第百三話「上空での迎撃」
「《火球》! 《光球》!」
『後続、風、火、闇です』
「《風球》、《闇球》! 火球は頼むぞ、ハーピー!」
『……くぁー』
肩への痛みはもう慣れた。
いや、痛みを感じている暇がなくなった。と言うべきだろうか。
壁を越えるだけだと思っていた空の旅は、突然の襲撃により忙しい迎撃の旅へと変貌した。
そして、その襲撃犯はというと。
「くそ、また防がれた!」
「なあ、あれって攫われてる方が魔法を迎撃してねえか?」
「そんなはずないでしょ! 迂闊だったわ。NPCを攫われるなんて……!」
「崖の上へ行かれるとどうしようもなくなる! 弓でも魔法でもいい! 何とかあのハーピーを弱らせる!」
防衛イベントに参加している、最前線プレイヤーの方々がまたしても魔法を撃ってくる。
NPCが攫われただぁ?
俺はプレイヤーだし、自分の意思で壁を越えようとしてんだよ!
助けようとしてるんだろうが、迷惑でしかない!
飛んでくる魔法は多種多様。
だが、どうやら距離が開くと威力の減衰が起こるようだ。
そのおかげで最前線プレイヤーの放った魔法の相殺ができている。
って言っても、俺だとこんな高さまで魔法届かねえぞ。
威力を犠牲にして射程を伸ばす魔法かスキルでもあるんだろうか?
羨ましいが、極振りをやめる予定はない。俺が使うことはないだろう。
「《闇球》! やめろ! 邪魔すんじゃねえよ!」
「NPCが何か言ってるぞ!」
「この防衛中の喧しい中で聞き取れるはずないわよ! 助けを求めてるんでしょ!」
「そ、そうか。よし、今助けてやるからな! 《スナイプアロー》っ!」
だから、違うんだって!
それ全部ありがた迷惑なんだよ!
だがしかし、弓はほとんど俺達のところへは飛んでこない。
そもそも、弓なんて上に向けて射るもんじゃないしな。
曲射なんてのもあるが、そんなことできるやつがプレイヤーにいるとは考えづらいし。
魔法に関しても、《水魔法》と《土魔法》は俺達のところまでは届いていない。
質量のあるもので上空の的を狙うのは難しいのだろう。
ましてや、矢で狙うだなんて、風もあるし他に俺を狙う魔法の影響もある。
《火球》や《風球》なんてもろに煽られるだろうし、俺のところまで到達するはずが。
『ご主人様! 矢が!』
「嘘だろ!? 《土種》!」
あっぶねえ。
いや、フラグ回収早すぎんだろ。
偶然か? まあ、これだけの矢が飛んできてるなら一本ぐらい俺達へ当たることもあるかもしれないが……。
『ご主人様!』
「《土種》! さすがに、二本連続ってなると偶然じゃあねえな!」
だが、見えたぞ、お前の射線。
最前線からは離れた位置にある櫓。
そこに立っている白い人影!
なるほど、別角度から射れば魔法の影響は少ないだろうな。
だが、皆無という訳でもない。
それに、そもそも魔法の影響がなくたって二本連続でハーピーへとピンポイント狙撃なんざ神業だ。
しかし、どれだけ射撃の腕が良くたって、威力の減衰まではどうにもならない。
位置がバレたなら、全部防ぎきってやる!
「って、いねえ!? どこ行った!?」
『ご主人様、闇、光、火です!』
「《闇球》! 《光球》! おい、光球撃つ度に揺れるのやめてくれ、肩にくい込む!」
『くぅー……くぁー』
俺の目の前で、飛んできていた火球がかき消される。
別に俺が何かしたって訳じゃない。
これは、俺を運んでいるハーピーの力。こいつと戦った時にもやられたが、どうやら火球を消すことができるようなのだ。
間近で見たからこそわかったことだが、風魔法によって火球を消したようだな。
プレイヤーの使う魔法とモブの使う魔法には少し違いがある。
どういう違いなんだろうか。俺のテイムモンスに魔法を使えるやつがいないから聞けれないんだよなぁ。
アウィンには《闇魔法》Lv.0があるが、案の定、あげる気はない。
って、今はそれどころではない!
さっきの神業野郎どこ行った!?
また、いきなり射られたら厄介だ。全方位を監視するラピスセンサー|《数の暴力》があるとしても、精神的に落ち着けない!
『ご主人様』
「っ! どこからだ!?」
『いえ、それが、攻撃が止んだようです』
そういえば、半ば無意識に迎撃してたが、魔法が全然来なくなったな。
俺としては好都合だが、NPCを助けようとしてたんじゃねえのか。なんで俺が見捨てられた感じになってんだよ。
魔法がよく飛んできていた場所をよく見てみると、どうやら誰かが周囲のプレイヤーに何かを言っているようだな。
誰だ、あれ? 見たことねえな。
だが、その横にいるのは忘れられない黄色モヒカン!
