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極振り好きがテイマーを選んだ場合  作者: ろいらん
第4章「ローツ攻略編」
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特別編「ドタバタバレンタイン(完結編後編)」

ついにバレンタイン完結っ!

長い長いながーいバレンタインもやっとのことで終わることができました!


次の特別編を書く時は、全部書き終えてから書こうと思います。

「ふぅー、大漁大漁。たっだいまーっ! って、テイク、あんた、なんて顔でチョコ食べてんのよ」

「ん? あぁ、ユズか」


 目からハイライトでも消えてたんだろうか。……消えてたんだろうな。

 顔を上げると、若干引き気味のユズと目が合った。


 そういえば、狩りに行ってたんだったか。

 イベント素材が大漁だったんだろう。上機嫌での凱旋(がいせん)だ。

 俺の顔を見るまではな。


「ま、あんたのことは別にいいわ。テイクがいるなら、トパーズちゃんもいるわよね! あ、でも癒香に私の分を貰いに行かなきゃ」

「トパーズも癒香も二階にいるぞ」

「わお、ラッキー! じゃあ、早速……っとと」


 二階へ繋がる階段へと歩く足を止めて、俺へと向き直るユズ。

 まあ、ユズからは毎年貰ってるしな。ゲーマーとしても、一人でも多くチョコを渡したいはずだ。


「あ、チョコはないわよ」

「嘘だろ!? 毎年くれんじゃねえか!」

「残念でした。いつもいつも貰えるとは思わないことね。来年に欲しかったら、より一層私に尽くしなさい」


 なんて奴だ、チョコレートを人質に取りやがった……!

 確かに、幼馴染という関係へ胡座(あぐら)をかいていたところも無いわけではないが……。

 ちょっと反省しよう。テイマーの仕様とはいえ、ソロで活動しすぎたか。でも、経験値美味しくないしなぁ。


「そんなことより、テイク、しっかりやんなさいよね」

「は? なんのことだよ?」

「……あ、いや、あんたにゃ説明してもわかんない気がするわ。だから手を回した訳でもあるし」


 俺の前で、何かをぶつぶつ言い始めたユズ。

 呪いか? え、チョコ貰えないのに加えて呪いまでかけられんの、俺?

 レベルが上がらないとか言ってる場合じゃない。早急に手を打たなければ……!


「ユ、ユズ。悪かった。どっか、効率のいい……あ、いや、要検証な狩場とかあったら付き合うぞ」

「狩りはもう十分してきたわ。でも、そうね。テイクがそこまで言うならMP関係の検証をさせて貰おうかしら」

「……試行回数は」

「百は軽いわね。今から覚悟しときなさい」


 あ、あの地獄が再来する……!

 だが、今度は心持ちが違う。耐えればチョコが、バレンタインチョコレートが約束されるのだ!

 やってやろうじゃないか。こんな惨めなバレンタインは今年で最後になるだろう!


 で、地獄へ(いざな)う鬼ことユズさんは入口の方を気にしている。

 え、もしかして、今からじご……検証に向かわれるんですか?


「あー、もぅ! ほら、早く入って来なさい!」

「ん? 誰かいるのか?」

「あうぅ、ユズお姉さぁん。なんだか、ダメなんです……! 入れなくて、だって、お兄ちゃんがぁ……!」

「くぅー! 何よ、アウィンちゃん! じれったいなぁ、可愛いなぁ、ちくしょうめ!」


 キャーっ! と、一人盛り上がっているユズさん。置いていかれた俺はどうすればいいんだ。また、チョコ食いながらハイライト消せばいいのか?

 ミニマップを見れば、確かにオッドボールにはラピス、トパーズとは別の光点が重なっている。全く気付かなかったな。目の焦点と一緒に注意力まで散漫になっていたようだ。


 で、光点の正体である、アウィンはというと……。


「っ! ひゃぅ!」

「何やってんだ、あいつ」

「ほら、アウィンちゃん、おいでって!」


 入口から頭を出しては、俺と目が合い引っ込み続けている。

 また新しい遊びを思い付いたのか。今度のも何が楽しいのか見当もつかんな。


 お、見かねたユズがアウィンを引っ張ってきた。

 抵抗はしていないが……。借りてきた猫のように大人しい。不気味だ。


「んじゃ、後はよろしくね、テイク」

「よろしくって、どういう」

「アウィンちゃん、頑張って! ねっ!」

「あ、えと、はうぅ……」


 物凄く、不気味だ。

 アウィンに何があったらこうなるんだ。


 そして、軽やかに階段を登っていくユズ。最後に振り返ってニヤニヤ。

 なんか腹立つな。さっさと上がれ……って、おい待て、今、ラピス抱えてなかったか、あいつ!?

