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極振り好きがテイマーを選んだ場合  作者: ろいらん
第3章「闘技大会編」
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第六十五話「中堅」

第五十九話「闘技大会二回戦」にて

コメントでどういった動きをしているのか分からないという指摘を受けましたので加筆致しました。

少しこの第六十五話とも連動しているので、第五十九話を読んでからお読み頂くことをオススメします。


時間のない方は、第五十九話の改稿前のみを読んだ状態でも恐らく楽しんで頂けるとは思いますので、そのままスクロールして頂ければと思います。

 昨日の闘技大会テイマー会場最終戦。俺とミルの試合では、俺のテイムモンスターが現れないまま試合が展開されていた。

 そして現在、全く同じことが行われようとしている。


 俺のテイムモンスター二体目。

 中堅を務めるテイムモンスターはその姿を隠し、毒牙を敵の狼へ向けていた。


 ……まあ、実態は小さなスライムってだけだけどな。


 ミルとの試合でやったことと基本的な作戦は同じ。試合が始まる前に限界まで《分裂》し、見付からないよう攻撃していく。

 だが、前の試合とは違うこともある。


「リルちゃん、気配はいかがでしょうか」

『……微弱だが、存在はしている。確かに今、我と相対しているのであろう』

「気配を追うことは?」

『可能ではある。が、容易ではない』

「どういうことですの?」

『はっきりしないのだ。此方かと思えば彼処におり、其方にも存在している。そもそも、気配が希薄。読み辛くて適わぬ』


 あー、やっぱりテイムモンスターと話せるって羨ましいな、ちくしょう。

 アウィンを通じて擬似的(ぎじてき)にラピスやトパーズの意見を聞くことはできるが、やはりああやって話し合うことができればと思ってしまうな。


 だが、どうやら予想通り《気配察知》スキルを持っていたようだな。

 まだまだ序盤で使えるスキルポイントも限られてくると《気配察知》に振れるポイントもないはず。恐らくLv.1のままだ。


 そこで、ラピスへ出した指令は“とにかく散らばれ”。撹乱作戦だ。優秀なレーダーを持っているとそれに頼りたくなるのが(さが)ってもんだろ。

 そして、時々《擬態》を解かせればラピスが瞬間移動しているようにも感じられる。


 しかし、この作戦にも問題はある。

 どれだけラピスが小さくて、《擬態》を使っていたとしても青いボールが動いていれば気付かれるよな。

 足元で綺麗なビー玉が転がってれば普通は気付く。


 だが、もし自分のいる部屋が色んなものの散乱する汚い部屋だったら?

 そこにビー玉が転がっていたとしても気付くことは難しいんじゃないだろうか。しかも、ビー玉があることを知らず、ビー玉自体は隠れようとする意思を持っている。簡単ではないだろうな。


 そして、俺の目に広がっている闘技場はどうなっているかと言うと、辺り一面、陥没し、ヒビ割れ、壁の装飾が破壊されて瓦礫(がれき)の転がっている悲惨(ひさん)な状態。

 何故か。答えは決まっている。ここでさっきまでトパーズ(怪物)が暴れまくっていたからだ。


 先鋒トパーズ、その役目は中堅ラピスの舞台を作り上げること。

 傍目からは突撃する方向を絞られないように動きまくっているのだと思われたかもしれない。だが、実際はラピスが戦えるよう、こちらに有利な戦場を作っていたのだ。

 突撃好きなトパーズは、暴れられてスッキリしてんじゃないかな。


 ラピスは今、どうしているだろうか。

 遠くに転がってるビー玉を探すなんて俺には無理だ。そこまで目がいい訳じゃない。

 作戦通りなら、瓦礫やヒビ割れの影に隠れながらじわりじわりと大狼に近付いているはず。


「リルちゃん、じっとしていても状況が変わることはありませんわ。動きましょう」

『…………』

「リルちゃん」

『……御意』


 大狼が動き出した。

 いいぞ、近付いてくれる分には大助かりだ。


 《気配察知》がどうやって場所を特定してるのかは知らないが、狼からは、得体の知れないものが自らを包囲せんと近寄ってきてるように見えるんじゃなかろうか。

 そこに足を踏み入れようとするのは勇気のいることだ。


 ま、進むにしろ待つにしろ、結果は同じ。

 どっちかと言えば、自分から近付く方が能動的でいいんじゃないかね。

 俺達からすれば、あんまり大差ないが。


 大狼の足がゆっくりと進む。

 コイツ、自覚があるのかは知らんが、ラピスに飲まれてるな。《気配察知》で得た情報のインパクトがデカすぎたか?

