第百二十三話「ちうちうちうちう」
ちうちう。ちうちう。
あぁ、頭がダルい。最近、MP切れ起こすの多くないか?
短時間に何度もMP切れするのは辛い。できればしたくない。
しかも、このMP切れはしばらく治らないことが確定している。
理由は、わかっている。原因を排除することはできない。色々試したが無理だった。後は耐え続けるしかない。むしろ最初からそれが一番楽だった気もしてくる。
これもMP切れの弊害だろうか。
ちうちう。ちうちう。
この問題を解決するためには、どうしてこんな状況になったのかを考え直す必要があるな。重要なのは、二度とこの状況を作り出さないことだ。
休もうとする脳みそに鞭を打ちゆっくりと思い出していく。
この状況の原因、二人のフェアリーに関することを……。
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『うぅ……お腹ぺこぺこぉ……』
『さっきの戦闘で魔力を使い過ぎたな。ヒューマンが手伝ってくれりゃもっと節約できたはずなんだが』
「あー、はいはい。俺が悪ぅございましたよ。だから、手持ちの飯も全部出しただろ」
『あぁ、コロッケ……』
ほらぁ、ラピスがコロッケを想って項垂れ始めたぞ。こうなるまでこっちは身を削ってんだ。コロッケはそれほどまでの痛手だったんだ……!
それを足りないやら、お腹に溜まらないやらと……!
「もっと、味わいやがれ!」
『美味しかったです! もっとくださいっ!』
「ねえよ!」
『お腹空いたぁー!』
ったく、仲間がやられそうだってのに、呑気に食ってていいのかよ。それとも、食わなきゃならない理由でもあるのか?
……駄々をこねるチンチクリンを見てたらそんなことはない気がしてきた。
もう放っといて強制連行してしまおうか。
「てか、お前ら大食らいすぎんだろ。その小さな身体のどこに入ってんだ」
『失敬な、あたし達は成長期だ。それに、同い年の中では少食な方だぞ。それと、食物はあたし達の魔力になる。変換されるんだ』
『そもそも、この身体とか服も魔力で作ってるしねー。わたしたちは変換が上手な方だからちょっとの量で補充かんりょーできるよ! だから、もっとちょーだいー!』
飛んでくるチンチクリンをしっしっと追い払い、アイテムボックスを探る。
魔力ってのはMPだろ? 戦闘で魔法を使ったからMPが減った。んで、身体を維持するためにもMPが必要。んで、それを吸収したいから食ってる訳だ。
「なら、早い話、これがあれば解決だな」
『なんだそれ? 赤い液体、薬か?』
「MP回復薬だ。色はいくらでもあるぞ。赤いのはたまたまだな」
『ふーん。ねーねー、木の実探しに行ってもいーい? ちょっと服が透けてきたんだよね』
「必要なことなんだろうが、そんな悠長にしてられないだろ。このMP回復薬を飲めば……おい、ラピス何してんだ」
『ご主人様、見てはいけません。ご主人様には早すぎます』
ラピスは透けてるから目隠しにはならないんだよなぁ。そもそも体長二十センチのチンチクリンに興味なんかないがな。
とりあえず、MP回復薬をチンチクリン達へ投げておく。後は勝手に使うだろ。
『おい、ヒューマン、これ変な薬じゃねえだろうな』
『ミドリちゃん、ミドリちゃん! これ凄いおいしい!』
『ヒメ!? もう食ったのか!?』
『一口なのにいっぱい食べたみたい!』
食い物の変換効率がどれほどのものかは分からんが、MPを固めたようなMP回復薬が食い物に劣る道理はないだろ。
だが、味はどうなんだろうか。回復薬は飲むより割った方が効率的だし、飲んだことないんだが……。意外とメロンソーダ的な味がするのかもしれん。
『うわ、ほんとだ、うめぇ』
『ヒューマンさん! これなに!?』
「だから、MP回復薬だって言ったろ」
『どうやったら、こんなにおいしいのができるんだろう』
「んー、確か、スライムの粘液に……」
『一斉にこちらを凝視しないでください。恐怖を感じます』
最近、ハーピーやフェアリーに狙われすぎじゃないか、ラピス。ま、今回はMPの話だしな、ラピスの効能よりも大事なファクターは俺だ。
ラピスを狙ってまたしても飛んできたチンチクリンをデコピンで弾き飛ば……くっ、ATK振ってないから押し退けるので精一杯だ。
飛んでるフェアリーすら弾けない俺の筋力って一体……。
「とにかく話を最後まで聞け。スライムの粘液だけじゃMP回復薬は作れない。そこに俺のMPを大量に、それはもうふんだんに注ぎ込んだ結果、このMP回復薬ができたわけだな。死にそうになりながら作ったんだ。ありがたく……おい、何してんだチンチクリン」
『ぅんー。こうひゃれわ、ひょくへつ……っ!?』
「何言ってんだ、いいから離れろ」
このチンチクリン、俺の指に噛み付いてきやがった。俺、なんかしたか? さっきの説明のどこに噛みつかれる要素があったってんだ。
『さっきから、羨ましいことしすぎではありませんか!? ご主人様の衣服に入ったり、指を舐めたり!』
「あの、ラピスさん? 何を仰って……」
『まさか、ヒメ……おい、ヒューマン動くな』
「お、友達さん、チンチクリン取ってくれんのか。……って、おいてめぇ、どういうこった!?」
なんでお前も噛み付いてきてんだ、友達さんよ!? MP回復薬やったじゃねえか! それで満足しろよ!
