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極振り好きがテイマーを選んだ場合  作者: ろいらん
第1章「テイマー始動」
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第二十四話「潜入」

 こちら、テイク。(くだん)の物件、敷地内への潜入に成功した。

 これより、敵アジトと(おぼ)しき物件内部へと潜入を試みる。オーバー。


「どうしました、テイクさん?」

「あ、いや、何でもない」


 とりあえず、路地を越えて敷地内に入ることはできた。

 こう、姿勢を低くして気付かれないように移動してると、スパイとかになった気分だな。


 別に、高層ビルが立ち並ぶ都市の路地って訳ではなく、住宅地の路地だから乗り越えることはできたが、問題はここからだよなあ……。


 二階建てのこの家、窓はあるが、どこも締め切られている。

 一階部分は電気が付いているが、二階は暗いな。

 町盗賊は一階にいるのか?


 近くの窓に近付いて開けようとしてみる。が、びくともしない。鍵がかかっているようだ。

 と、何を思ったか、トパーズが俺の肩から飛び出した。窓へ向けて一直線。

 いや、待て! それはマズい!


 ガンッ


 ……マジか。トパーズの脚力で、窓割れないのかよ。二重窓っぽいが、それにしても強度(たけ)えな。

 てか、割れたらマズいだろ! 町盗賊が何体もいる可能性だってある。一人だけなら音に気付いて逃げられるかもしれない。

 今の音だって、中に響いたんじゃないだろうな……。

 やめてくれよ、一斉に襲ってくるとかそういうの。


 ん? 正面の方を見に行っていた癒香が帰ってきた。何かあったのか?


「テイクさん、テイクさん。入れそうなところ、ありましたよ!」

「おお、癒香ナイス! どこだ?」

「玄関です!」

「え、玄関?」

「はい。開けっ放しになってました」


 癒香は、信じられないことに、玄関が開いたままになっていると言う。

 いや、そんな間抜けな泥棒いんのか?


「罠、とかか?」

「どうでしょうか……。それに、開けっ放しと言っても不自然でして」

「不自然?」


 とにかく、行ってみるしかない。

 町盗賊がいるかもしれないから、姿勢を低くして、窓から見えないように……。


「ここか。確かに開いてるな」

「ええ。人が一人通れるほどの隙間分だけ、ですが」

「ストッパーもないし、確かに不自然な気もする」


 玄関の扉は、所謂(いわゆる)半開きになっていた。

 しかも、横向きになればギリギリ入れる程の幅しかない。

 錆び付いてるのかと思い、扉を動かそうとしたが、これ以上開きも閉じもしなかった。何だこれ。


「全く動かんな。窓を割ることも出来なかったし、この家なんかおかしいぞ」

「窓、割ろうとしたんですか……」

「違う、俺じゃないぞ。トパーズが勝手にやったんだ」

「トパーズちゃんが、そんな野蛮なことするはずないじゃないですか。こんなに可愛いのに」


 そう言って、俺の肩からトパーズを抱き上げる癒香。

 この世の、理不尽を見た。


 まあ、それはいいとして、問題はトパーズを抱いたことによって強調された胸だ。

 いや違う。そうじゃない。


 問題なのは、この家の中に入ることが出来るということだ。

 罠がないとは言い切れないが、ここで帰る選択肢はない。

 正面から見ても、全て窓は閉められてるようだ。他に入る方法も思い付かないし、行くしかないな。


「癒香はここで待っててくれ。罠があるかもしれん」

「何か策があるんですか?」

「策はない。けど、全財産を盗られて、アイテムもギルドに置いてきた俺が行く方が、死に戻りのペナルティーは軽いだろ。取得経験値低下したら、今日はもうログアウトするつもりだし」