ギルド“黒氷騎士団”の専属鍛冶士ゼノだ!
いやー、上空から見てもあの黄色モヒカンは目立つなー。
「他のプレイヤーを諌めてくれてんのかね? それとも、もう諦めろって言ってんのか? 何にせよ、今の内に」
「さあ、とくと見るのです! 俺の華麗なる魔法の一撃を!」
眼下にて叫ぶ男。その眼鏡がキラリと光を反射する。
おうおう、なんだってんだ。華麗なる魔法とか痛々しいにも程があんだろ。
「喰らいなさい。《虚無球》」
と、勝手に一人引いていると見たことのない魔法を撃ってきやがった!
ボイドボール!? ボイドっつったら、空孔とかそういう空間のことだろ!?
なんで空間がボールになって迫ってきてんだよ! 運営、響きとそれっぽい意味だけで名前付けやがったな!
とまあ、色々ツッコミを入れてはみたが、それで解決するようなもんでもない。
火球や風球は目に見えてスピードだったり、威力だったりの雰囲気が弱々しいものになっていったが、このボイドボールとやらはそんな感じが全くしない!
これ、威力とかも減衰してないんじゃねえのか!?
『ご主人様、どう対処致しましょうか。ワタシの一人を犠牲にすれば』
「んなことはしねえよ。なんとか消し去ってやる」
この禍々しいのだって魔法の一つ。何かに当たれば消滅するはず。
ラピスを投げ込むのは論外として、他に代替できるものは何かないか。
土種でも落としてみるか?
だが、土種も《土魔法》からできた代物。
威力の低いものなら消滅するが、威力の高い魔法では、飲み込まれていくのは確認済みだ。
ある程度の威力のある魔法を消滅させる方法は、同程度の威力をぶつけるしかない。
ゼノがいるってことは、おそらくあの眼鏡も“黒氷騎士団”メンバー。
その中でどれくらいの強さなのかは分からんが、あの自信からすれば弱いわけではないのだろう。
今できる全力をぶつけるしかないな。
選んだ魔法は《土魔法》。
上空から撃つなら質量がある方が強い気がする。
魔法の威力だってエネルギーの一種だろ。多分。
残りのMPからすると、MP回復薬で四千六百は使えるか。
スピードや規模には一切振らない。威力に極振りだ。
MP回復薬を取り出し、割った瞬間唱える。
「《土球》!」
向かってくるボイドボールは一回り大きい。
そういう魔法なのか、規模を増やしているのかは分からない。
それに対してちっぽけな土の塊が飛んでいく。ってか落ちていく。
後は頑張れ、土球よ。
俺はもう考えたくないのだ。
頭痛い。肩も痛い。脱力したら肩にハーピーの脚爪が一層くい込みやがった。
だからって、身体を持ち上げるのもダルい……。
『ご主人様、件の魔法消滅を確認。迎撃に成功しました』
「おー、そりゃ良かったなー。おめでとさーん」
『……くぇー』
「なっ、消えた!? 俺の虚無球がなぜです!? くっ、MPは心許ないですが、もう一度……!」
ちょ、おい、待て待て待て!
MP切れから立ち直りかけたところで、不吉な言葉が聞こえた気がするんですが!?
もう一度撃たれたら、俺にはもうどうしようもねえぞ!
『ご主人様、次こそはワタシ達が』
「まだだ。まだ手はあるはずだ。そう簡単に犠牲にさせてたまるか」
そう。例えば、アイテムボックス内のアイテムを投げつけまくるとか。
一つなら消滅するだろうが、もしかすると大量に投げつければ消えるかもしれない!
『ご主人様』
「うるせえ、黙ってろ!」
「うるっさいわね! 近所迷惑の騒音公害甚だしいわっ!」
「何なんです、貴女は!?」
お? また何か騒がしくなったぞ?
さっきの眼鏡と言い合ってるのは……ユズ? それに、ケンまで。
と、ここで電子音。
ケンからの、メール?
『From:ケン
自分で呼び出しておいてすっぽかすなんて偉くなったわね、テイク
by.ユズ
後で何があったか話してね。
by.ケン』
あー、そういや、噴水前で集合とか二人にメールしたんだった。
エリーが目に入って、追いかけたんだったな。
こりゃあ、後でみっちり絞られるな……。
「ハーピー、今の内に頼む」
『くぇー』
壁を超えるため上昇していく。
地上を離れ、壁の向こうへと。
目指すは、チンチクリン達、フェアリーの救出だ。
(2017/05/19)
すみません、今日もまた更新お休みさせてください!
明後日は恐らく時間取れると思いますので!