足りなかったか!? 一本じゃ足りなかったってのか!? なら口で言え! 態度で示すな! 付いてんのは飾りか、あぁ!?
くっそ、ATK初期値じゃ振り払えねぇ。引っ張ってもビクともしねえじゃねえか。
ラピスに頼ろうにも、こいつはこいつで左手に張り付いてやがる。何に対抗してんだ。指に絡まんじゃねえよ、くすぐったいわ。
……あー、ずっとツッコんでたら頭がフラフラしてきた。そんなにカッとしてたか、俺。でも、この感覚は覚えが……。
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プレイヤー名:テイク
種族:ヒューマン
ジョブ:テイマー(Lv.31)
HP 1000/1000
MP 2145/7450
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さっきのタンクマンティスとの戦闘でレベルが上がったのはわかる。だから、MPの上限値が変わってる。自然なことだ。
そういえば、ラピス達のレベルも上がってたから後で確認しないとな。
ただ、おかしな点が一つ。なんでMPが減ってるんですかね? しかも、刻々と減ってる真っ最中だし。
「まあ、原因としてはこいつらしかないよなぁ」
右手を持ち上げると、もれなくついてくるフェアリー二人。
ちうちう。ちうちう。
絶対吸ってんだろ、こいつら。俺のMP吸ってやがんだろ。
と、怒鳴る気力も無くなっていく。とりあえず、ウィンドウを操作することすらできなくなる前に全員のステータスだけでも表示しよう。
意識だけで操作できるようにしてくれた運営さん、ありがとう。でも、吸われてる感覚はこんなにリアルじゃなくてもよかったかな。
ちうちう。ちうちう。
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プレイヤー名:テイク
種族:ヒューマン
ジョブ:テイマー(Lv.31)
HP 1000/1000
MP 7450/7450 (used 39)
ATK 10
VIT 10(+30)
INT 10(+55)
MIN 10(+30)
DEX 10(-28)
スキル
《鞭》Lv.1
《火魔法》Lv.1
《水魔法》Lv.1
《土魔法》Lv.1
《風魔法》Lv.1
《光魔法》Lv.1
《闇魔法》Lv.1
《HP自然回復》Lv.7
《MP自然回復》Lv.1
《即死回避》Lv.1
《魔法複数展開(Ⅱ)》Lv.☆
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モンスター名:ラピス
種族:マルチスライム(Lv.26)
HP 800/800
MP 320/345
ATK 3
VIT 9
INT 2
MIN 331 (used 26)
DEX 1
スキル
《粘着》Lv.1
《吸収》Lv.1
《分裂》Lv.6
《擬態》Lv.1
《物理攻撃無効》Lv.☆
《被魔法攻撃5倍加》Lv.☆
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モンスター名:トパーズ
種族:ホーンラビット(Lv.26)
HP 3600/3850
MP 20/20
ATK 333(+40) (used 26)
VIT 5
INT 2
MIN 2
DEX 6(-10)
スキル
《跳躍》Lv.6
《気配察知》Lv.1
《採取》Lv.1
《ハウリング》Lv.☆
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モンスター名:アウィン
種族:町盗賊(Lv.26)
HP 3210/3450
MP 20/20
ATK 2 (+4)
VIT 2 (+16)
INT 2
MIN 1
DEX 345 (+8) (used 26)
スキル
《盗む》Lv.6
《暗器》Lv.1
《隠密》Lv.1
《気配察知》Lv.1
《闇魔法》Lv.0
《罠設置》Lv.0
《罠解除》Lv.0
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