特別編「メリークリスマス 後編」
間に合った!
クリスマスの25時!
ギリギリセーフっ!(アウト)
From.繭
多分、テイクは繭を探すと思うからメールする。
繭はクリスマス、家族と過ごすからインしない。待っても無駄。
アウィンに話したことについてはすぐに本当のことを教えるつもりだった。
テイクがいいタイミングでログアウトしたのが悪い。うん、ほんとにいいタイミングだった。明日ログインできないのが非常に残念。
絶対、面白いことになるのに。
きっと、アウィンは喜んでるはず。テイクが普通なら。
……ってことは、アウィンは怒ってる? テイクは異常。普通じゃない。
ちょっと不安だから、一応書いとく。
明日はクリスマス。クリスマスでは、普通の人はどうするか。
テイクの普通じゃない。一般的な普通を考えて。
そうすれば、解決するはずだから。
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「って言われてもなあ」
「どうしたんですか?」
「繭からの手紙みたいなもんだ。要約すると、俺が普通になればアウィンが喜ぶって感じだな」
「お兄ちゃんが普通になるって気持ち悪いですね」
「おい待て、俺は至って普通だぞ」
「あ、えーっと」
くそ、「笑いどころが分からないジョーク」を聞いたみたいな顔しやがって。
俺ほどザ・一般人ってやつはいねえぞ。自分で言うのは意味わからんが。
いい加減、クリスマスイベントの通知が自己主張激しかったから、恐らく運営からのメールだろうと思ってメールボックスを開くと運営からのメールに挟まれて繭からのメールが見付かった。
内容はさっき言った通りだ。
普通ならやること……。クリスマスに?
なんだってんだ。
後頭部を掻きながら考える。いつもなら、ここでラピスに手がぶつかるんだが今はいない。肩の方も不在だ。
ラピスとトパーズは、俺とアウィンがオッドボールから出る時に店に残った。
アウィンに続いてお前らまでボイコットかと思ったが、別にレベル上げをしに行く訳でもない。イベント用フィールドへ行って、アウィンと話して帰ってくるだけだ。
その後のレベル上げへ行く時に、またここへ来ればいいだろうと考え、放っておくことにした。
それと、もう一つ理由がある。
「お兄ちゃん! 次はこっちです! このお店がわたし、気になります!」
「服屋か。お前の好みってなんだっけ?」
「わたしの好……お気に入りは青色です」
「惜しかったな」
「もう! 普通にお買い物を楽しませてくださいよ!」
何やら、ラピスとトパーズに吹き込まれたようで、異様に張り切っているのだ。
ラピス達を連れていく暇もなく、アウィンに連れ出されてしまった。連れていくつもりはなかったがアウィンとしては、ラピス達がいなければ都合がいいのだろう。
「全く、油断も……出来ないんですから」
「今、油断も隙もって言いかけたろ」
「わたしナイスです! よく踏みとどまりました!」
「自爆してくれりゃ、楽なんだがな」
イベント用フィールドは、クリスマスに装飾された町だった。
間違ってもリアルでは歩きたくねえな。
他のプレイヤーもいるが、数は少ない。ボス戦フィールドのように、いくつか同じような場所があるんだろう。どいつもこいつもカップルだが、よく見ると片方にはNPCマーク。
何とも、悲しい町だな。
そして、イベント用フィールドへ来てからまだ、アウィンは一度も「スキ」と言ってくれていない。
しぶとい奴め。もうすぐ、暗くなるぞ。
プレゼントはどうやら、一プレイヤーにつき取得は一度きりらしい。運営からのメールに書いてあった。
つまり、装備品ゲットチャンスも一度きり。
アウィンに言わせまくれば装備コンプもできるかと思ってたがそんなことはなかった。そもそも、まだ一回も言ってないがな。
「服なんて、繭が作ってくれるだろ。それに、俺達はメイドイン繭の装備しか付けちゃいけないっての忘れたか?」
「むむむ、なら、お兄ちゃん! わたしに服を選んでくださいっ! それと同じようなデザインのものを繭ちゃんに作って貰います!」
「なんで、俺に選ばせるんだ。自分で選べよ」
「なんでも、です! いいんですか? わたしに選ばせたら長いですよ? 無言で選び続けますよ?」
こいつ、自分の主を脅迫してきやがった。しかも、効果はバツグンだ。俺が選んだ方が早いならそうするしかない。
いつの間にこんな強かになったんだろうか。
「分かったよ。俺が選ぶ。だが、大体の目星は付いてんだろ? せめて、そこから選ばせろ」
「やった! それじゃ、これとこれと……これも! どれがわたしに似合いますか?」
目の前に並べられた色々な服。
確か、青色が好きって言ってただろ。あと、よく動くし、動きやすそうなもんか?
