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極振り好きがテイマーを選んだ場合  作者: ろいらん
第1章「テイマー始動」
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閑話「ガールズトーク1」

「お邪魔しまーす。癒香いるー?」

「ユズさんね。待ってましたよ。あら、繭さん?」

「あう、繭は、外になんて、出たく、ないのに」

「私が引っ張って来たのよ。繭、こうでもしないとオッドボールから絶対出てこないんだから」


 白髪の女の子、ユズが紫色の髪を持つ女の子の頭に手を乗せる。

 少し、手入れをされたようだが、前髪が長く、まだどこか恐ろしい印象を抱く女の子、繭はその手を鬱陶しそうに払った。子供扱いをされたくないのだろう。


「繭さんとお話しするのは初めてですね。初めまして、癒香と申します。“aroma”へようこそ」

「“オッドボール”の、繭。ようこそと、言われても、繭はもう、帰るので」

「逃がすか」

「離して」

「お二人とも、仲良しなんですね」

「「それはない」」

「あら、そうですか。ふふふ」


 ゆるふわ金髪女子、癒香に導かれ、ユズと繭はaromaへと入っていった。

 今日は、女子会である。


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~


「今日の議題!」

「ガールズトークに、議題は、不要」

「繭はこういうの慣れてないと思ったのよ。気をきかせたんだから、察しなさい」

「気遣い、無用」

「ふふ。今日は賑やかな女子会になりそうですね。アップルティーを作ってみたので、どうぞ」


 癒香が、トレイにティーカップ三つとポットを乗せて、二人の待つテーブルへと戻ってきた。

 ポットから紅茶を注ぐ仕草も手慣れている。すぐにテーブルの三ヶ所へ、湯気の立つカップが配られた。


「ありがと、癒香。わ、おいしい!」

「いい香り。紅茶を、飲めるなんて、思わなかった」

「喜んでくれたようで、何よりです」

「癒香、このお茶、ESOのリンゴから作ってるのよね?」

「ええ、《料理》スキルはないので、難しいことはしていませんが。リンゴの皮や芯を使っています」

「いつもは捨てるとこよね。さすが、癒香! 女子力高いわねー」

「素材の、全てを、有効活用。大事なこと。見習おう」

「恐縮です」

「でも、一つ、疑問」


 アップルティーの香りだけを楽しんでいた繭はカップをテーブルに置き、癒香へと向き直る。

 何を言い出すのか、とユズも癒香も繭の言葉を待った。


「茶葉は、何?」


 そう、アップルティーはリンゴだけでは作れない。必ず、元となる紅茶の茶葉が必要となる。

 ESOでは、紅茶はまだ、作られていない。


「ほ、ほら、リンゴの木の葉っぱとか」

「リンゴは、NPCの、露天にしか、売ってない」

「なら、さっき言ってたリンゴの皮で」

「そうすると、リンゴ茶になる。これは、アップルティー。茶葉が要る」

「もう、癒香も何か言ってやりなよ。このままじゃ、癒香の紅茶がゲテモノみたいに」

「ユズさん、アップルティー美味しかったですか?」


 急に、ユズへと味の感想を求める癒香。

 まさか、自分へ質問が投げかけられると思っていなかったユズは少し驚きながらも、確信を持って答える。


「ええ。とっても美味しかったわ」

「なら、それでいいのではないでしょうか」

「へ?」


 いや、良くない。何も解決していない。

 そう思うユズを置いて、癒香は繭へと話の矛先を変える。


「繭さん、ESOって味覚の再現が素晴らしいですよね」

「……ん。それは、同意」

「でも、どれだけ食べても太らない。女の子には夢のようなことですよね」

「同感。現実では、食べてないから、当たり前、だけど」

「そこですよ、繭さん。現実では食べてないんです。これは、データを口に入れることで脳が認識する“味”という信号なんですよ!」

「ね、ねえ、癒香? 結局、茶葉の材料は」

「だから、美味しければ、いい、と?」

「ええ、その通りです」


 そう言って癒香は、自分のアップルティーをまた一口。

 繭は、しばらく逡巡していたが、意を決してアップルティーを口に含んだ。


「繭!?」

「どうでしょうか、繭さん」

