第百十五話「潮時」
10月1日は「極振り好き」一周年の記念日です!
休止やらスランプやらありましたが、ここまで続けて来れたのも読者様方のおかげです!
そのお礼も兼ねて、10月1日には一風変わった「極振り好き」をお見せしたいと思っています。
ちょっと準備に手間取っていて間に合うかは微妙なところですが、頑張りますっ!
ぜひぜひ、楽しみにしてくださいませっ!
「《リコール》」
『うおっ、とぉ。あっぶねえあぶねえ。旦那に呼ばれるやつ、なっかなか慣れねえなぁ。おっし、今度はどこに跳んできゃいいんだ?』
「いや、トパーズ、お前は待機だ。《リコール》だってタダじゃねえし、別の仕事もある」
フェアリー救出作戦にアウィンを組み込んだ新しい作戦、フェアリー救出作戦(改)は今のところ順調に進んでいる。
とにかく、攻撃をしようとしたカマキリは放置。
攻撃したくてもラピスとの間に別のカマキリがいたりして、タゲを取っているのか判断し辛いやつがややこしい。
とりあえずラピスを落とすという方法も、特攻蜂や“仕込み針”の敵モブにやられる可能性があるからできない。
フリーのカマキリに見付かれば、全力戦闘を余儀なくされる。
そうなれば、確実に周りのモブにも攻撃が当たり一瞬にして俺は死に戻るだろう。
どのカマキリがフリーで、どのカマキリがラピスを狙っているのか。
一挙手一投足に全ての神経を注ぎ込み判断し続けるのは結構大変だった。
そして、ついに迎えてしまった問題が一つ。
ラピスが、足りない。
『てか、こっちに戻って来る度に思うんだが、よくこんな敵の群れド真ん中にいて無事にいられるな、旦那』
「カマキリ達からすれば、俺もラピスも何一つ違いはない。俺の方が少し大きいから見つかりやすいってだけだ」
『にしたって、異常だろ。周りは敵だらけだってのに誰も襲って来ねえ。オレ達、実は透明なんじゃねえの?』
「……ラピスに物理攻撃を直接当てれば接触ダメージを必ず食らう。俺達は何もしてないが、ラピスからは微小でもダメージをもらってんだ。優先されるのはどっちかなんて明白だ」
『んー……。やっぱ、オレには理解できねえわ! ま、旦那が言うなら間違いないんだろうな! 実際、そうなってんだし!』
まあ、この辺りはゲームのシステムを利用して考えてるからな。
自我を持っているトパーズ達には分かるはずもない。
お、《リコール》のクールタイムが終わったな。
これでいつでもアウィンを呼び戻せるようになった訳だが……。
ミニマップを見た感じ、もう少し時間がかかりそうだ。
先にトパーズへの指示を出しておこうか。
「トパーズ」
『お、やっぱ突撃か!? いいぜ、どの土手っ腹をぶち抜いてやりゃあいいんだ!?』
「残念だが、違う。お前に任せたいのはラピスの救出だ」
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『あーあー、なんだってオレが、こんなくっそ地味な作業しなくちゃなんねえんだよ。旦那なら他に方法があったはずじゃねえか。オレにもっとド派手な突撃させてくれたってよぉ』
『そろそろボヤくのはやめなさい、トパーズ。ご主人様ができるだけアナタに鬱憤を貯めないよう注意を払っていることくらい理解しているでしょう』
『それはまあ、そうなんだけどよ』
『そのご主人様がアナタにこの仕事を任せたんです。他に方法は皆無だったのでしょう』
『そうなんだろうな、旦那の言う事だし。ま、さっきのはただの愚痴だ、ラピス姐。こんだけ離れてりゃ旦那に聞こえる訳ねえし、大目に見てくれよなー』
うん。トパーズ君や。
残念ながら聞こえてる、と言うより伝わってるんだよなあ。
ラピスとトパーズの言葉は闘技大会での景品であるスキルリング、それに付与されている《精霊言語》スキルによって聞き取ることができている。
しかし、それは耳で聞いた訳ではなく、なんつーか、脳に直接って感じで……。
違う、ネタじゃねえぞ。
その結果、《精霊言語》の有効範囲内でラピス達の声を聞こうとするか、二人が俺に話しかけてくれば、その意思が俺に伝わってしまうのだ。
いや、別に盗み聞きしようとした訳じゃない。
ミニマップではラピスが散らばっていてどれがトパーズだか分からなくなってるから現状を把握するためにだな……。
……後で、聞き取れるってことと《精霊言語》の有効範囲を二人に教えておこう。
ちなみにトパーズのお仕事はラピスを攻撃しているカマキリを後ろからツンツンする簡単なお仕事です。
ま、地味だわな。だが、トパーズにしかできないことだ。
突撃に比べて遥かに威力は劣るが、最悪でも三回、角でつつくだけでタンク役であるカマキリをポリゴンに変えてしまうんだから恐ろしい。
しかし、カマキリには他のモブからラピスを守る役目もあった。
