やっかみとゴシップと(600文字)
あるとき岡井隆のことを調べようと
グーグルで検索していたら
こんな記事に行き当たった
「節度を失くした歌人たち――夫婦で選者、歌会始の話題づくりか」
個人ブログの小見出しだが
2009年の歌会始選者に
永田和宏と河野裕子夫妻が選ばれたことへの
やっかみともとれる内容であった
さらに批判の矛先は
おそらく選者人事を仕切っていたであろう
岡井隆に向けられていた
なるほど そんな見方があったのか
同時に別の感懐にも襲われた
ブログの記事は2008年7月
おそらくこのとき河野裕子の乳がんは
かなり進行していたはずである
もうこの機を逃せば間に合わない
永田夫妻と親しい間柄の岡井は
そう考えていたに違いない
岡井隆は内科医である
河野裕子は2010年8月に亡くなった
享年64歳
日頃からかわいいお婆さんになりたいと
口にしていた河野
亡くなる3年ほど前に
地下鉄烏丸線で見かけた
混み合った車内の席で
こじんまりと本に読み耽っていた
声を掛けたかったが
私のことを憶えてくれているかどうか
自信がなかった
だいいち河野裕子はおっかない
かわいいお婆さんというより普通のおばさん
まわりは
この人が千年経っても語り継がれるような
すごい歌人だと気がつかない
河野裕子は精神科医の
木村敏のカウンセリングを受けていた
内部崩壊ぎりぎりの闇を
抱えていることを周囲に見せなかった
私は自分が病気になっても
岡井隆に診てもらいたいと思わない
彼が小用を足して手を洗わないのを
私は知っているからだ