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極振り好きがテイマーを選んだ場合  作者: ろいらん
第1章「テイマー始動」
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第二十九話「テイムモンスター」

「アウィン、お前、ラピスとトパーズの言葉が?」

「なんか、分かっちゃいました! これも、お兄ちゃんのおかげ? 凄い! さっきから、びっくりいっぱいです、わたし!」

「びっくりしてんのは、こっちだ」


 まさか、アウィンが人外の言葉が分かる、超能力的なものの持ち主だったとは。

 いや、そうと決めつけるのは早いか。ゲームの中とはいえ、一モブのアウィンに超能力?

 それよりかは、テイムモンス同士だから話せるって方が現実的だろ。


 そういえば、ラピスとトパーズが話しているような振る舞いをすることだってあった。

 そういうもんかと思ってスルーしてたが、今思えば種族が違うのに意思疎通ができるのはおかしい。

 テイムモンスは話せて、たまたまアウィンの言葉が俺達でも分かる言葉だった。と考えるのが妥当か。


「トパーズさん、可愛いですよね。抱っこしてもいいですか! そんなこと言わずに、お願いします! あ、待ってください!」


 俺が考え込んでいた間に、アウィンとトパーズの追いかけっこが始まっていた。

 といっても、大して広くもない談話室に五人と二匹が集まると、動ける場所なんてほとんどないけどな。というか、暴れんじゃねえよ。静かにしやがれ。


「くぅ。トパーズさん、すばしっこいです。追いつけるのに捕まえられません!」

「トパーズ、《跳躍》を上手く使ってんな」


 DEX(器用さ・素早さ)はアウィンの方が上なのに、トパーズは捕まる前に跳んで逃げることで、回避し続けている。

 これは、いつまで経っても捕まることなんてないだろうな。むしろ、アウィンの体力が尽きる方が先だ。


「トパーズちゃんって、意外と器用だったのね」

「アウィンちゃんの手が届かない方向へ跳んでるね。ATK(筋力値)極振りだっけ?」

「でも、自分で、力を、調節してる。プレイヤーには、難しいこと」

「アウィン、片手でトパーズの逃げ場を限定させろ。後は、後ろ足と重心に気をつければ()れる」

「おお、お兄ちゃんが私を応援しています! これは、絶対に抱っこしなければ!」


 別に応援した訳じゃないんだけどな。

 トパーズがこっちを見つめてくる。多分、恨めしそうに睨んでるんだろうが、可愛いという感想しか出ないぞ。

 それに俺は、負けてる方に肩入れしたくなる性分なんだ。許せ。


「えっと、右手でトパーズさんの逃げ場を減らして、左手で……。えい!」


 アウィンが飛び出す。

 右手はいつでも動かせるように力を抜き、トパーズの斜め上から捕まえる軌道だな。

 後ろに跳べば、DEX(素早さ)の高いアウィンに追いつかれるから、トパーズは右に跳ぶしかない訳だ。しかし、そこはアウィンの左手が待ち構えている。

 だが、甘い。


 トパーズは、アウィンの頭上を超えてジャンプした。

 左右のみを意識し過ぎた結果、高さを(おろそ)かにしたってところか。

 アウィンは小さなトパーズを捕まえるために、前のめりになっている。ここから体制を立て直して、自分の後ろにいるトパーズを捕まえるなんてことが出来るはずも


「トパーズさん、捕まえました! モフモフですー!」

「なっ」

「おー、凄いね、今の。身体がクルッてなったよ」

「その後の、踏み込みも、凄い。装備は、ドレスより、パンツ系の方が、良さそう」

「……テイク、見た? あの子の目線。ずっとトパーズちゃんを捉えてた」

「ああ。しかも、それだけじゃない」


 暴れるトパーズを、()でまくっているアウィンの青い瞳。俺との戦闘の時もそうだったが、相手を常に捉え続けていた。

 今回だってそうだ。ユズの言う通り、トパーズが跳ねて自分の頭上を通り越す間も、ずっとだ。

 しかも、どうやらアウィンは捕まえる直前、加速したらしい。

 結果的に、トパーズの跳ぶタイミングが遅れ、アウィンを越えるため、余計に高く跳ぶ必要があった。そうなると、着地するまでの時間も長くなる訳で。

 自分の頭を超えたと分かったアウィンは、咄嗟に動かせる右手を床に着き、前のめりになってる体重を殺すことなく、右手を軸に旋回した。後は、持ち前のスピードでトパーズが着地する直前に抱き上げたってとこか。


