特別編「メリークリスマス 中編」
後編じゃないです。中編です。
無駄を省く作業も惜しいので、投稿しちゃいます!
「アウィン」
「むぅ、何ですか」
「後で、イベント用フィールドへ行った時、俺のことを“好きだ”と言って欲しいんだが」
「嫌です。今は、お兄ちゃんのことが嫌いなんです!」
「今日中に戻る見込みはありますかね、お嬢様」
「な、ないです! ないです、けど、お嬢様のわたしをエスコートしてくれるなら」
「お、案外いけそう」
「や、やっぱりダメです! わたしは今怒ってるんですから!」
「ごめんなさい」
「何に怒ってるのか分かってないじゃないですかぁっ!」
バレたか。
うーん、こんなことになるなら、インした時にからかうんじゃなかったな。
今は、俺と俺のテイムモンス三人だけが、このオッドボールにいる。ケンはダメ元でアタックしに行った。
あいつはそういうことを自分からするタイプじゃないからなー。途中で我に返って「何やってるんだろう、自分……」って思うまでは頑張るだろ。
で、俺は、アウィンの機嫌取りの真っ最中。ドロップ品が高く売れるマップでレベル上げすれば上機嫌にもなるだろうか。
日付が変わるまでにイベント用フィールドに行けば間に合いそうだな。
「よし、スライム狩りで金稼ぐか」
「お兄ちゃん、わたし決めました。今日は戦いません」
「おい、アウィン何言ってんだ。スライム素材は癒香に高く売れるんだぞ」
「町から一歩も出ないです! ねえ、お兄ちゃん、話を聞いてくれませんか?」
ああ、そういえば、話を聞いてくれって言ってたな。
それに、どうやら、今日のアウィンは本気で怒っているようだ。普段、からかわれてプリプリしているのと何が違うのか分からんな。
だが、アウィンがスライム狩りに行かないとなると相当だ。あんなに喜々として、スライムから核や粘液を盗みまくっていたというのに。
「分かった。悪かったな。話ってのは何なんだ」
「昨日の夜です! ここに帰って来てから、お兄ちゃんドロップ品の整理をしてたじゃないですか」
「ああ。してたな」
「それで、時間が出来たのでわたしは繭ちゃんとお話してたんですが、急にお兄ちゃん帰っちゃいました! 前にも言いましたけど、急に帰るのやめてください! びっくりするんです!」
「あー、うん。そうだな」
アウィンの言う「帰る」とは、ログアウトのことだ。どうやら、俺がログアウトするとラピス達もこのゲーム世界からいなくなるらしい。
アウィン曰く、真っ白な場所でラピスとトパーズ意外には何も無いところだとか。寝ようと思えば意識が無くなるし、ラピスとトパーズもいるから退屈はしないって言ってたな。
「ごめんなさい、もうしません」
「もう騙されませんよ。前にも同じことを聞きました!」
「見たいテレビがあったんだよ」
「“てれび”が何か知りませんが、きっと碌でもない理由に決まってます! わたしは日々学んでいるのです!」
「そういう決めつけは良くないぞ、アウィン。俺にとっては無くてはならないものだったんだ。少しでも遅れると、無意味に生きることになっていたかもしれない」
「うっ。そんなに大切なものだったんですか?」
「そうだ。その通りだ」
「あ、でも、一言声を掛けるくらいできますよね」
「……うっ」
ダメだったか。
だが、アウィンもこんなことでそんなに怒ることもないだろうに。前に同じことやってもすぐ機嫌直してたじゃねえか。
女心って奴か?
「で、そのことだけで、そんなに怒ってんのか」
「だけって何ですか! 繭ちゃんのお話も途中で終わっちゃったんですからね!」
「なるほど、オチの部分が聞けなかったと。確かにそれは怒りたくもなるな」
「クリスマスのお話です! わたし、クリスマスのこと知らなかったので繭ちゃんに教えて貰ってたんです。オチとかそういう話じゃないもん!」
「んじゃ、クリスマスが何なのか分からないまま当日になったからイライラしてんのか?」
「クリスマスの大事なところは教えて貰っているので問題ないです。兄妹が仲睦まじく過ごす日。なんて素晴らしい日何でしょうか!」
「繭はどこだ。説教してやる」
完全に面白そうって理由でアウィンに嘘を教え込んだだろ、あいつ!
フレンドリストを見ると、繭はログインしていない。入ってきたらただじゃおかねえぞ。
「アウィン、クリスマスってのはそういうのじゃないんだ。なんか、昔のすごい人の誕生を祝う日って感じでな」
「その人は兄弟姉妹を愛していたんですね! 素敵です!」
「そう、なのか? いやまぁ、そうなのかもしれないが、クリスマスに兄妹がどうとかってのは無くてだな」
「妹を想い、プレゼントを選ぶお兄ちゃん……。いいっ! 完璧です! 完璧ですよ!」
「聞けよ」
それに、イベントのプレゼントを貰うのは俺だぞ。
なにが悲しくて、本当の妹でもない見た目中学生の子供にプレゼントを選ばにゃならんのだ。
「全く、その人に比べてお兄ちゃんと来たら」
「んだよ」
「ねえ、お兄ちゃん。わたしに何か言うことはないんですか?」
「……ないな。むしろ、アウィンが俺に嘘でもいいから好きだと言ってくれれば済む話なんだが」
「クリスマスに嘘で告白なんてしたくありませんっ! そんな軽い言葉じゃないんですよ!」
「ひらがなの羅列だろ」
「なんでお兄ちゃんはいつもそうなんですかぁっ!」
アウィンが頭を抱えて嘆く。なんて大袈裟な。
意味を込めなければ「すきだ」なんてただの音。それをゲームでは判別してくれるんだからそれでいいじゃねえか。
ああ、もう、面倒だな。
「来い、アウィン。とりあえず、イベント用フィールドまで行くぞ」
「え、わわ、待ってください! わたしは町の外へは」
「イベント用フィールドは町の中だ。問題ねえな!」
「もう! お兄ちゃんがわたしのして欲しいことをしてくれたらすぐ解決なんですよ!」
「じゃあ、それ、なんなんだよ。言ってくれればするぞ」
「い、言えません! 言ったら意味無いですもん!」
「なら、行くぞ。俺には皆目検討も付かん」
して欲しいことってなんだよ。言えばいいのに何故言わない。
俺が自然にアウィンへすればいいのか? 何を?
分からん。
とりあえず、アウィンをイベント用フィールドへ連れて行けば何とかなる。
何かしらの言葉で「スキ」と言わせればいい。
うん、もうこれしかないな。受け答えが決まっているNPCだと使えないだろうが、自我を持っているアウィンならふとした時に言ってくれるだろう。
俺との会話中に言わせれば、俺の手の中にプレゼントが出現するはずだ。
「お兄ちゃんのことだから、どうにかしてわたしに言わせようとするんでしょうが、絶対に言いませんからね!」
「強がっていられるのも今のうちだ。おっちょこちょいなアウィンに勝ち目はない」
「あ、今のおっちょこちょいって言葉のリズム、わたし好きです! ……はっ!」
「おう、フィールドに入ってもそんな感じで頼むぞ」
「わ、わたし、負けませんから!」
さてと、MPを増やす装備品が出るか、楽しみだな!
次の後編で特別編は終わりの予定です。
今から書き始めるので、まだ分からないですが(汗)