「……すみません。私、今デスペナルティーすると困るほど、アイテム持ってました」

「いいって。んじゃ、行ってくる」


 癒香と別れて、ドアの隙間をすり抜ける。

 廊下、か? つい靴を脱ごうとしてしまったが、靴箱も土間もない。

 外国の家っぽいな。なんか、感動。


「お邪魔しまーす……」


 さて、どうしようか。出来れば、部屋を一つ一つ見ていくのは避けたい。

 部屋に、何がいるのか分からないままドアを開けて行くのは、こう、精神的にキツいのだ。

 ホラゲーしたことある人なら分かってくれるだろうか。


「トパーズ、《気配察知》で何か分からねえか?」


 フルフルと首を横に振るトパーズ。ダメか。

 《気配察知》はLv.1だし、町盗賊には隠密系スキルがあってもおかしくない。トパーズが分からなくても仕方ないな。


 トパーズには一応、気配を探り続けて貰って、簡易マップを見直してみる。

 やはり、光点はこの家を示している。この家にいることは分かるが、この家のどこにいるかは分からない。そこまで求めるのは(こく)ってもんか。


 仕方なく、出来るだけ玄関から近い扉を開けていく。

 が、開かない。またか。

 試しに、近くにあった花瓶を持ち上げてみるが、こっちも無理だ。

 棚に固定されているというより、空間に固定されてる? 倒そうとしても傾きすらしないとか有り得んだろ。


 ドアに付いている飾り窓から見ると、ここは、洗面所にトイレ、風呂。水回り関係か。こっちの部屋は洗濯機とか乾燥機。ランドリールームってやつだな。

 なんか、楽しくなってきた。外国の家ってのもなかなか面白いな!


 次のドアは開いてんな。お、キッチンか。ダイニングとキッチンが部屋単位で分かれてるんだな。

 ん? キッチンにもう一個ドアあんじゃん。しかも開きっぱ。こっちは何があんだろなー。


「っ! ヤバい!?」


 ドアの向こうは、恐らくリビングダイニング。そして、そこにあるテーブルに着いた女性の、真正面にこのドアは位置していたのだ。

 咄嗟に身を隠したが、まず確実に不審者がいることに気付かれたはず。

 今のは町盗賊か? なんか、普通の格好した美人なお母さんって感じの人だったが。


 向こうはどう動くだろうか?

 一度、廊下に出てから俺が入ってきたドアからキッチンに来るか? それとも、最短距離で突き進むか?

 くそ、相手の人数も把握していないってのに、見つかるなんて。そうだ、窓!


「よし、この窓は鍵も掛かってない! とりあえず、一度外に」


 しかし、開けようとした窓は動かない。

 おい、何でだよ。鍵だって開いてんじゃねえか。マジでどうなってんだ、この家!?


 こうなったら仕方ない。ドアは二つ。籠城するより、出来るだけ不意打ちのように出て行き、先に仕留める!

 ここまで、敵が踏み込んでくる様子はない。

 仲間を呼びに行ったか、そもそも、逃げた可能性だってある。


 俺が町盗賊なら、どうする?

 戦うつもりなら、出口である玄関側から攻める。

 なら、後ろを取れる可能性がある、リビング側に踏み込め!


 臨戦態勢を取り、リビングへ!

 目の前には、さっきと変わらない位置に座っている女!

 待ち伏せか!?

 ちっ、こうなったらやられる前にやれ!


「すいきゅ……ん?」


 待て、何だ? 何かがおかしい。

 飛び出そうとしたトパーズを押さえて、臨戦態勢を崩さないまま相手を見る。

 笑っている……?


「てか、微動だにしてねえぞ。まさか、ドアとか花瓶みたいに、この人も……」


 そのまさかだった。

 目の前で手を振ってみても、肩を押してみても女性は動かないどころか、笑顔を崩すことすらなかった。

 そして、笑顔を向けられた人物、恐らく女性の娘であろう六歳程の女の子もまた、ギュッと握ったフォークと一緒に、固定されているのだった。


「しかもこの二人、表情は生き生きしてるのに、体温はないし、呼吸すらしていない。死んでる……のか?」


 近くにある棚には家族写真。親子三人、仲良く幸せそうに微笑んでいる。

 この母娘(おやこ)は、生きていたのだろうか。もう、動き出すことはないのだろうか。

 ……父親は、何をしているんだ?


「っ! いや、俺には関係ない。それに、これはゲームだ。ただの背景モブってだけだろ。父親だって、写真だけの、設定」


 ……やめよう、これ以上、俺とこの女の子を重ねるのは、不毛だ。


 意識的に視線をずらす。

 簡易マップには、俺の光点と町盗賊がいるであろう光点が重なっているのが見える。

 そうだ。今は、町盗賊を探す方が先。


 この家の性質はなんとなく分かった。

 ドアも窓も開かないなら、移動できる範囲だって限られる。

 その先に、町盗賊がいるはずだ。


 トパーズが天井に向けて、鼻をひくひくさせている。

 《気配察知》に引っかかったのだろうか。

 ターゲットは、二階だ。

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