ブキセンタク
おまたせしました。なかなか思ったように書けずおそくなりました。
「ようやく俺の出番か」
ドロシーの左隣にいつの間にか小学生ぐらいの少年が立っていた。
これは、また唐突に現れたな。
「嬢ちゃん大丈夫か」
「大丈夫だ。急に現れたから一瞬、動揺しただけだ。あと僕は男だ」
それにしてもよく気づいたものだ。
動揺したのは少年が現れた瞬間の一秒にも満たない時間だけだ。
しかも僕の場合、動揺が顔に出にくく普通の人は気づかないらしい。
「それは色々とすまなかったな」
少年に謝られた。
それだけで、調子が狂う。
やはり、この少年に有る違和感のせいだろう。
見た目小学生男子だが中身はまるで大人のようで、チグハグしている感じだ。
服装は甚平と渋いし。
しゃべり方もどうしてか大人っぽい。
右手には金槌を持っていて、それで自分の左肩をたまにトントンと叩いているのだが、それがまた似合う。
まるで、金槌を使い慣れた玄人のようだ。
「ん、どうかしたか」
おっと、じろじろ見すぎたか。
「あぁ、自己紹介がまだだったな。俺はガン―――
「ガンツ。来るのが早い」
少年ことガンツの自己紹介がドロシーに遮られた。
ドロシーは勝ち誇った表情を浮かべている。
故意だなこれ。
ドロシーが今まで大人しかったのはこれを狙って居たのだろう。
「まともに自己紹介ぐらいさせろ」
「やだ断る。因みにこっちはレイね」
ガンツはドロシーを睨みつけが、ドロシーは萎縮するどころかどこか楽しげだ。
さらっとこっちの紹介もされたし。
苦労してるようだなガンツも。
「ちなみにガンツの種族はドワーフだから」
ドロシーが言うのか。
ほら見ろ、ガンツ軽く落ち込んでるじゃないか。
落ち込んでいるガンツを見て恍惚な表情を浮かべているドロシーは間違いなくサドだ。
それはさておき、ガンツの種族はドワーフなのか。
あまりピンとこない。
ドワーフと言うと筋肉隆々で小柄、立派な髭を蓄えているのを想像する。
しかし、ガンツはどう見ても小学生にしか見えない。
想像と現実のずれのせいでピンとこないのだろう。
それにしても、どうしてこんな格好に成ったのだ。
「ドワーフがこんな姿になったのには訳があるのよ」
ドロシーがニヤニヤして言ってくるが、ガンツには面白くないのだろう渋い顔でドロシーを見ている。
「別に話したくないことを無理に聞こうとは思わない」
本当は凄く気になるが。
「話してやる。どうせ、ほっといてこいつに面白おかしく話されるだろしな」
渋い顔を崩すことなくこちらに顔を向け言ってくる。
どうやってもドロシーの一人勝ちのようだ。
さすがに同情する。
「まず、ドワーフといえば筋肉質な体に立派な髭を生やし小柄で手先が器用と言うのが一般的だろう」
ガンツの言葉にうなずく。
先ほど想像したドワーフもそうだった。
「何故、俺がこんな姿になった原因だがな鍛冶中に髭が燃えると言う事故が頻繁に起こったんだ」
髭が燃える。
流石にこの内容には呆気に取られた。
髭が燃えるって何だ。聞いたこと無いぞ。
現実ではそうそうありえるとは思えないのだが。
「まぁお前が考えていることは大体解る。さぞかし滑稽だろう」
「そんなことは考えていない。さすがにそれは卑屈になりすぎだろう」
「そうだな。卑屈になりすぎたようだ。すまない」
どうやら相当、言われてきたようだな。
ガンツはどこか参っているようにも見える。
流石にこれは、やりすぎだと思うぞドロシー。
「髭の件はわかったがなんで筋肉量が下がったんだ」
「製作者が趣味に走ったらしい」
絶句した。
ここにも居たか『第二の僕』が。
いや、考えてみれば僕のほうが後だから僕が『第二のガンツ』なのか。
まぁどっちでもいい。
「まぁ、不名誉な理由で俺の体はこんな姿になっちまったわけだ。まったくムカつくぜ」
「その気持ちよく解る」
ガンツの嘆きに共感し僕は今まであったことをガンツに話した。
途中からのけ者にされて寂しかったのかドロシーも参加しコンプレックスの話で盛り上がった。
ほとんど愚痴だったけれども。
「っと、こんな事している場合じゃないな」
「そうだね。思わず盛り上がったな」
脱線し話し込んでいた僕らだがガンツの一言で本線へと戻ってくる。
「と言うことでドロシーそろそろ離れてくれないか」
ガンツは苦笑しながら言う。
ガンツが僕と仲良く話していることに嫉妬したドロシーがガンツをずっと背後から抱きしめていたのだ。
ガンツも最初は抵抗していたが今ではなし崩し的に諦めたようだ。
「いやよ。このままでも出来るでしょ」
ドロシーは少し拗ねているようだ。
ガンツは困ったという表情はしているものの嫌がるそぶりは見せない。
いいコンビだと思う。
「しかたねぇか」
ガンツは諦めたように言うと、手を叩く。
すると、一軒の赤レンガ造りの建物が出現した。
またこのパターンか。
「ほらいくぞ」
ガンツはそう言うとドロシーを引き連れて建物の中へと入っていく。
僕もその後を追った。
この建物は鍛冶屋だ。と認識した。
樽に刺された槍や壁に掛けられたソードや刀、一箇所に纏められている大槌など何処を見ても鍛冶屋だ。
この光景には僕の男心がくすぐられる。
「レイ、お前使いたい武器とか有るか」
ガンツは格好を決めているつもりだろうが背後のドロシーのせいで台無しになっている。
それはさておき、武器か武器なら使い慣れたものがいいだろう。
「刀がいいな」
「えーっ。鞭とかマジックワンドとかが良いって。こう言う奴」
ドロシーはそう言うと鞭とマジックワンドを出現させるが、これはどう見ても駄目だろう。
鞭は黒い皮製でマジックワンドはピンクのおもちゃみたいな作りをしたものをしたものだ。
どちらも危険な香りがする。
「コンセプトは、女王様か魔法少女。どう絶対こっちのほうが良いって」
やっぱりそう言うことか。
そんな物もちろん。
「却下だ。普通に刀で頼む」
「あぁ俺も刀が一番いいと思うぜ。待ってな今用意してやる」
僕とドロシーの会話を苦笑して聞いていたガンツはそう言うと、一振りの刀を出現される。
「これなんかどうだ。お前さんの使い慣れた刀に近いと思うが」
「解るのか」
見ただけで僕の得物を見破ったことに対し僕は少し驚いた。
一流の刀匠と呼んでも過言ではないだろう。
「確認してもいいか」
「おお存分にしてくれ」
ガンツから刀を受け取り構えてみる。
重さ長さともに申し分ない。
後は刀身の確認だ。
漆塗りの鞘から抜き刀身を見る。
なんと言うか、可も無く不可もなくといった所だ。
まぁ考えてみればゲームの初期装備に名刀なんて渡さないだよな普通。
少し残念ではあるが、妥協も大事だ。
「これでいい」
納刀し告げる。
「試し切りはしないのか」
「あぁお願いする」
「じゃあ巻き藁を用意する」
と巻き藁を出現させようとしたガンツを遮り
「まって、私が用意する」
とドロシーが手を叩く。
正直な所、嫌な予感しかしない。