 カウンターのどこを探してもラピスの姿はない。分裂して小さくなってるのなら見つけにくいだろうが、ラピスに隠れる理由はない。

 ユズに拉致されてしまった……!


「マジか……」

「ひぅっ!? あ、えと……」


 そして取り残される、俺とアウィン。

 アウィンは、後ろ手のまま俯き続けている。時折、俺の方を伺おうとするが、またすぐに顔を(そむ)けてしまう。

 おい、今のは目すら合ってねえだろが。せいぜい、胸くらいしか見えてねえぞ。


 はぁ。なんだか、アウィンが怯えてるせいで、傍目からは俺が悪者に見えてる気がする。や、誰が見てる訳でもないんだが、気分的にはNGである。


「後はよろしくだとか、しっかりやれだとか、ユズは時々意味のわからないことを言うんだよなぁ。困ったもんだ」

「あ……ぅぅ……」

「あー、そうだ、ユズと一緒に狩りに行ってたんだろ? 大変だったな」

「ふい!? そ、そんなこと、ない……です」

「そ、そうか」

「…………」


 気まずい。

 なんだこの会話。


 やっと少し顔が見えたと思えば、俯かれて見えなくなってしまう。

 なるほど、顔から火が出るという表現はあながち間違っていないな。こんなにも真っ赤な顔は見たことがない。

 まあ、ゲームのエフェクトと言えばそれまでなんだが。


 そもそも、俺がアウィンに気を使う理由なんてないはずだ。

 アウィンは俺のテイムモンス。なら、もっと傍若無人に振舞って、ラピスたちを(あご)で使役しまくれば……言ってて無理な気がしてきた。俺にはできそうにないな。


 とにかく、こんなこそばゆい空間からは撤退するのが吉。

 せめて、二人きりという状況をなんとかしなければいけない……!


「アウィン」

「ひっ、はっ、はひゅぃ!」

「何もないなら、上に行かないか? というか、用があるなら談話室で済ませてくれ」

「え、あ、あの」

「な、そうしよう。ほら、行くぞ」

「や、その……待って! ……くだ、さぃ」


 階段に足をかけたところで、後ろから服をつままれる。

 振り返ると、ふるふると震えるアウィンの頭が見えた。

 表情は、見えない。

 だが、後ろに持っていたのであろう箱は見えた。


「お兄ちゃん、まって……」

「……わかったから、服を離せ」


 思っていたよりも力の入っていた指を開かせ、アウィンに向き直る。

 当のアウィンは、目を閉じて深呼吸を繰り返し落ち着こうとしているようだ。

 目を開く、俺と目が合う、おお、見事に真っ赤になっていくな。


「お、おおお、おに、お兄、やん!」

「落ち着け」

「は、はひぃ」

「……大丈夫か?」

「はい。……ごめんなさい」


 別に謝らなくてもいいんだが……。

 初め、アウィンが大人しいように感じたが、結局、いつもと同じで空回りしてるだけみたいだ。

 そう思えば、なんだかおかしくて思わず吹き出してしまいそうになる。

 そんな俺のこともアウィンは全然気付いていないようだが。


「えっと、お兄、ちゃん」

「おう」

「こ、これ! 受け取って、くだ、さぃ……」


 最後の方は消え入るような声でほとんど聞こえない。

 だが、目をぎゅっと(つむ)って、後ろに持っていた小さな箱を両手で差し出している姿を見れば、言いたいことは十分に伝わってくる。


「バレンタインのか?」

「は、はい」

「そうか」


 全くチョコレートを貰えず、いつも通り散々なバレンタインだと思っていた。

 ゲームの仕様を味方につけても成果はゼロなのかと諦めていた。


 だが、違った。

 ラピスとアウィンの二人からチョコレートを貰えたのだ。

 血の繋がりがない人から、貰うことができたのだ。

 これ以上のことはない。


「アウィン、ありがとう」

「は、はい」


 アウィンの差し出すチョコを受け取るため、手を伸ばす。

 ユズに作り方を教わったのだろうか。あいつ、料理だけはめちゃくちゃ上手いからな。アウィンのチョコも期待が持て――


 スカッ


「…………」

「…………」


 ……そういえば、アウィンの作る料理ってのは初めてかもしれないな。ちょっと不安ではあるが、興味はある。

 果たして、アウィンはどんなチョコを――


 スカッ


「…………アウィン」

「っ! ……な、なんでしょう?」

「なぜ下がる」


 アウィンの持つチョコに手が触れる直前、アウィンが素早く下がることで手が空を切る。


 渡したくないのか? 見せただけなのか?

 それ、なんつー嫌がらせだよ。今の俺にはクリティカルヒットだ。


「や、あの、その……これをお兄ちゃんに渡しちゃうと」

「渡すと?」

「お、お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなくなっちゃうんですっ!」

「……は?」


 俺が俺でなくなる?

