表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
極振り好きがテイマーを選んだ場合  作者: ろいらん
第4章「ローツ攻略編」
137/141

特別編「ドタバタバレンタイン(完結編前編)」

一年もバレンタインしてた小説があるらしい


しかも、完結編が三本立てとかいう暴挙


ごめんなさい

 ……おかしい。


 主観的視点でも、客観的視点でも。

 論理的思考でも、短絡的思考でも。


 今、俺が抱いているこの違和感に説明がつかない。

 ……おかしい。なぜだ、どうしてだ。


「チョコレートが一つも貰えない……!」


 ……いや待て、違うぞ?

 別にナルシストだとか、増長してるとか、そういうことじゃないからな。


 今はバレンタインイベント真っ只中。運営の考えたゲームのイベントなんだからこれにもルールがある。

 と言っても難しいことは何も無い。女性プレイヤーが男性プレイヤーへチョコを送れば送るほど得をするってものだ。


 運営は、非モテの男共に対して慈愛の心を持っているらしい。それか、運営自体がチョコをもらったことがないとか。

 何にせよ、運営GJ(グッジョブ)と言わざるを得ない。何を隠そう、俺も非モテ男子にカテゴライズされるであろう哀れな生き物なのだ。


 ちなみに、渡すプレゼントアイテムは二種類存在する。

 簡単な材料ですぐに作成可能な【義理チョコ】。

 レアドロップを含む、様々な材料でちゃんとした工程を踏んで作る【本命チョコ】の二種類だな。

 もちろん、【義理チョコ】よりも【本命チョコ】を渡したり貰ったりする方が報酬も破格だ。


 そんな訳で、俺からしてもチョコを貰えるとイベント報酬が増えるから欲しいとこなのだが……。

 貰えない。おかしい。


 女性プレイヤーとしても、一人でも多くの男性プレイヤーに渡したいはずなのだが……。

 貰えない。やはり、おかしい。


 結局貰えたのは小さな小さなクッキー一袋のみ。

 まあ、これはイベントアイテムって訳ではないからノーカウントな気がする。


 今まで会った数少ない女性プレイヤーの知り合いを思い出してみるが、どれも反応は芳しくないんだよなぁ。


 イベントが始まってから最初に会ったのはユズ……と言いたいところなのだが、ユズはアウィンや癒香達と狩りに行ってしまったらしい。

 ってことで、一番は繭だった。が、現在準備中とのこと。義理チョコならすぐに作れるはずだが、準備をするとなるともしや本命チョコなのでは!? と、期待している。

 ……にしても、時間かかってる気はするが。


 次に会ったのはミルだ。

 エセ関西弁で話すうさ耳プレイヤーで、俺と同じ初期テイマーの一人。闘技大会二回戦の相手だったやつだな。

 同職のよしみでワンチャンあるんじゃないかと思ったんだが、トパーズを抱きしめながら弟のサラがどれだけ可愛いのかを散々話されたあげく、去っていった。

 引き止めたかって? 無茶言うな。もし続きを聞かされたらどうする。やっと開放された笑顔のまま見送ってやったさ。


 その後はシャノだったな。

 ギルド“黒氷騎士団”のギルマスで、確か最初に会ったのは森林の大狼(リェース・ヴォールク)前の広場だったか。

 アウィンのことを色々聞かれた……はずだ。正直、隣にいた黄色モヒカンしか記憶にない。

 そんな訳で、声を掛けてきたのは向こうからだった。まあ、その後すぐにギルメンらしい女性プレイヤーに引っ張られていったが。

 会話を聞いた感じ、“せつか”という名前らしい。結局、俺は一言も喋ることができなかった。

 ……いや、仕方ないだろ、あれは。


 んで、呆然と「あー、シャノ。そんなやついたなー」と独り言を呟いたその時、近くの路地から青いドレスを着た子どもが飛び出してきた。

 コイツは――


「あら、テイクさんじゃありませんか。こんなところで、ウサギを乗せてとぼとぼと……あぁ、そういえばギルメンの方々が仰っていましたわね。本日はバレンタインという日だそうで、男性はチョコを頂くため、知り合いの女性を求めて街を徘徊するとか」

「…………」


 間違っていないから言い返せない。トパーズがいればレベル上げや素材集めだってできる。それでも街からでていないのはそういうことなのだ。

 チョコが欲しい。文句あるか。


 だが、よりにもよってコイツにそれを言い当てられるとは。

 ギルド“青薔薇”のギルマス、エリー。ラピスとトパーズのことを雑魚と一蹴したやつ。あとは、自称異世界のお嬢様らしい。普通なら信じられないが……まあ、今のところは保留だ。


 とにかく、俺はコイツが嫌いだ。それは間違いない。


「それで、首尾の方は……上手くはいっていないようですわね。なんて辛気臭い表情(かお)でしょうか」

「黙れ。ほっとけ」

「仕方ありませんわね。そんな、可哀想なテイクさんにメリーから預かったこの“本め」

「エ、エリーお嬢様っ!?」


 エリーの手が、虚空のアイテムボックスから何かを取り出そうと動く。

 だが、その“何か”が取り出されるよりも早くエリーの出てきた路地からまたしても誰かが飛び出してきた。


 白いヘッドドレスに加え、紺色と白色の対比が否が応にも“メイド”という単語を思い起こさせる。

 エリーいるところにメリーあり。

 たまに単独行動してるらしいが、大体はセットだ。俺からすると、エリーの行間翻訳機ってとこだな。


 で、そのメイドのメリーなんだが、珍しく慌てている様子。

 エリーに何か(まく)し立てて……って、仮にも相手は主人だろ。いいのか、それ。


「なぜ! よりにもよって! テイク様にチョコを渡そうとするんですか、エリーお嬢様! 確かに私は、少しでもお嬢様のコミュニケーション改善に役立てようとチョコを渡しました。ギルドメンバー以外に男性プレイヤーの知り合いなどいないお嬢様がチョコレートを渡すためには新しい交友を開拓しなくてはならないからです! それが……それがまさか、テイク様に渡すことになってしまうとは……!」

