第三十四話「対策」
なんと!
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ありがとうございますっ!
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大狼の毛皮 素材
“森林の大狼”の毛皮
見た目に反してとても軽い
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「おし、アイテムロストから免れたな。よくやったぞ、アウィン」
「お兄ちゃんに褒められました! そうです、わたし頑張ったのです! ご褒美を要求します!」
といいつつ、俺の目の前に綺麗な黒髪を差し出してくる。
数秒前、狼の前足に潰された瞬間、いつもの柔らかな感触と見慣れた部屋に切り替わった。言わずもがな、死に戻りだ。
さすがに、アウィン達もこの感覚に慣れたのか、それとも開き直ったのか。死に戻る度に落ち込んだり顔を真っ青にすることは無くなった。
で、目線の少し下側に見える小さな頭をどうするかだが。
ふむ。ご褒美ね。
「リンゴでいいか?」
「やった! リンゴです! 大好きなリンゴですっ!」
「ラピスとトパーズも食うか?」
「お二人共、食べたいそうです。半分こですね。あ、じゃあ、わたしはお兄ちゃんと半分こです!」
「んじゃ、みんなで食べるか」
さっき死んだとは思えないほどほのぼのとした、でも心地よい俺の日常。でも、三人ともデータで造られたNPCなんだよなあ。
ふと思い出して悲しくなるのも日常の一端と化していた。
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「繭ー。戻ったぞー」
「……おかえり。この、三十分で、十回は、死んでる」
「そりゃ、ボスなんてちゃんと役割決まったパーティー組まねえと無理だろ。こちとら、極振り四人だぞ」
「でも、楽しいんでしょ。死んだのに、すごい笑顔」
「わたしも、お兄ちゃんと一緒なので楽しいです!」
「ん。それは、よかった」
ま、やりたくて極振りやってる訳だしな。文句言う暇があれば対策練らねえと。
で、今回でまた一つ、対策ができた。
大狼の毛皮だ。
「繭、毛皮をロストせずに持ってこれたんだが、これで揃ったんだよな?」
「……これで、三つ目。靴なら、できる」
「大幅なDEX底上げになるんだろ? 楽しみだな!」
「大狼を、倒すために、大狼の素材、取ってくるって、矛盾。卑怯」
「卑怯ではないだろ。これは正当なアウィンの力だ」
「はい! 盗ってきました!」
そう、アウィンは町盗賊。そして、《盗む》スキル極振りをしている。
現在のアウィンのステータスはこうだ。
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モンスター名:アウィン
種族:町盗賊(Lv.10)
HP 760/760
MP 20/20
ATK 2(+4)
VIT 2(+3)
INT 2
MIN 1
DEX 65(+5) (used 10)
スキル
《盗む》Lv.3
《暗器》Lv.1
《隠密》Lv.1
《気配察知》Lv.1
《闇魔法》Lv.0
《罠設置》Lv.0
《罠解除》Lv.0
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スキルのレベルを上げるためにLv.9からLv.10へちょっと成長したな。
《盗む》は相手にダメージがほぼない攻撃をして、素材を盗むスキルだ。使用回数はレベルの数だけ。今のアウィンは三回が限度だ。しかも、盗める確率だって100%ではない。しかも相手がボスなら相当低いだろうな。
で、極めつけに死に戻りペナルティーのアイテムロスト。もちろん、これはアウィンの盗んだアイテムだって例外ではない。
たかが三つ。されど三つ。靴を作れるだけの素材が三十分程度で集まったのはかなり運が良かったのかもしれない。
あと、気になるのがLv.0のスキル《闇魔法》《罠設置》《罠解除》だが、アウィンが魔法を使うところは見たことがない。
レベルを上げれば使えるようになるんだろう。俺は才能がある的なことだと思っている。ま、それが開花することなんて金輪際無いだろうがな。
「それじゃ、繭、靴作り頼んだ」
「革職人じゃ、ないから、時間、かかる。でも、頑張って急ぐ」
「繭ちゃんならできるよ! わたし、応援してるね!」
「アウィン、お前はレベル上げと狼のデータ集めだ」
靴が出来上がるのを待っている間、ダラダラしてるなんて勿体ない。すこしでも、経験値とデータ収集しないとな。