 どういうことだ。別の人格に乗っ取られるとでも言うのか。どんな兵器だ、怖ぇよ。


 それか、俺が“兄”でなくなるという意味なのだろうか。

 そんなもん、元から違う。アウィンが勝手に兄妹だと言い張っているだけだ。最近は面倒で否定してないが、肯定だってしていないぞ。


「説明してくれ」

「ゆ、ユズお姉さんが! その、バレンタインって! だから、あの、チョコを渡したら兄妹が、その……。わたしはお兄ちゃんの妹で、お兄ちゃんはお兄ちゃんで……。でも、今回は不思議な魔法があるって、ユズお姉さんが言ってて……。あの、えっと、わたしは! ……わたしは、お兄ちゃんのことが、ユズお姉さんの言ってた、その、好き、なのかどうかは……。でも、お兄ちゃんのことは好きでもうなにがなんだか、わたしは」

「んー、よくわからん。とりあえずチョコくれるってことでいいのか? 貰うぞ」

「あっ!」

「《リコール》」


 俺の手がチョコに触れる直前、アウィンを二十八センチ前に《リコール》する。二十八センチってのは、アウィンが一歩で遠ざかる距離だな。


 その結果、俺から離れたアウィンが元の場所に戻ってくることになり、俺の手はチョコレートを掴むことができた。

 本気でチョコを掴まれていたら俺のATK(筋力値)じゃ取れなかっただろうが、アウィンは抵抗することもなくすんなりと渡してくれた。なんだか、力ずくでチョコレートを奪ったような感じだが、アウィンも取り返そうとしないし、多分大丈夫だ。そう信じよう。


 包装紙の上から結ばれた青いリボンを解く。左右で蝶結びの長さが違う辺りアウィンらしい。DEX(器用さ)が高い割に、こういうのは不器用だからなぁ。

 箱の中に入っていたのは、チョコクランチ。ビスケットがチョコレートの中に入っているやつだ。


「……髪の毛とか、爪とか入れてないよな?」

「え、え!? い、入れてない、ですけど……。ダメでしたか?」

「いや、入れてないならいいんだ。絶対に入れるんじゃないぞ」

「わ、わかりました」


 なんか、変に過敏になっている気がする。

 ラピスの……というか、恐らく癒香のせいだな。


「じゃあ、いただきます」

「あわわわわ……」

「…………」


 アウィンがめっちゃ見てくる。食べ辛い。顔を手で覆うなら隙間から見るなよ。意味ねえだろ。


 一つだけつまんで口に入れる。

 うん、美味い。少し硬い気もするが、ビスケットの食感もあって、食べてて楽しいな。歯応(はごた)えがあるのも好きな方だ。

 食べすぎると顎が痛くなりそうだが。


「ど、どう、ですか?」

「ん。美味いな。もう一個食っていいか?」

「よ、よかったぁ……」


 ……食っていいんだろうか?

 まあ、いいか。食べてはいけない道理もない。

 なかなか癖になりそうだな、これ。作業中に置いてあったら無意識に食べ続けてしまいそうだ。

 だが、今は置いておこう。さっきラピスに貰ったチョコも食べたばかり。チョコが健康にいいとしても、食べ過ぎるのはよくない。


「アウィン、ありがとう。美味かった。意外に料理できるんだな、また作ってくれ」

「え、えぇ!? それって、まさか、繭ちゃんが言ってた『俺のために毎日ミソシルを作ってくれ』というプ、プロ」

「何言ってんだ、お前。てか、繭のやつ、また変なこと吹き込みやがったな」

「え、あれ? お兄ちゃん? でも、魔法が、あれれ?」

「用はチョコだけか? なら、上に行くぞ」

「あ、待ってください、お兄ちゃんっ!」


 俺が俺でなくなるってのがよく分からなかったが、とにかくバレンタインチョコレートを貰えてよかったかな。

 プレイヤーからの譲渡じゃなかったし、イベントには関係ないんだろうが、そこはしょうがない。


 しかし美味かったな。もう一個食ってみるか。


「そんなに一気に食べなくても……」

「いいんだよ、ゲームなんだから」


 後日、一日に一定数のチョコを食べたプレイヤーには一時的に『デバフ:小太り』が付与された。

 アウィンに「お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなくなっちゃいました……っ!」と嘆かれたのは余談である。

ユズが手を回した内容も入れようかと思いましたが、読めば大体わかると思うので書きませんでした。

恐らく蛇足になると思いますし……汗


次回からはストーリーを進めていきますっ!

前書きにこれまでのあらすじを書くつもりですが、読み返して頂けると嬉しいなぁ……チラッチラッ

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