「メ、メリー? なんだか、色々と聞き逃せないことや、聞きたいことが出てきたのだけれど……」

「お嬢様の、ためなのです……!」

「ほんとう?」

「本当です!」

「それならいいのですわ!」


 なんなんだコイツら……。

 色々とツッコミどころがこんにちはしてきやがる。だが、つっこむことすらしたくない。


 ほっとこう。

 これは、関わらない方がいいやつだ。

 あんまり、一緒にいたい相手でもないし。


「あ、テイクさん!? (わたくし)の話はまだ終わっていませんわよ!」

「いいんです、お嬢様! 人の恋路を妨げてはいけません!」

「小石? 貴女(あなた)、何を言っているんですの!?」


 雑踏の中でも、とりわけうるさい高い声の応酬。それを意識的に聞くまいとしながら、人混みの中へと進む。

 面倒ごとはごめんだ。


 ~~~~~~~~~~~~~~~


「で、今に至る、と」

『旦那ぁ、そろそろ諦めて帰ろうぜー。オレは楽しいけどよ、旦那は見るに耐えねえぞ。ほら、ペロキャンやるから元気出せって』

「……ああ」


 もうイベントも終わる。

 これ以上出歩いても無意味な気がしてきた。


 どうしてこうも俺にチョコレートを渡そうとするプレイヤーがいないのだろうか。


 他に知り合いの女性プレイヤーで出会っていないのはココとユリだけ。

 だが、フレンド欄にあるユリの表示は常にログアウト状態。ユリはエリーと同じ運営側の人間だ。しかも、NPCのガランド国お姫様と同一人物だとか。

 これも眉唾な話だが、全く信じられないというわけでもなく……。よくわからんゲームだな、これ。


 とにかく、ログインしていないプレイヤーからチョコが貰えるはずもない。

 ユリもどうやら無理そうか。


 あとは、ココだが……。


「あ! あの人なんてどう? まだ渡してなくない?」

「どれどれー?」


 ……またか。

 なんの接点もない、他人のプレイヤーが俺を発見したようだ。


 さっきも言ったが、このイベントは多人数にチョコを渡せば渡すほど報酬がよくなる。

 つまりは、積極的に知らないプレイヤーへ話しかけていった方がお得となるわけだ。

 だから、話したこともない女性プレイヤーがチョコを渡しに来ようとする。こちらとしては大歓迎だ。俺だってチョコを貰えば貰うほど得をする。赤の他人だろうがなんだろうが、チョコをくれるなら諸手(もろて)を挙げて歓迎しよう。


 だが、俺のテンションは低い。

 最終的にどうなるかは目に見えているからだ。


「すみませーん! あ、ホーンラビット! 可愛いですよねー、この子! って、違う違う。これ、イベントのチョコなんですけど、貰ってもらえますか?」

「えーと、名前は……テイク、さん? ……って、まさか!」


 そらきた。

 俺の名前を確認した女性プレイヤーはもれなくこれだ。

 俺の目には見えないが、目の前にあるのであろうウィンドウを操作しだす。


 何を探しているのかはわからん。だが、目的のものを見つけた時の反応は大体“焦り”だ。

 この二人もどうやら御多分に()れず、くるりと後ろをむいて何やら作戦会議が始まった。


「ちょ、ちょ! これってマズくない? テイクって名前だし、“可愛くてもふもふなウサちゃん”まで連れてるよ!?」

「こ、これはダメ。完全にアウト……! チョコは絶対に渡しちゃいけないわ!」

「でも、もう話しかけちゃったし……」

「そうね……。なんとかしなくちゃ」


 少女達には危機が迫っている様子。

 まあ、その原因は俺なんだろうが、全くもって身に覚えがない。

 何がそこまで俺にチョコを渡さないことを強いているのかが分からないことには、俺からの救済もできないわけで。


 ちらちらとこちらを伺っているようだが……俺にどうしろってんだ。


「あのー、俺は別に気にしな」

「こ、これ!」

「……ビスケット?」

「えと、その、テイクさんにじゃなくて、ウサちゃんに、です!」

「可愛いウサギさんですね! そ、それでは、さよなら!」

「あ、うん。ありがとう」


 結局、こうなる。知ってたよ、ちくしょう。

 さっきから、俺にチョコを渡しに来たのかと思えばトパーズにばかりお菓子が集まっていく。


 ペロペロキャンディ、クッキー、ビスケット……。

 今日はなんだ。ハロウィンか。バレンタインじゃないのか。


「……なるほど、ハロウィン。だからチョコ、ないしはお菓子を貰えないのか。俺は仮装してないからな、納得だ」

『何をぶつぶつ言ってんだよ、旦那。ほら、ビスケットも分けてやるって』

「……ウサギに食べ物を分けてもらう日が来るとは」

『喧嘩売ってんのか、コラ』


 わかってる。わかってるさ。

 今は2月、バレンタインイベントの真っ最中。ハロウィンなはずがない。


 現実逃避はここまで。アイテムボックスを直視しろ、俺。イベントアイテムのないボックスを見るのだ。


 ……悲しくなってきた、帰ろう。

3連続奇数日更新を予定しています!

つまり、23日と25日にも更新っ!

これで、バレンタインは完結……!

ストーリーが進むぜ……っ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