その肉壁を消してしまった対処法としては……、まあ、こいつが適任だろうな。
「ラピスさん! トパーズさん! 二人だけで、楽しそうな、話して、ズルいですっ! わたしも……あー、もう来ちゃったんですか!? 早すぎますよ、蜂さん!」
『いっそがしいやつだな』
『これがあの子の任務ですから。仕方ありませんね』
特攻蜂に追い掛けられて簡単に逃げ切れるやつなんてアウィン以外にいるのだろうか。
トパーズが救出したラピスにターゲットを向けていた特攻蜂は漏れなくアウィンを追っている。
アウィンの手には仕込み針。
イベントが始まる前、大量に手に入れまくったやつだ。
DEX極振りのアウィンにとって、仕込み針を空中にいる蜂に当てることは射的感覚らしい。
もちろん、外れることもあるが三回目には確実に当てている。
特攻蜂にラピスの接触ダメージはなかった。
つまり、初めてダメージを受けたのがアウィンの攻撃となる。
そうなってしまえば、ターゲットは間違いなくアウィンへと移ると踏んだんだが、上手くいったようで何よりだ。
懸念があるとすれば元の持ち主、“仕込み針”の敵モブだが……。
フェアリー救出作戦を始めてから仕込み針が飛んでくることも見ることも一切ない。
恐らく、大丈夫だろうと判断したが……。もし飛んできたらラピスのMINに期待しよう。
一応、極振りしてる訳だし。
『…………くぇー』
『ラピスちゃん、落としてきたよ。次は、どこにラピスちゃんを運べばいいの? あ、このラピスちゃんを連れてけばいい? とりあえず、さっきのとこ行っとこうか? ……あと何回でみんなのとこに行けるかわかる? 無事だよね? 誰も死んじゃったりしてないよね?』
「…………」
こっちはこっちでそろそろ限界か。
ハーピーにも疲れが見えてきたし、チンチクリンに至ってはチラチラとフェアリー達の方へ視線を向けることが露骨になってきた。
フェアリーはラピス達が敵を引き付けたことで大分戦闘が楽になっているはずだが、俺がフェアリーの天敵であろうヒューマンだからか様子見の体を崩さない。
ま、そこはいい。
重要なのは、フェアリー近くの敵はもうほとんどいなくなっていること。
ミニマップでラピスの位置を確認。
もしかすると、今が潮時ってやつなのかもしれないな。
「チンチクリン、ハーピーにしがみついとけ」
『え? ……うん、わかった。鳥ちゃん』
『……くーかー』
ラピスを二人掴んで左右の斜め前方へ全力で投げる。
全力と言っても高が知れているが、これで俺の目の前に敵が出てくることは無くなった。
フェアリー達のいる地点までおよそ三十メートル。
右手側にフリーの可能性が残るカマキリ二体。左手側は三体。
内、一体はフェアリー達と俺達を繋ぐ直線に近い位置にいる。要注意だ。
右手側、一体の移動を目視。離れていくことに関しては気にしなくていい。もう一体は動かずか。
左手側、近いやつ以外は十分遠くにいる。
問題となるのは、動いていない左手側と距離が離れていない一体だな。
トパーズはまだ俺の後方でツンツンしている。
その近くにアウィン。トパーズが屠ったカマキリ上空の蜂へ仕込み針を撃つためだ。
この二人以外にミニマップ上で動く光点はないはずだった。
ラピスが動けば計算が狂う可能性があるし、最悪、蜂の攻撃を受けてしまう。
それなのに、動き始める光点が一つ。
あれは、ラピスy2……!
カマキリの包囲を一瞬抜け出し、姿を見せることで右手側の動かなかったカマキリがターゲットを見付けた。
本当に、つくづくラピスには助けられる。
「ハーピー、俺の右手をよく見とけよ。遅れるんじゃねえぞ」
『……くぁ? ……くーかー』
ラピスy2のおかげで一番近いカマキリだけに集中することができるようになった。
少しずつ動いてはいるが、どこかで旋回し離れていくはずだ。
そのタイミングで……!
「今だ、《光球》!」
『っ!』
『ちょ、ま、うひゃぁぁぁ』
……はっえぇー。
スピードを五倍にした光球を撃ったんだが、それをものともせず駆け抜けてったぞあのハーピー。
ピカピカに、飢えてたんだろうなぁ。
あのスピードならハーピーとチンチクリンはフェアリーのいる場所へ辿り着けただろう。
もし、道中でターゲットを取ったとしてもここまで耐えたフェアリー達ならなんとかしてくれるはずだ。
「とりあえず、俺達はこいつを何とかしなくちゃなんねえな」
『ご主人様、ワタシ今、ちっちゃいんですけど……』
俺と分裂したラピスの前には確実に俺達へと迫っているタンクマンティス。
一番近くにいたフリーのカマキリだ。さっきの光球に釣られたんだろう。
そういえば、トパーズとアウィンのリベンジは来る途中で済ませたが、俺とラピスが死に戻りしたリベンジは果たせてなかったな。
なら俺達もこの機会に復讐させて貰おうか。