第九十三話「妖精の鱗粉」
フロンティアファクトリーさんの「俺の嫁とそそらそら」というゲームのゲームマスター(シナリオライター)をやらせて頂くことになりました!
2017/04/17の現在、登録をして頂けた方には幼女がプレゼントされるとか!
ぜひ、よろしくお願い致しますっ!
「え、名前がないって……」
『アウィンちゃんね! 覚えたよ!』
『あたし達フェアリーに名前はない。勝手にどうとでも呼べばいいさ』
『次に会った時、分かりやすいもんね!』
『……撤回だ。次はない。だから呼び名も不要。さあ、帰るぞ』
フェアリーには名前がない、ねぇ。
それは、自我が無かったからなのか?
そもそも、自我のある敵モブとない奴の違いはなんなんだろうか。
ハーピーには自我のない奴もいた。光の玉を追いかけるあのハーピーだけが特別? なぜ?
それに、自我のある敵モブは他にもいた。
奇襲対策をした俺達へ対応するように、作戦を立ててきた姿の見えない敵。
そして、もう一体。
第一の町イワンの北エリアボス“沼の主 異形の泥蛙”だ。
あいつも自我を持っていたはず。
自我を持つ敵モブは何がトリガーとなっているんだ……?
それに、自我を持っていながら倒されてしまえばどうなる?
……いや、検証しようなんて思わないが。
「おい、チンチクリン。ヒメってのは名前じゃねえのか」
『別に決まってないよー。みんな大体、ヒメって呼ぶけど、おばばの娘とか、お転婆、元気っ子なんて呼ばれることもあるし。あ、それと、チンチクリンだね!』
「お前は?」
『……ヒメからはミドリと呼ばれるが、みんなからは、ヒメの友達、とか、ヒメのお付き、お転婆の友達、元気っ子の友達。そんな感じだ』
そういえば、フェアリーの“里”だって言ってたな。
コミュニティが小さいから自発的である名前も必要ないってとこか?
さっき、“おばばの娘”とも言っていた。おばばってのは里の長とかそんなとこか。
だから、姫と呼ばれているんだろう。お転婆とかとも呼ばれてるようだし、 お姫様への敬意なんて無さそうだが。
ってことは、役職で呼んでたりするのか?
そういうのって、大きな組織になると役職で呼んだりすると思うんだが……。
フェアリーの文化なんだろうか。よく分からん。
てか、ミドリちゃんや。
ヒメの友達とかお転婆の友達とか……。
それでいいのか、お前は。
「えっとえっと、それじゃわたしは何と呼べば……」
『何でもいいよー。みんなと一緒でヒメでもいいし、新しく作ってもいい! あ、友達なんだから敬語はなしにしようね!』
「それじゃ、ヒメちゃんとミドリちゃんかな。よろしくね!」
『わーい、よろしくー!』
『もういいだろ、ヒメ。光を出しすぎて腹が減ってんだ。行くぞ』
『ぶー。ミドリちゃんのせっかち屋ー、食いしんぼー! それじゃ、アウィンちゃん、またね! みんなも!』
「うん、またね!」
うるさかった二人組が去っていく。
光の玉には変化せず、そのままの姿で木の上の方へ飛んでいったな。
よっぽど、ハーピーのくすぐりは地獄だったようだ。
アウィンもさっきまでとは打って変わって、晴れやかな表情をしている。
再会の約束もできたし、よかったな。
まあ、俺自身は再会に乗り気ではないんだが。
フェアリーの姿も見えなくなって一安心。
あとは、くーかー言ってるハーピーを何とかするか、魔法が当たらないように細心の注意を払って第二エリアへと向かうか……。
『……くかー』
『ご主人様、フェアリーの通った枝葉に何か付着していませんか?』
「ん? ああ、確かに何かあるような……。アウィン」
「はい!」
木漏れ日を反射してキラキラと光る枝の一部分。
その枝自体が光っているわけではないからか、ハーピーは反応していないが、あれは何だ?
もしかして、第二エリアへのヒントとか、ボス攻略の糸口だったりして!?