 アウィンは感覚で、これだけのことをやったんだろうか。恐ろしいまでのセンスと身体能力だな。


「トパーズさん、気持ちいいです! むぅ、そういうこと言わないでください! 子供だからいいんです!」

「うう。アウィンちゃん、私にも! 私にもトパーズちゃんを抱っこさせて!」

「あ、ユズお姉さん。え? あ、えっと、トパーズさんが、ユズお姉さんは痛いから嫌だそうです」

「え、痛い?」


 マジか、ユズ。こいつ、トパーズを万力のように締め上げてたのか。

 そりゃあ、トパーズも嫌がるはずだわ。


「そ、そんなに強く抱きしめてたかしら。ごめんね、トパーズちゃん。優しくするからお願い!」


 ウサギに頼み込むユズ。フイと首を横に向けるウサギ。

 完全に嫌われてんな。


「そんな……」

「あの、ユズお姉さん。撫でるだけならいいそうです。ただ、胸に抱くのはやめてもらいたい、と」

「うう、分かったわ。トパーズちゃんがそういうなら撫でるだけにする。触られたくないって思われてた訳じゃ、なかったのね」


 アウィンに抱かれているトパーズを、撫でるユズ。

 うわ、だらしない顔になった。


「トパーズちゃんはほんと、可愛いわねー」

『…………』

「トパーズさん、あんまり、そういうことを言うのは。あ、ラピスさん。どうされま、きゃ、トパーズさん!?」


 トパーズ、緊急脱出。

 なんだ、ユズは撫でる力までプレス機並だったのか?

 怪力女かよ、怖え……。


 で、逃げたトパーズはというと、分裂したラピスに絡め取られていた。

 トパーズ、空中では何も出来ないからなあ。椅子やアウィンの足の陰にいたラピスの真上に着地してしまったようだ。

 あーあー、トパーズの毛にスライムがくっつきまくってベトベトじゃねえか。後で、トパーズも風呂だな。


「おい、トパーズ大丈夫か? ラピスも災難だったな」

「あ、お兄ちゃん。多分、お兄ちゃんの思っていることは違うと思います。ラピスさんは狙ってトパーズさんの下に潜り込んだみたいです」

「ん? そうなのか? なんでだ?」


 そう言われれば、わざわざ今、分裂する必要なんてないな。

 他の物陰からも、ラピスがあと二人出てきている。そして、アウィンに近付いたやつを含め、全員が動けないトパーズへとズリズリ這い寄って……って、普通に怖いな。


「つまり、ラピスはトパーズを捕まえたかった、と。今は何してんだ?」

「えっと、その、ラピスさんの言葉をお借りするなら、“お仕置き”でしょうか」


 ラピスって、どんな奴なんだ。


 うわ、トパーズを囲んで、三人のラピスが何かを訴えてるっぽい。いや、もしかしたら拘束してるやつからも、か。

 トパーズがどんどん衰弱してる気がする。テイムモンス同士だからダメージはない。これは、精神的ダメージってやつだな。


「トパーズ、大丈夫なのか?」

「わたしには、分からないです。けど、ちょっと、大丈夫じゃないかもしれません。あ、はい! よ、呼ばれちゃったので、行ってきます……!」

「お、おう。気を付けろよ」

「無事に帰ってきたら、抱きしめてくれますか!」

「やだよ。さっさと、行ってこい」

「あう、お兄ちゃん、酷いです!」


 ラピスが危害を与えるなんて、有り得ないことだろ。

 それに、ユズ達の前で女子中学生を抱きしめる? 後で何言われるか分かったもんじゃない。却下だ却下!


