第三十一話「ボス前広場」
本日更新2回目です。ご注意ください。
前話、第三十話「強化」を読んでいない方はそちらを先に読むことを推奨致します。
「Lv.15以上、魔か弓募集してます!」
「ヒーラーできる人、一人募集!」
「ハウリング止められる盾職いますかー! レベルは問いません!」
「Lv.17の剣士だけど、どっか空いてるパテある?」
「おー、ここだな。東ボスエリア入口は」
第二エリアを奥へと進み、抜けた先にはプレイヤーのひしめくボス前待機所があった。
そうそう。ボス前はこんな感じで、その時だけ臨時的に組む野良パーティーの募集が飛び交うんだよな。この雰囲気、俺は割と好きだ。
このゲームには、追加効果バフを付けられる食べ物って無いのかね? 《料理》スキルがあるんだし、あっても良さそうなんだけどな。
ボス前に、“ATKが一時間上がる串焼き”とかを食べられる露天が並ぶのは、いつになるんだろうか。あれ、お祭りみたいで結構楽しいんだよ。
「わわ、人がいっぱいです! それに、叫び声が凄い! 喧嘩でしょうか? 巻き込まれる前に離れましょう!」
「お前、ドレス着た時も逃げようとしたりで、結構黒いとこあるよな。喧嘩してたら止めなくていいのか?」
「喧嘩する方が悪いですし、関係の無いわたし達が止めに行った方が悪化するのでは?」
「それも正しいな。よく事情も知らないまま、渦中に飛び込むのはバカがやることだ」
「わたしはおバカではありませんので!」
「だが、見て見ぬふりをするのもダメだな」
「基準が分かりませんっ!」
時々、アウィンはちゃんと考えているんじゃないかと思わされることがある。ま、結局は「やっぱバカだ」って結論に至るんだが。
事情を知らずに喧嘩を止めれば余計にややこしくなる。だから、巻き込まれる前に離れよう。これは別にいいと思う。
だが、喧嘩の発端や喧嘩してる奴のことを知ってるなら止めに入るべきだ。他の人が迷惑してるなら尚更。
後は、その喧嘩が自分に不利益となるなら、自分が動かないといけないな。俺はこの考えが多い。不利益にもならない喧嘩なんぞ止めに行く方が非効率だ。
「今回は喧嘩じゃないけどな。あれは仲間を募集してるだけだ」
「命を預ける仲間を、その場で募集するんですか!?」
「あー、俺達の命は軽いからな」
「そんなこと、言わないでください!」
アウィンが俺の前に立ち塞がる。ちょ、待て。目立つようなことすんな!
「わたしは! わたしは、お兄ちゃんがいなくなったら……!」
「オーケー分かった。俺が悪かった。謝るからとりあえず歩け。な?」
「お兄ちゃんは、わたしの前から、いなくなったりしませんか?」
「しないしない。だから、一旦ここから離れるぞ」
「……はい」
くそ、あんまりアウィンのことは知られたくなかったんだが。
耳をすますと、テイマーがどうとか、NPCがどうとかいう会話が聞こえてくる。
アウィンがテイムモンスだと気付かれてはいないか? どうだろうか、判断できない。
テイムモンスのマーカーはNPCと同じものになっている。ラピスやトパーズはいかにもモンスターという外見だからテイムモンスだとすぐに分かる。
だが、アウィンに町盗賊の面影はない。そもそも、町盗賊自体見るのは少ないし、印象的な黒ローブを着ていないので町盗賊とは誰も思わないだろう。
代わりに、なぜNPCを戦闘区域に連れ出せるのかって聞かれる危険性はあるがな。マーカーを誤魔化すことなんて出来ないし、町盗賊だとバレる方が面倒だから対策はしてないが、出来れば注目されるようなことは避けたかった!
「そこのテイマー、止まってくれ。少し話が聞きたい」
そら来なすった!
「アウィン、走るぞ!」
「え、あ、はい。走ります!」
「って、おい! 誰が全力で走れっつったよ! 俺を置いてくな!」
「……ゼノ、お前はNPCを追え。私はテイマーだ」
「あーいよー。合点承知ーっと」
ちっ。とにかく、今はこいつらを撒いて、その後にアウィンと合流を。
「よぉ、お前さん。シャノっちに追われるなんて罪な男だねー」
「なっ」
こいつ、はや
「んじゃ、俺はあの子を捕まえなきゃなんで、バイバイ」
そう言うと、軽薄そうなひょろっとした男は俺を追い抜いていった。あと、モヒカン。見紛うことなきモヒカンだったぞ、あいつ。てか、マジで速いな!?
「ゼノから逃げ切るのは容易ではない。お前も観念したらどうだ」
「誰がするか!」
DEX初期値でも、物はやりようだ。ボス前の人に紛れて、見失わせればこっちのもの!