「お兄ちゃん、とりあえず枝ごと取ってきました!」
『なんだこれ、粉か? 変なもんが付いてんな』
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妖精の鱗粉 素材
妖精の翅に付着している
希少な鱗粉。
素材に使えばMPの回復する
効果が得られる
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……ふむ。
MPの回復効果、ねぇ。
確か、フェアリーが通った枝に付着したってラピスが言っていたな。
よし、とにかく移動しよう。第二エリアへ向かわないとな。
ミニマップ上では、最短経路から外れるが、まあ、回り道が近道になる可能性もある訳だしな!
完全にランダム。
適当に決めた方向へと歩き出す。
フェアリーの去った方角と同じなのは偶然なのだ。
……いやだって、欲しいじゃん“妖精の鱗粉”。MP関連の素材だぞ!?
これを使った回復薬だけじゃない。装備に使えばどうなる? 武器、防具、アクセサリ。どんな効果が付くのだろう……!
少なくとも、MP関連の効果であると俺は信じてるぞ!
ただ、やはりフェアリーを倒したくはない。
少しでも言葉を交わした相手だ。チンチクリンの友達も結局、攻撃はしてこなかった。正確には一人だったからできなかったんだろうが。
襲ってくるなら撃退する。その時に倒してしまうのは割り切れる。
こっちから、何もしてこないフェアリーを倒すのは気が引けるな。
だからこそ。
「アウィン、よくやった。でかしたぞ」
「え!? な、何かよくわかりませんがお兄ちゃんに褒められましたっ! ラピスさん! わたし、お兄ちゃんに褒められましたよっ!」
『良かったですね、アウィン。この日は記念日として記録しておきましょう』
『ラピス姐もアウィンも大袈裟すぎんだろ』
『分かってないわね、トパーズ』
「ふっふふー。褒められちゃいましたー。ふふふー」
トパーズに同感。と言いたかったが、ラピスに何か言われそうだしやめとこう。
俺とトパーズは何かを分かっていないらしい。なんだ。
とにかく、アウィンはフェアリーと友達になったという事実がある。
これなら、もしかすると“妖精の鱗粉”を分けてもらうことも可能かもしれない。
ドロップのみのアイテムだったら、森の中を探し回らないとな。さっきみたいに枝へ付着してるのを見付ければいい。
アウィンの《盗む》スキルで攻撃してもらうのもアリではあるが……。
微小でもダメージはある。友達へ攻撃するのを強制したくはないな。
「待てよ。となると、この鱗粉は死骸ってことになるのか」
『やっぱ、人間って恐ろしいな。主に食欲が』
『トパーズ、そろそろ克服しなさい』
『オレは壁越えの前に同族食いしたようなもんなんだぞ!?』
『弱肉強食に生きるのなら当然。アナタもそれほど忌避感は感じていないでしょうに』
「いや、鱗粉食ったりはさすがにしねえよ」
あ、でもMP関連の料理ができるかもしれないのか。
うーん、フェアリーの体の一部って訳でもないし、効率が良くなるのなら……。
さすがに、ホーンラビットの角とかマルチスライムの粘液とかを食えって言われると辞退させて貰うがな。
人の爪や髪、皮膚を食ってるようなもんだろ。有り得ねえって。
「あ、お兄ちゃん! あれもそうじゃないですか!?」
「お、んじゃ、頼む」
「はい!」
これで二個目だな。
奇襲対策をしながら進むため、ゆっくりとした歩みだが、周囲を警戒してる分、鱗粉の見落としも少ない。
仕込み針集めをしていた時にもあったんだろうか。
急に見つかりやすくなったようだが。
あると知れば見つけやすいってだけか?
「お兄ちゃん、枝に乗った時に見えたんですが、向こうにもありましたよ!」
「よし、それじゃそれも回収して行くか」
もしかすると、フェアリーの里に近付いているのかもしれない。
だから、鱗粉が見つかりやすいとか。
よし、フェアリーを倒すことなく集められるのならありがたい。
このまま、鱗粉の乱獲作戦開始だ!
少しずつ、テイクと一般プレイヤーの間に敵モブに対する認識の相違が生まれてきましたね。
明日、4月19日の更新はお休みさせて頂きます。
すみません。