第十七話「青薔薇」
本日更新1話目です。
異世界転生/転移の文芸・SF・その他部門の日間ランキングで1位を頂いたことと、
PV(アクセス数)が10万越えを達成したことを記念して、本日10月18日は16時と21時に小説を更新致します。
ぜひ、21時更新の小説も、読んで頂けると嬉しいです。
「テイク、本気で言ってるの!? 相手は“森林の大狼”だよ!?」
「ああ、本気だ。大狼? だから何だ。そもそもそんなやつ知らん」
「東エリアのボスだよ!」
ああ、そうかい。ボスが相手か。だが、そんなことどうだっていい。
今は、この女に、ラピスとトパーズをバカにしたことを後悔させることしか頭にないんだよ。
視界に浮かぶPvP申請のウィンドウ。
受諾すればPvPが始まるんだろう。
「ケン、簡潔にこいつの特徴を教えろ」
「……はぁ。“森林の大狼”のハウリングには気を付けて。広域にダメージ判定のある物理攻撃だから、テイクとトパーズが受けたらひとたまりも無いよ」
「他には」
「基本は噛みつきと爪での攻撃だけど、今はエリーもいる。テイムモンスターだけを気にしてたら不意打ちが飛んでくるかも」
「なるほど、了解だ。それじゃ、いってぇぇぁっ!?」
「きゃあっ!?」
何だ!? 後ろからとてつもない衝撃が!?
「テイク! アンタ、今度は一体何したのよ! 何で町中に“森林の大狼”がいるのっ!」
「ユズ!? 不意打ち仕掛けたのはお前か! 説教なら後で聞く! 邪魔すんな!」
「エリー様! 町中でリルを元に戻さないで下さいと言いましたよね!? それに、また勝手にフラフラとどこかへ行かれたと思えば、すぐ面倒事ですか!」
「違いますわ、メリー! これは、あの、その、きっと誤解なのです!」
「「問答無用!」」
……うん? 今、ユズの声に誰かが重なったような。
前を見ると、エリーともう一人、メイド服を着た俺達と同い年くらいの女の子がこっちを不思議そうに見ているのに気付いた。
何だ? あっちもお取り込み中か?
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「この度は、エリー様とこの馬鹿共がご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」
「いいのよ。こっちだってブレーキぶっ壊して爆走したみたいだし」
メリーと名乗ったメイド服が、集まった野次馬に謝ってまわった後、俺達に深々と頭を下げた。
いや、俺はお前に謝って欲しい訳じゃねえんだよ。
「私は間違っていません。こちらの方々に怒られたのが納得できかねますわ!」
「てめえがラピスとトパーズを雑魚とか言い出したんだろうが! そうじゃなきゃ、こんな面倒なやつと関わりたくねえよ!」
「なに? この子、ラピスとトパーズちゃんのこと雑魚なんて言ったの? それはちょっと頂けないわね。PvP申請でも送りましょうか」
「え、あの、ユズ様、待ってください! エリー様、ほんとにこの方のテイムモンスターを、その、雑魚とおっしゃったのですか?」
「前に、アイクがそう言ってましたわ! 強くない奴はみんな雑魚なんだ、って! だから私はこの人に教えて差し上げたの」
「テイク様、本当に申し訳ありませんっ! 何分、エリー様は世間知らずですので、一般の方とのマナーには疎くて……」
だから許せってか? ふざけんな、俺のこの怒りはどうしてくれる。
それに、ラピスとトパーズが弱いって思われたままなのも癪だ。
「えっと、そもそもエリーはどういう人なの?」
「こ、この方、私の名前を軽々しく呼び捨てるなんて!」
「え、あ、ごめんなさい」
「んで、何なんだよ、こいつ」
「こいつ呼ばわり……!? 初めてですわ、こんな屈辱……!」
面倒なやつだな。マジでよく分からんやつだ。
「エリー様は……、そうですね、ボンボンの箱入り娘で甘やかされた引きこもり。と言ったところでしょうか」
「「「ああー」」」
「よ、よく分かりませんけど、メリーの言う事なら間違ってないですわよ!」
「いや、全然疑ってないわよ。大丈夫」
なんか、これ以上ない説明をされた気がする。すっげえ、納得できたわ。
だが、俺のモヤモヤは晴れんぞ。
しかし、冷静に考えてみると、勝てる気がしないな。
