閑話「青薔薇泥蛙討伐作戦」
お待たせしました!
泥蛙討伐、“青薔薇”編です。
「エリーお嬢様、ギルド“黒氷騎士団”が第二の町に到着されたそうです」
「そう」
「その時の情報に、気になることがございまして」
「何ですの? 私達も、今その第二の町を目指して北エリアのボスを倒しに行くところでしょう」
「どうやら、そのボスの挙動なのですが……」
ギルド“青薔薇”。そのギルドマスターであるエリーと、サブマスターのメリーが北エリアのボス前広場で何やら話をしている。
ボス前広場は東エリアや西エリアのボス前広場ほどではないが、なかなか賑わっていると言えるのではないだろうか。
ギルド“青薔薇”は他のギルド“イワン生産職連合”や“黒氷騎士団”に比べて少し出遅れている。それは、エリーの抱いている仔犬に理由があった。
その仔犬の正体は“森林の大狼”。東エリアのボスだ。
そのボスをテイムするために、ギルメンが幾度も交代し、死に戻りし、何度も何度もご褒美を貰いながら倒し続けた結果が、今、彼らのギルマスに抱かれている仔犬なのだ。
もちろん、相応の時間と気力を使っていたので、もう一度攻略に向かうのにはそれなりに時間を要したが。
「“沼の主 異形の泥蛙”のAIがおかしい……ですか」
「はい。掲示板には、そのように」
「β版のことを考えれば仕方ないのかもしれませんわね。遅いか早いかの違いですわ」
「報告はいかが致しましょうか」
「放っておいても問題はありませんわ。あの方が気付かないはず、ありませんもの」
「承知致しました」
ボス前広場の隅で話していた二人はボス戦フィールドへと足を進め始めた。
その後ろから男が四人走り寄ってくる。
「お嬢! 行くなら言ってくだせえよ!」
「危ない危ない、またお嬢様に置いていかれるところだったよ」
「エリー様、私にお任せくださればここの蛙など、魔法ですぐに片付けてみせましょう」
「なぬ! 拙者こそが、エリー殿に」
「お黙りなさい!」
振り向きながら、エリーが鞭を振るう。どうやら、男の中の一人に当たってしまったようだ。
「何故っ!?」
「あ、てめぇ、お嬢のムチを貰うのは俺だっつっただろが!」
「あーあ、僕のために振るわれたムチがこんな侍もどきに……」
「この侍! 私のムチだったのですよ! 羨ましい……!」
「せ、拙者は鞭打ちなど、望んでは……」
男連中は、変態だった。
「お嬢様、早く行きましょう」
「あら、メリーどうしましたの?」
「私は、この方達があまり得意ではないのです。お嬢様も知っていらっしゃるでしょう」
「見てて面白いと思いますけれど。この方々は鞭で打たれて喜んでらっしゃるのですよ。私の見たことの無い方達ですわ。家の外にはこんな人達がいらっしゃるのですね!」
「お嬢様、お願いですから、この方達をノーマルだと思わないでください……」
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「さて、そろそろボス戦フィールドですわね」
「エリー様、ここのボスは《火魔法》と《光魔法》が有効なのです。私の魔法が活躍すること間違いなしですよ」
「あ、あなたの杖貸して頂けますか?」
「え? あ、はい」
男の一人から杖を受け取り、ボス戦フィールドへと足を踏み込むエリーと、その後ろから付いて行くメリーと男四人。
「私の杖が、エリー様に持たれています……。ハッ、閃きました!」
「通報したよ」
「なあ、メリーさんよ。お嬢はテイマーだろ? 杖なんて装備できないんじゃねえのか?」
「持っているだけで十分なんですよ。あと、話し掛けないでください」
「おおう、言葉のムチもなかなかだな」
「ふむ。ボスモンスターが不在の様でござるが」
中心まで進んだ御一行が辺りを見渡す。が、周りを取り囲む泥沼ばかりで他に見えるものなどどこにもない。
ここで、徐にエリーが杖を構えながら前へと進み出た。
次の瞬間。
「うわ、出てきやがった! なんだコイツ、デカい蛙か!?」
「うわ、気持ち悪。って、お嬢様に向かってるよ!」
「βで出会った頃と同じく、なんと面妖な。お主、魔の術を頼む」
「言われなくともやりますよ! 杖がなくとも! 《光球》です!」
だが、男が放った魔法は泥に防がれる。
「おい、何やってんだ! 全然効いてねえぞ!」
「口だけじゃん! 私にお任せーとか言ってたのに!」
「こんなはずでは……もう一回! 《光球》!」
「ああ、エリー殿! 避けてくだされ!」
「はあ……。黙って見ていることすらできないんでしょうか、この人達は」
カエルの動きが止まり、後ろ脚に力が入る。自分の目の前にいる六人を押し潰すために跳ぶつもりなのだ。
複数へ攻撃するのなら、これが一番早い攻撃方法だとこの蛙は知っている。だから、毎回最初はこの攻撃をしてくる。
そのことを、エリーは知っていた。
「それではリルちゃん、お願い致しますわ!」
『わう!』
エリーが仔犬を“沼の主 異形の泥蛙”の頭上目掛けて放り投げる。
動物愛護団体が見れば一言二言言いたいことがあるであろう光景だが、仔犬が怪我をすることはなかった。
それどころか。
仔犬は既に仔犬ではなくなっていた。
『ゴゲ!?』
『ふん。我が主を傷付けようなぞ、百年早い。身の程知らずが』
「ありがとうございます、リルちゃん」
『主よ、我はこ奴を踏み付けておけば良いのか?』
「はい。リルちゃんがこれ以上汚れてしまうのはあまりよろしくありませんので」
エリーは大狼に潰されているカエルから目を逸らし後ろを振り向く。
そこには、安心した顔の男四人と、さも当然といった表情で拳を握っているメリーがいた。
「メリー」
「はい。後はお任せください、お嬢様。あなた達、これ以上お嬢様のお手を煩わせるようなことはしないでくださいね」
「おうよ! 俺の槍で突き刺しまくってやるぜ!」
「僕のナイフ捌き、見ていてくださいね、お嬢様!」
「拙者の刀にて、敵将を討ち取ってみせましょうぞ!」
「その前に私の魔法を先に撃たないと物理攻撃は通りませんよ」
「あ、この杖、お返し致しますわ」
「ああ! エリー様がお持ちになっていた杖! エリー様の可愛らしいおててで握られていた杖が今! 私の手の中に! ハッ」
「通報したよ」
「おら、さっさと行くぞ、てめぇ!」
思わず、一歩引いてしまうエリー。
言い知れぬ嫌悪感から腰にある鞭に手を伸ばしたが、対象が連れられて行ったのでその鞭が振るわれることはなかった。
「それでは、私も殴って参ります。あまりお時間は掛からないかと思いますので、お嬢様はこちらでお待ちくださいませ」
「え、ええ。分かりました」
押さえつけられ身動きの取れないカエルへと向かっていくメイド。
その先の暴れている“沼の主 異形の泥蛙”を見て、メイドの主は心の隅で密かに焦るのだった。
「お父様、その時は、もうすぐそこまで迫っているのかもしれません。それならば、いっその事、こちらの時期を早めてしまえば……!」
その言葉の意味を知るものは、この世界にはいない。
アイクはスケルトンのドロップ探し中です。




