無理だと判断したのだろう。

 そのせいで仕掛けるのはいつもこっちだ。カウンターを決められれば即終了。緊張感が凄まじい。


 アウィンは反時計回りに大きく弧を描くように走る。

 そして、狙いが定まれば一気に加速する!


「左から横薙ぎだ!」


 狼の左側から突っ込んだアウィンだったが、突撃のタイミングは既に掴まれてしまったようだ。

 いとも簡単にアウィンへと向き直り迎撃の体勢を取られる。

 攻撃を当てられずに下がることも多くなってきた。今回もダメだったか?


「今です!」

『悪く思うな、小娘』

「え? きゃあっ!?」

「アウィン!」


 なんだ、何が起こった!?

 今、アウィンに大狼の脚は当たっていなかった。急にアウィンが吹っ飛んだぞ!?


 巻き起こるブーイングの嵐の中考える。

 恐らく、今のは魔法だ。今まで使って来なかったのはMPの節約だろう。《ハウリング》にだってMP消費はある。

 MPは魔法よりも《ハウリング》に使いたかったはずだ。“森林の大狼(リェース・ヴォールク)”は物理攻撃主体だった。INT(知力値)はあまり育てていないんじゃないか!?


「うう、ちょっと痛かったです」

「アウィン! 避けろ!」


 アウィンは生きてる! HPバーは半分以上減ったがテイムモンスターの痛覚設定は減り幅ではない。動ける。

 だが、敵さんがこんなチャンスを見逃してくれる訳もない。

 大狼が迫っている!


「え? わ! わわわっ!」

『これで(しま)いだ、小娘』


 ダメだ、間に合わない!

 何か手はないか!? 考えろ!

 アウィンの持つ手札はなんだ!?

 アウィンは今、何ができる!?


「アウィン、飛ばせ!」

「は、はい!」

『見苦しい! 今更そのようなものを投げたところで……っ!?』


 大狼の動きが止まる。麻痺だ!

 アウィンの持つ“隠しナイフ”には麻痺の状態異常が付与できる効果がある。


 そもそも、今まであれだけ攻撃しているのに麻痺にならなかったことがおかしかった。

 それとも、大狼がついに身体を動かしたことによって麻痺毒が身体を回ったなんてことは……このゲームだとしてもさすがにないか。きっと運が良かっただけだな。


 隠しナイフの麻痺はLv.1。すぐに解ける。それまでに!


「アウィン、ナイフを回収したら狼に飛び乗れ! チャンスをものにしろ!」

「リルちゃん! しっかりしてくださいまし! 乗られては面倒になりますわ!」


 ナイフは大狼から少し離れた場所にあった。だが、これくらいアウィンなら間に合う!

 しかし、俺はどうやらボスモンスターの回復力を見誤っていたらしい。


『調子に乗るなよ、小娘!』

「なに!? アウィン! 来るぞ!」


 大狼が後ろ脚を踏ん張りアウィンへと向き直る。

 麻痺状態の時、既に息を吸っていたのだろう。《ハウリング》をノータイムで撃ってくるつもりだ!


 トパーズの時に撃っていたが、《ハウリング》は一度の戦闘につき一度きり。つまり、対戦相手が変われば撃てるってことか!


「ま、それは知ってたんだがな」

「お兄ちゃん!」

「ああ、来るぞ、チャンスだ!」


 アウィンが大狼へと走る。

 大きく口を開けた大狼へ、一直線に。

 別にやられに行くためじゃない。チャンスを掴みに行くためだ。


『ぐ、うあぁあ!?』

「リルちゃん!? 一体何が!?」


 ハウリングはその衝撃を後ろ脚で支える。トパーズでさえハウリングの時は動けないほど後ろ脚に負荷がかかるのだ。

 そして、大狼の後ろ脚、特に左後ろ脚はそれに耐えられない。

 トパーズの突撃をまともに受けた脚だ。耐えられるはずもない。


 ハウリングはアウィンを逸れていき、大狼の身体は傾いた。

 もう、チャンスは訪れない!


「飛び乗れ、アウィン!」

「起きるのです、リルちゃん!」


 チャンスを掴め、アウィン!

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