「……美味しい」

「それは良かったです」

「ええー……」


 何とも納得し難いユズ。もう一度カップを持つが、材料が気になってしまい、ソーサーへと戻してしまうのだった。


「そういえば、このアップルティーのリンゴ。テイクさんに買って頂いたものなんですよ」

「へー、テイク、そんなことしてたんだ」

「羨ましい。詳細希望」

「二人で露天を回っていた時に」

「それって、デートじゃない! なになに、癒香ってば、テイクが好みなの!?」

「外に、出ないと、奢っては、貰えない、か。参考には、ならなそう」

「えっと、デートではないと思うのですが。あと、繭さんはテイクさんのことをお財布として見てますね」

「テイクは、お得意様。今は、PRのための、看板」

「とか言って、テイクと装備の(はなし)してる時楽しそうよ、アンタ」

「……別に、装備の構想を、考えるのが、楽しいだけ。それ以下でも、以上でも、ない。どれだけ、オッドボールを、宣伝して、かつ、テイクの、戦闘スタイルに、合った装備を、作れるか。職人としての、プライド。テイクが、どうとか、関係ない」

「ふーん」


 いつにも増して饒舌になった繭を見て、ニヤニヤと笑うユズ。癒香も可愛いものを見たといったように微笑んでいる。

 しかし、繭には、浮いた話を聞くことはあっても自分を題材にしてされたことはなかった。

 急にそういった話をされて、戸惑うのも無理からぬことだろう。


「……ユズだって、テイクと、話してる時、生き生きしてる」

「確かに、それは私も感じました」

「ま、私はテイクやケンと付き合い長いしね。リアルでは本名を文字って“やゆよトリオ”なんて呼ばれたりするし」

「ケンと、話すのは、あんまり、見ない」

「そうかしら? この前だってケンと二人で洞窟に行ったし、それだって楽しかったわよ。ケンって、普段あんなだけど、格上との戦闘ではすっごい頼りになるんだから」

「“やわらか城壁”ですね」

「物腰に、比べて、キャラが、硬いって、意味」

「そうよ。ゲームの武勇伝はあんまり多くないかもだけど、数より質なのよ、ケンは」

「私、聞いたことあります! 何でも、防衛戦で一方位を一人で守り抜いたとか!」

「そんな訳」

「ええ、事実よ」


 繭が否定しかかったことを、あっさりと肯定してしまうユズ。それを聞いて、ますます目を輝かせる癒香。

 癒香は意外と、ゲーム有名人のファンなのだ。


「その後の処理が大変だったけどね。遠目から見たら酷かったわよ。敵がケンだけを狙って集まってるんだから」

「意外。ケンは、もっと、普通だと、思ってた。変人だった」

「そんな訳で、私としてはケンもテイクも、腐れ縁の友達ね」

「テイクさんと言えば、ラピスさんとトパーズちゃんですね。また、トパーズちゃん来てくれないですかねー」

「う、癒香はトパーズちゃんを抱っこ出来るのよね。優しく抱っこするコツってある?」

「怪力、まな板女」

「うっさいわね。アンタだって、抱っこしてるとこ見たことないわよ」

「繭は、しようと、してないだけ。抱っこくらい、出来る」

「えっと、特に意識はしていないですよ。普通に抱きかかえているだけです」


 こうやって……、とポーズを取ってみせる癒香。


 特に変わったところは見られない。

 やはり、ユズの力が異常だったのだろうか。


「むしろ、そうとしか、考えられない」

「変なナレーション入れないでくれる? 不愉快よ」

「でも、どうしてトパーズちゃんはユズさんを避けるんでしょうね? 町盗賊のいる家に入る前だって抱っこできましたよ。あ、テイクさんからはまだ聞いていないんですが、町盗賊は結局、どうなったんですか?」

「あー、町盗賊は、その」

「あまり、その話は、したくない。別の話題として、ギルドの、ことなんだけど」

「え、あ、はい。どうしました?」


 露骨に話題を逸らされ、不思議に思う癒香だったが、あまり深く聞くようなことではないと判断し、新しい話題へと耳を傾けた。


「冒険者ギルドで、オッドボールを、作って、その帰りに、ソファで、繭が、休んでた時」


 少女達のガールズトークはその後も続いた。

 テーブルには、少しずつ中身が減っていく二つのカップと、一口分のみ減っている一つのカップが残っていた。

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