 ラピスが《擬態》の有効、無効を切り替えているのは遠いところだけ。

 前線にいるラピスは着実に狼へと近付いている。


 またも、大狼が一歩踏み出した。

 ラピスの移動速度、瓦礫の配置、ラピスが動き出してからの時間を考慮すれば。


 そこはもう、ラピスの巣の中(危険地帯)だ。


 大狼の頭上にあるHPバーは三割減った状態で表示され続けている。

 だが、俺は見逃さない。

 今、大狼のHPが微小だが減り始めた。


「リルちゃん! 動きを止めなさい!」

「っ!」


 なに、エリーが叫んだ。

 このタイミングで叫ぶってことは、HPが減ったと気付いたのか!?


「リルちゃん、遠距離攻撃された気配は?」

『皆無だ』

「でしたら、足元をよくお探しなさい。そうですわね、瓦礫の影なんてどうでしょうか」


 マズい。

 恐らくこれは勘付かれた。


 だが、今から逃げるように指示しても遅い。

 それなら。


 右腕を水平に上げる。

 指先は大狼を指して。


 標的は変わらない。登れ。


『主よ! 瓦礫の影に潜んでおった! 敵はスライムである! このような矮小(わいしょう)な者に我が怯んだというのか……!』

「潰しなさい。勝負を着けるのです」


 右前脚近くにいたラピスが見付かった。

 姿を確認されるとこの作戦は弱くなる。


 次の作戦に移行だ。

 作戦と呼べたものではないがな。


 狼の振り下ろした足元からHPバーが出現。砕け散る。

 見付かったラピスがやられた。やはり、爪に装着されているものは何かしらの属性持ちか。

 どっからそんな貴重なもんが出てくんだよ。


「……やはり、これだけでは終わりませんか。リルちゃん、敵は分かりました。ここからは殲滅戦です!」

『ぐ、うぅ』

「リルちゃん!?」


 全く。いくら(おび)えてしまったことが腹立たしいからって目先の敵一人に目が行き過ぎだっての。

 俺やエリーからはどんな動きをしても見えないラピス。唯一見ることができる大狼は一人のラピスに夢中。


 《擬態》なんてかなぐり捨てろ。瓦礫なんて目もくれず最短距離を跳ねて行け。

 既にラピス達へ近付いていた狼に乗り移るぐらい、ラピスにだってできる。


 殲滅戦だと? ならこっちは総力戦だ。

 数の暴力ってやつを教えてやるよ。


『くっ、小癪な。どこにいる!』

「リルちゃん、落ち着きなさい! 恐らく、後ろ脚や背中に!」

『主よ、我の骨格上それを確認することは不可能だ!』

「え、えっと、えっと」


 いいぞ。

 毒状態になったことで大狼も焦り始めてきたな。

 大狼の背中へ乗り移ることさえできればどうすることもできないだろう。


 あとは、侵食のスリップダメージと毒のダメージでジワジワとHPを削りきれば終わりだ。

 もう、何人かのラピスは前脚の付け根まで移動しているはず。ここに到達できれば回転されて吹き飛ばされることもなくなる。

 前もってラピスには、勝利条件を前脚の付け根に到達することだと言ってある。


 勝った。

 勝利はもう、時間の問題だ。


「リルちゃん! 何とか、何とかなりませんか!?」

『手は尽くしている! が、どうにもならぬ!』

「ああ、何か、どうにかする方法は……。そうですわ、リルちゃん!」

『主よ、策が見付かったか!?』

「リルちゃん、抱っこして差し上げましょう!」

『っ! 承知した!』


 は? 何言ってんだ、コイツら。

 ついに、勝てないのを悟って混乱したか。

 そもそも、そんなデカいのをどうやって抱き上げ……。


 違う。混乱した訳じゃない。

 あれは、反応を遅らせるためのブラフ!


「ダメだ! ラピス! 今すぐ離れろ!」


 気付いた時にはもう遅い。

 あれだけ大きかった狼は登場した時とは真逆に一瞬で仔犬(・・)の姿となっていた。


『グルルルル。キャウン! キャウン!』

「ラピス、逃げろ! 立て直せ!」

「無駄ですわ! リルちゃん、ここで決めてしまいましょう!」


 仔犬姿となったことで、ラピスの貼り付ける表面積は小さくなり、青いビー玉は一箇所に集められた。

 小さくなっても、ラピスの《粘着》を剥がす力は余裕で健在。

 このままだと、全滅する……!


「ラピス! 急いでそこから離れろ!」

「リルちゃん」

『御意』


 危ないと思った時には既に仔犬は大狼と化し、属性の付与された爪を振りかざしていた。


「そこまで! テイムモンスター、ラピス消滅! 次のテイムモンスターを出場させてください」

「……くそ」

「よくやりましたわ、リルちゃん」

『主の機転のお陰だ』


 トパーズもラピスもやられた。

 残るはアウィンだけ。


 やってやる。

 必ず、勝ってやる……!

(2017/02/17)

本日の更新ですが、リアルの都合上、お休みさせて頂きます。

誠に申し訳ありません。

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