 で、“お仕置き”現場に向かったアウィンはというと、何やらラピスから色々言われている様子。

 顔が青ざめたり、怯えたり、嫌そうな顔をしたり……。おい、ラピスは何を言ってるんだ。

 だが、最後には眼をキラキラさせたり、笑ったり、嬉しそうだったりするから大丈夫か。


「はい! ラピスお姉様!」


 ……ほんと、ラピスは何を言ってるんだろうな。


 ~~~~~~~~~~~~~~~

 ~~~~~~~~~~~~~~~


 ラピスがメスだと発覚してからも、アウィンを中心にドタバタやっていると、ケンが(おもむろ)にこっちへ近付いてきた。

 おもわず、後ずさる俺。


「……え、なんで?」

「あ、いや、“青薔薇”の一件での事が抜けないと言いますか」

「だから、違うよ!? まだ引きずってるの、それ!?」

「それだけ、衝撃的でありまして」

「やめて! 僕をそういうキャラに仕立てあげようとするの、やめて!」

「……善処する」

「これ、無理なやつだ!」


 俺も、あまり気にしないでおきたいとこなんだが、自己防衛的に反応してしまうんだよな。ケンには、後ろから近付くのだけはやめて貰うように伝えておこう。

 それで、ケンの要件ってのは何なんだ?


「テイク、忘れたの? 町盗賊、消されるかもしれないんだよ?」

「大丈夫、覚えてる。あと、六分だな。アウィン!」

「はっ! お兄ちゃんに呼ばれました! はい、アウィンです! なんですか、お兄ちゃん!」

「俺の(そば)にいろ」

「不束者ですが、よろしくお願い致します!」

「六分だけな」

「短いです!?」


 どうやら、まだアウィンに変化はなさそうだな。あと六分後にいきなり消えるのか、存在し続けるのか。

 後者だと、いいんだが。


「あと五分か」

「アウィンの、装備は、もう考えてる。消えたら、困る。無駄になる」

「わたしの装備ですか? 繭ちゃん、作れるの!? 凄い!」

「俺だってそうだ。無駄になんて、したくない」


 あと四分。


「アウィンちゃんがいれば、オッドボールも更に賑やかになるね」

「お前の空気感も、更に磨きがかかるな」

「なんか、会話に入り辛いんだよね。みんな、意気投合しすぎじゃない?」

「でも、ケンお兄さん、楽しそう!」

「そうだね。この雰囲気が好きだからかな」


 あと三分。


「アウィンの身のこなしは、参考にしたいとこが結構あるのよね」

「ああ。まだ荒削りだが、これからが楽しみだよな」

「うみゅ? わたしを参考?」

「あと、もっと、着せ替えさせたい! メイク係として!」

「お前は、俺のテイムモンスを何だと思ってやがる」

「ユズお姉さん、わたしもいっぱい、おしゃれしてみたい、です!」

「テイク! 絶対、この子を消させたりさせないわよ!」

「俺らに出来ることなんてねえよ!」


 あと二分。


「わ、ほんとですか? そんなことないですよ! はい、頑張ります! えへへー」

「俺には、何言ってるか全く分からん。アウィンには、通訳としても消えて貰いたくないな」

「……あの、ラピスさんも、トパーズさんも、皆さん言ってますが、“消える”って何のことですか?」


 あと、一分。


「アウィン」

「はい!」

「お前は、ここにいたいと、思うか?」

「……?」


 ラピスやトパーズは、俺達といて初めて自我を持ったように感じる。

 だが、アウィンは違う。設定なのかもしれないが、アウィンの中には本物の“お兄ちゃん”がいるのだろう。

 その“お兄ちゃん”のいる場所が、アウィンの帰る場所ならば。

 俺は。


「わたしは、わた、し、は……」

「アウィン!?」


 日付が、変わった。

これにて、第一章は終わりです。


数話、ストーリーとは別の話を挟んだ後、第二章へと移ります。


さて、アウィンはどうなるんでしょうかね?

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