ああ、でも、アウィンに名前を付けた時に着てたドレス、すっごい喜んでたよな。
「んじゃ、これで」
「え。いいんですか?」
「何がだ。てか、これでいいのかはお前が決めることだろ」
「あ、いえ。お兄ちゃんのことだから、てっきり性能で選ぶと思ってたので」
俺が選んだのはVITもMINも、もちろんDEXも全く上がらない、いわゆるオシャレ装備。
形状は名付けの時に着ていたドレスによく似ている。
あの時着てたのは借り物だったらしいからな。今の繭なら作れるだろ。ステータスは上がらないだろうが。
「アウィンが、自分に似合いそうなのはどれかって聞いたんだろ。だからそれを選んだだけだ。不満か?」
「ううん。そっかー。お兄ちゃんはこの服がわたしに似合うと思ったんですねー。えへへ」
「何ニヤけてんだ。アウィンはいいのか? こういうのって実は本命がありましたってオチだろ」
「そんなのないですよ。それにもう、この服がわたしの大本命になっちゃいました!」
「そうか。ちなみに、俺の好みはこっちの服なんだが」
「すみません、一時間、いや、二、三時間ほど、考えさせてください!」
「冗談だ。ほら、その服よこせ」
「え?」
俺の選んだ服を大事そうに抱えていたアウィンから、服を受け取り全体像を眺める。この辺りか?
「よし、できた。ほら行くぞ」
「え、あの、何を」
「スクリーンショットだ。見た景色を保存した。まさか、繭に口で説明して作ってもらう訳にもいかないだろ」
「あ、確かにそうですね。さすがお兄ちゃん!」
「そんなにあの服が気に入ったのか」
「はい! もう、大大大……のお気に入りです!」
「そろそろ、言ってくれよ」
「そのセリフ、そっくりそのままお兄ちゃんにお返しします」
強情だな。まだダメなのか。
それと、どうやらして欲しいことってのは何かを言って欲しいってことらしいな。
クリスマス、普通の人は言う言葉……。
「アウィン、もしかして、愛の告白してくれとか言うんじゃないだろうな。そんな簡単に言えるもんじゃないぞ」
「違いますよ! それに、今言ったことをぜひ、お兄ちゃん自身に言い聞かせてあげてくださいっ!」
ふむ、違うのか。
それじゃ、なんだ? 普通、クリスマスには何を言うんだ?
「別に愛の告白なんて、そんな大袈裟なものじゃないですよ。それに、そういうのはもっとちゃんとした……」
「ちゃんとした?」
「わー!? 聞かないでください!」
「聞こえたんだから仕方ないだろ」
「じゃあ、聞こえないでくださいっ!」
「無茶言うな」
その時、視界の端にチラつく白い光。
見上げれば、町の光を反射した雪が舞い降りて来ていた。
ゲームの演出か。視界の右上に見える時計は20時。この時間から雪エフェクト開始ってことだな。
雪のエフェクトは負荷がかかって重くなると思うんだが……。全くそんなことはなく、いつも通りに動いている。やっぱすげえなESO。
「うわあ! 見てください、お兄ちゃん! 雪ですよ!」
「あ、ああ。雪だな」
ダメだ。エフェクトがどうとか考えてしまったから、そうとしか見えなくなった。
アウィンとの温度差が激しい。
「あー、その、アレだな。クリスマスに雪が降ったからホワイトクリスマスだな」
「そうなんですね。それは、繭ちゃんから聞いてませんでした」
まあ、運営の演出なんだろうが。
って、だからそういうことを考えるな!