VRでは人を透過することは出来ないから、DEXの差は埋められる!
~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~~~~~
「……と、思っていた時期が俺にもありました」
「うう、お兄ちゃん、ごめんなさい。捕まっちゃいました」
「この子こえーよ。近付いたらナイフぐっさー刺して来ちゃったんだけど。NPCの攻撃も無効じゃなかったら、オイラお陀仏ってたよ、ウケるー」
「なぜ、逃げた。情報を独占したいからか。それとも、バグや改造を摘発されたくないからか」
「…………」
正直、チート以外当てはまっちゃうから辛い。アウィンは特殊過ぎてどう考えても面倒事の種だ。広めたくないし、情報を独占できるならしたい。
バグだって、削除されたはずの町盗賊がこの場にいることがおかしい。運営に通報されてアウィンが消されるのも困る。
アウィンを知られるのは、出来ればエリーの言っていた闘技大会の時がいい。大々的に広めれば運営も手が出しづらくなるだろう。
もし、そこまで野放しにしてた癖に、いきなりアウィンを取り上げるとか抜かしやがった時は、運営側にいる姉貴に泣きついてでも打撃を与えてやる。俺だってオンゲではそこそこ名前知られてるし、俺個人でも何かしらはできるだろ。
ま、そんなこんなで今、アウィンの事情を他のプレイヤーに知られるのは非常にマズい。上手く誤魔化してボス部屋へ逃げ込めば。
「一応聞くが、その女の子はNPCで間違ってないな? なぜ、NPCがイワンの町から離れ、戦闘可能区域にいるんだ」
「えぬぴーしー? ですか?」
「……クエスト中だよ。護衛対象のNPCを導く的な」
「聞いたことないな。そんなクエストあっただろうか」
「オイラは知らねッスよー」
「わたしも初めて聞きました! お兄ちゃん、クエスト中だったんですね!」
「え、NPCも知らない設定みたいなんだよな。聞いたことないのは、隠しクエストだからじゃないか? 割のいいクエストだからあんまり知られたくなかったんだよ」
どうだ? 誤魔化せたか……?
シャノという、水色の髪と目を持ち、黒い甲冑を身に付けている女プレイヤーはアウィンのことを食い入るように見つめている。種族はヒューマンだろうな。
ゼノという男プレイヤーはドワーフだ。特徴は黄色いモヒカンだろ。むしろ、それ以外に目がいかねえ。目は黄色、服装は一般的な冒険者(改)シリーズ。うむ、軽薄なモヒカンとしか言い様がないな。
「“お兄ちゃん”というのは?」
「お兄ちゃんはわたしのお兄ちゃんなのです!」
「そういう設定なんだろ」
「とか言っちゃって、髪とか目とか、完全に一致してんじゃーん」
「お兄ちゃんなんだから当然なのです!」
「偶然だ」
「……キミ、名前は?」
「アウィンなのです! お兄ちゃんが付けてくれました!」
「なあ、もういいだろ。そろそろ、ボスに挑みたいんだが」
これ以上の質問は危ない。ボロが出そうだ。主にアウィンから。
もう、無理やりにでもボス部屋へ行ってしまおうか。同じパーティにいないやつは一緒にボス部屋に入ることも出来ないはずだ。
「それじゃ、俺達は行かせて貰うぞ」
「最後に一ついいか。鞭を持っているということはテイマーだろう。テイムしてしまったら変更不可に」
「知ってる。マルチスライムとホーンラビットだと詰むって言いたいんだろ。んなもん、やってみないと分かんねえよ」
「やはり、掲示板のテイマーは君だったのか。勝手ながら、応援させて貰うぞ。私は“黒氷騎士団”ギルマスのシャノだ」
「オイラも名乗る空気ッスかねー。“黒氷騎士団”専属鍛冶士のゼノ。ゼノっちって呼んでくれてもいいんスよ」
「テイクだ。って言えば気付くだろうが、“オッドボール”のギルマスをやってる」
「わたしはアウィンです! それと、ラピスさんとトパーズさん!」
バカか! やっぱ、やらかしやがった!
「んじゃ、急ぐんで」
「あ、お兄ちゃん待って! 失礼します!」
「ラピス、トパーズにアウィン? 名前を付けたと言っていたが」
「シャノっち、もうアイツら、ボス部屋行っちまったよー」
ボス部屋に逃げ込む前に、二人の会話が聞こえた。アレだよ、宝石の名前を付けるのが趣味みたいな感じで勘違いしといてくれ!
で、逃げ込んだはいいものの。
『汝、ここは我等の縄張りと知って踏み込んだか。その覚悟、無謀だと知れ!』
対“森林の大狼”を何の準備もなく挑むこととなった。
ま、どこまでやれるか。やってみますかね。