今は仔犬になっているが、あのデカさからのハウリング、つまり咆哮なんて避けられないだろ。俺は《即死回避》、ラピスは《物理攻撃無効》があるからいいとしても、トパーズはどうしようもない。
しかも、ラピスとトパーズはまだLv.1じゃねえか。
よく戦おうとしたな、俺。
「そういえば、あの土下座してた男の人達は何?」
「あの方達はエリー様がマスターを務めていらっしゃる、ギルドのメンバーです」
「ギルド!?」
「ええ、その通りですわ!」
ここで、エリーが一歩前に出て胸を張る。悲しきかな、揺れるものはなかった。
エリーの容姿は、よく手入れされた金髪に藍色の瞳、青いドレスといった格好だな。
整った顔立ちだが、第一印象が最悪すぎて、もはやどうでもいい。
「私はNo.003ギルド“青薔薇”のギルドマスター、エリーと申しますの! もし、今すぐに謝るというのなら、再作成した後で、私のギルドに入れて差し上げてもよろしくてよ」
「いや、俺もギルドマスターだし。ちなみにNo.005な」
「ええっ!?」
「ギルド“オッドボール”ですね。先ほど、掲示板で確認させて頂きました」
なんだ、メリーは知ってたのか。ま、ドヤ顔のエリーに一泡吹かせたから良しとしよう。
ラピスとトパーズの件は許さんがな。どう落とし前をつけてもらおうか。
「むむむ、確か、テイクでしたわね……。さあ! 先程は邪魔が入りましたが、ギルドマスター同士、正々堂々と勝負ですわよ! その二匹がざ」
「エリー様」
「と、とにかく、早い内にキャラ再作成をするきっかけを作ってあげますから御覚悟くださいまし!」
こいつ、また雑魚って言おうとしやがったな。
しかも、マジでただの親切心でPvPをしようとしているらしい。
呆れた。馬鹿じゃねえのか。
「……あのな、エリー」
「よ、呼び捨て……」
「いいから聞け。俺はこの二匹の種族が弱いことぐらい知ってるし、序盤でマルチスライムとホーンラビットを固定メンバーとすることの無謀さも分かってるつもりだ」
「なら、すぐに再作成を」
「でもな、俺はこいつらを見捨てない。絶対に強くしてみせる。お前のテイムモンスターとだって戦えるぐらいに」
俺は、テイムモンスが変更出来ないと知った時そう決めた。
他人に何と言われようと、どれだけ現実を突きつけられようと、揺らがず押し通せる程には決意した。
「だから、エリーに何を言われても、俺のプレイスタイルは変わらない」
「……無理ですわ。そんなの、絶対にどこかで行き詰まるに決まってます」
「それは、お前が決めることじゃない」
「いつか、あの時、再作成をしていれば。そんなふうに思う時がきっときますわ!」
「かもな。でも、しなくて良かったと思える時もきっとある」
「私だって……」
下を向いて、震えていたエリーがバッと顔を上げる。
その瞳には、恐れ、不安、そして少しの希望が見て取れた。
「テイク、情報元は言えませんが、この町でいつか、職業別の闘技大会が開催されますの」
「そうか」
「そこで、貴方のその言葉に嘘偽りがないことを証明して頂けますか?」
「……」
正直、種族の差は大きい。始めた時期も同じ、レベル差でのゴリ押しも通じる相手ではない。
それでも、俺は。
「もちろん。てめえが“雑魚”っつった言葉。訂正して貰うまでは負けねえからな」
「そう、ですか。今でもその二匹は私のリルちゃんには敵わないと思っています。負けるまでは訂正なんてしませんわよ」
「上等。望むところだ」
「ふふ、楽しみにしていますわ。ご機嫌よう」
「皆さま、くれぐれも闘技大会のことはご内密にお願い申し上げます。それでは、私も失礼致します」
二人と取り残された“青薔薇”のギルドメンバーは去っていき、三人と二匹だけが残る。
「ねえ、テイク、あんなこと言っちゃっていいの?」
「“森林の大狼”にマルチスライムとホーンラビットが挑むなんて無謀だと思うよ。しかも、相手はテイムモンスター。AIで動いてる訳じゃない」
「分かってる。今のままじゃ無理だ。だから、今はとりあえず」
何とかPvPをしないですんだことを喜ぼうじゃないか!
いやー、恥をかかなくて良かった良かった!
期待の展開を外してしまい申し訳ありません(苦笑)
闘技大会編にご期待ください!
いつかって? ……チョト何イテルカワカンナイネー