何か言った方がいいのか? それとも、感動してるアウィンはそっとしておいた方がいいのか?
てか、なんで俺がアウィンのことでこんなに悩まないといけないんだ!
と、とりあえず、何か言っとけ!
「メリクリ」
「え? めりくり?」
「メリークリスマスってことだ。繭から聞いてないのか?」
「き、聞いてます! 聞きました! 意味も!」
意味? 確か、楽しいクリスマスを祈ってるとかそんな感じだったか。
日本ではメリークリスマスなんてクリスマス特有の挨拶みたいなもんだからな。今言ったのも日本版で意味なんてないんだが。
「わ、わたしも! め、メリークリスマス、です……!」
「おう、ありがとう?」
「……!」
どうした。何だこれは。
意味がどうって言ってたし、祈られたんだと思ってお礼言ったんだが……。
赤面したアウィンが抱きついてきた。なんでだ。誰か、説明してくれ。
いや、犯人は分かってるんだ。どう考えても繭だろう。
何をどう吹き込めばこんな状況になる!?
「あの、アウィンさん? ちょっと状況が掴めないんですが。一旦離れてもらえます?」
無言で首を振るアウィン。
いや、もう、お手上げですわ。
「うぉうぃわんわををうぃわわうぉうわえわを」
「アウィン、服で声がこもって何言ってっか全然聞こえん。だから、頼む、離れてくれ」
「……」
離れる気配なし。
今、この状況を知り合いに見られたら俺はどうすればいいんだろうか。
女子中学生に抱きつかれた町中の男性。危ない気配がする。
「………………」
「アウィン? 今、なんて」
「ぷは! あはは、ごめんなさい。ちょっと、抱きつきたい衝動に駆られちゃいました!」
「アウィン、お前」
「お兄ちゃん、わたし甘いものが食べたいです! ほら、行きましょう!」
目元がほんのり赤くなったアウィンに引っ張られて足を動かす。
どうやら、向かう先は屋台のようだ。
正直、もうここのフィールドに用はなくなった。
これ以上、アウィンに付き合う必要はない。ないんだが。
「リンゴって甘いものなのか?」
「リンゴは甘いですよ!」
「砂糖的な甘さのものを食べるんだと思ったんだが」
「そういうのもいいんですが……」
さっき、俺の手に出現したものをアイテムボックスへとしまう。
MP系の装備が出る確率なんてほとんどないだろうし、そんな確率に賭けてみるよりも。
「やっぱり、わたし、リンゴが大好きですから!」
この世界に二つとない贈り物を大事にしようと思う。
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アウィンのクリスマスプレゼント
使用すると装備品が
ランダムで出現する。
アウィンの想いが
こもった贈り物。
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繭はアウィンになんて言ったんでしょうね?
ヒントは色んなところに散りばめているので、お暇な方は考えてみるのも楽しいかもです。
……いや、入れようと思ったんですがタイミングがなくて(汗)
とりあえず、疲れたので、寝ます。
お休みなさい。
過ぎちゃいましたが、メリークリスマスっ!
追伸(2016/12/27)
27日の更新ですが、急遽プロットの見直しが必要となったため、お休みさせて頂きます。
本当に申し訳ありません。
29日には更新できるよう、頑張りますっ!
追伸(2016/12/29)
29日更新の予定でしたが、多忙につき29日の更新もお休みさせて頂きます。
私の更新を楽しみにしてくださっていた方々には、本当に申し訳ありません。
31日は!
31日こそは……!