……その前に、癒香から毒の粘液買いに行くか。
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『また汝であるか。何度やっても同じだ。返り討ちにしてくれる!』
「おう、また来たぜ犬っころ。そろそろデータは出揃っただろ。今度こそ仕留めてやるよ」
“森林の大狼”のボス戦フィールドへ来るのはこれで三十七回目。
前回は六割削った。《即死回避》が発動せず回転に巻き込まれて死んだが、回復薬さえあれば勝てると踏んだ。
そう、回転。この狼野郎、周りに三人以上プラス俺が近くにいる時、身体を一回転させて攻撃してくるようなのだ。
怯んでたり、別の攻撃をしている時はしないから、今まで即死するか怯ませるかをさせていた俺が見ることはなかったってことだな。
初めて見たのは十六回目、ラピスが張り付いてアウィンが攻撃を仕掛けたタイミング。俺が足に踏み潰された時は絶好の攻撃チャンスだからアウィンも突っ込んで来たんだろう。俺は《即死回避》発動してピクピクしてたがな。
全快からのHP1残し。《即死回避》が発動したら、意識が飛ぶ。少しの間動けなくなる。勝つための手札として割り切ってはいるが、何度もやりたいことじゃない。
トパーズが突撃して怯んだら、アウィンが俺を掴んで脱出。抱えることは出来ないが、速さでゴリ押して引き摺ることは出来るらしい。俺の身体はボロボロだけど。
今までも何度かやった方法だったが、ラピスがいたのがマズかったらしい。トパーズが突撃する前に死に戻った。
後でトパーズからアウィンに通訳してもらって聞いた結果、新しい攻撃方法が判明した訳だ。何とも面倒なワンコである。
「だが、そろそろお前の手札も見せきっただろ」
息を吸い込む狼。何度も見たハウリングの予備動作だ。
アウィンとトパーズは既に走り出している。
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大狼の靴 防具(足)
大狼の毛皮から作られた靴
風の加護が掛かっている
見た目はファーシューズ
DEX +8
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靴を作っている間にレベルは上がらなかったが、Lv.9の時に比べて16もDEXが上がった。ハウリングの攻撃範囲からは余裕で脱出できる。
靴の見た目は走りやすそうにないんだけどな。風の加護ってスゲー。
で、俺はと言うと、座り込んで身を縮こませ、女の子を盾にしている。
……これしか方法がないんだよ。それに効率もいい。世間も外聞も気にしたら負けだ。
「くっ。よし、ラピス頼むぞ!」
ハウリングを受け止め、おもむろにラピスを引きちぎる俺。いや、《分裂》しただけだからな。
半分を俺の頭に、そしてもう一方は投げる! そして、撃つ!
「《土球》!」
ラピス(1/2)の重さは0.3キロ、座った状態から投げたがいい感じに上がった。頂点に達した時が高さ三メートルぐらいか?
そこから落下して行った時に狼の顔面へ直撃する土球の軌道と重なるようなタイミングで撃てばいい。
土球はスピードを四倍、規模を五倍にしている。つまり、秒速十二メートル、大きさはスイカを少し大きくした感じ。ラピス(1/2)よりも大分大きいな。
さて、ラピスが放物線の頂点に達してから約0.6秒後に土球の軌道上へ落下してくることになるから、土球は頂点から0.3秒後に撃てばいい。
ま、0.6秒はまだしも、さすがに0.3秒を正確に計るなんて無理だから、ラピスと土球がぶつかるだろうポイントと頂点の中間にラピスが来たタイミングで撃ったがな。
やっぱ、ちょい遅かったか。ラピスが土球にしがみついてくれなかったら失敗だった。危ねー、危ねー。
「後は、ダッシュ!」
十二回目の時と同じように右側へ走る。
おーおー、すぐ背後に暴走トラックが突っ込んで来たみたいな怖さだわ。んな体験、した事ねえけど。
十二回目と違うのは、半分のラピスが狼に張り付いている点だ。ここで気を付けるのは、ラピスが右前足の付け根に移動するまで狼に回転をさせないこと。
右前足を軸にして回転攻撃をするので、そこ以外にいると吹き飛ばされるのだ。ちなみに付け根なのは横薙ぎで吹き飛ばされないためな。
「ほら、どうしたワンコ! こっちだぞ!」
懸命に走りながら手を叩く。近付くと回転されるので遠ざかりながら。
そうやって逃げ惑っている間にラピスのスリップダメージと、トパーズの突撃、アウィンの連撃が決まっていく。
さあ、今回は勝たせて貰うぞ!
次回の更新は明後日、11月19日です。
奇数日に更新していきます。




