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右ニ剣、左ニ銃ヲ  作者: 明日今日
第三幕 忌み人
11/19

(4)

 パトリツィアは先頭を歩き、徐々に人気のない方へと歩いていく。

 突然、急に走って尾行を振り切ろうとする。だが隣を走るヴァシリーサが険しい顔をしてることから、尾行はまだ張りついているようだ。

 人気と水のない水路近くに移動してパトリツィアはロングソードを抜く。ヴァシリーサもホルスターからリボルバーを抜いた。

 それを見て、ヒューロも慌ててタリスマンの呪力を解放させる。

「ここなら、誰にも見られないでしょう」

 その言葉に反応して、顔に仮面を着けた人物が数人現れた。明らかに子供と思われる小柄な人間もいる。数は六人。

 全員、こちらの退路を断つように配置されている。

「白昼堂々と殺さないといけない理由ができた。……体制側にしては後始末が面倒な手段を選ぶのね。それとも、貴方達、現場の独断専行?」

 ヴァシリーサがリボルバーを構えると同時に発砲。

 だが狙われたそいつは銃弾が到達する前に動いて回避する。撃つタイミングが読まれていたのだろう。

 そいつがまっすぐにこちらに向かってくる。三人の中で一番殺し易いと思われているのだろう。

 ヒューロはタリスマンの呪力で空気を圧縮し、近付いてくる敵に解き放つ。

 敵は予期していなかったのか、撃ち出された空気の塊を腹に食らい、宙を舞う。

 そこにヴァシリーサが銃撃を加え、弾丸が胸に開けた穴から黒に近い赤が撒き散らされた。

 仮面の連中の動きが止まったように感じる。ヒューロに仲間が殺されるとは思いもしてなかったのだろう。

 パトリツィアがその隙に一気に攻勢へと転じる。固まっていた二人の懐に飛び込み、一人目の腕と首を、二人目の胴を切り裂く。

 次の瞬間、パトリツィアは血に濡れたロングソードを構えながら、その二人から跳んで大きく離れた。

 人の気配を感じて、ヒューロは水路を滑るように、いや、半分転げ落ちながら、その場を離れる。首から紐で下げ、服の中にしまっていた時雨桜の身分証明書が外に出る。

 水路の底に溜まっていた水に服を濡らしながら気配の方向を見ると、仮面の一人が銃を握っていた。

 こちらを狙っている。慌てて避けようとして斬りかかってくる別の仮面の姿が見えた。

 咄嗟に動こうとして足首に痛みを覚えた。落ちた時に捻ったか。

 剣先がゆっくりと迫ってくる。タリスマンに秘められた力を使うにも逃げるにも間に合わない。

 視界が真っ赤に染まる。

 魚人間がヒューロの盾として身代わりに剣先に腹を貫かれていた。初日に襲いかかってきた連中の生き残りだ。

 ヒューロは何とか立ち上がり、手を突き出し、近くいた別の仮面の人物を牽制する。

 横に回り込むと魚人間はその手に握られたナイフで相手の首を抉るように突き刺していた。時雨桜で支給される万能ナイフだ。

「チュウオウクカク……ダ。ソコニイケ」

 絶命した相手と共に水路に倒れる魚人間が喋った。彼自身も大量に出血している。血は赤かった。

「コレヲワタシテ。タノム」

 魚人間が力を振り絞って震える手をこちらに差し出す。カードキーと免許書のような大きさの身分証明書だった。そこにはアトラスから供与された技術のお陰だろうか、カラーの顔写真らしき物が貼られ、所属都市と名前、職業が書かれている。

 だが、その他はヒューロには読めない文字で記載されていた。

「あんたのなのか?」

 撃たれないように警戒しつつ、それを受け取る。手に粘着性の液体がつく。

「チガウ。ジョ、ウ……シガ、ミツ」

 魚人間は途中で力尽き、息絶えた。周囲を見れば、パトリツィアが一人を斬り捨て、ヴァシリーサが二人を射殺していた。

 水路内にもう一人いる。反対側にいた伏兵だったんだろう。

 足元にあった石を拾って、伏兵に投げる。それにタリスマンの呪力で作り出した風を叩きつける。その威力で仮面を砕かれ、バンザイするように最後の一人は水溜りの中へ沈んだ。

 倒れると同時に水へ赤い色が染み出していく。

「足は大丈夫? 座って治すから見せて」

 慌てて寄ってきたパトリツィアが不機嫌な表情で捲くし立てる。大丈夫などと言おうものなら、斬られそうなほど、怒ってるように見えた。

「パトのしたいように任せるから」

 痛みを堪えながら水の溜まっていない部分に座った。パトリツィアが満足そうに頷いて治癒式を使い始める。

 ヴァシリーサはリボルバーを構えたまま、上に生き残りがいないことを確かめた後、最後に倒れた人物に近付いて死んでいることを確認して溜め息を吐く。

 そして、こっちへと歩み寄ってくる。

「最後の一人は案内役の少年よ。やっぱり、監視役だったみたいね」

 ヒューロに前までやってきて、ヴァシリーサが肩を竦めた。

「これを見てくれ。彼が持っていた。上司の物らしい」

 身分証明書を見せ、魚人間を示した。

「そう。この魚人間は……これでしか判断できないけど、多分、査察団の人間ね。身分証明書の持ち主は錬金術師のジョンソン・パトリック。所属都市は東のオードンか。エステリア語だから、ヒューロには読めないでしょう」

 パトリツィアが抑揚を抑えた声で指摘する。

「センチメンタルに浸ってる場合じゃないわね」

 聞こえてくる複数の足音にヴァシリーサが水路の上に視線を移した。

「これはこれは派手に襲われましたね。御三方でなければ、殺されている」

 レオーネが執行官を連れて現れた。……勝っても負けても対策済みか。無駄と知りつつ、ヒューロは服の中にカードキーを隠した。

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