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Like I Loved You  作者: 昇歌
17/20

16話

今日1日災難続きで、その怒りを執筆に吐き出しました。

『心配したじゃないの!今どこいんのっ!?』

受話口から耳を劈くような怒声が鼓膜をいたぶる。案の定あっちゃんの怒りの臨界点は限界をとうに突破していた。スッゴい怒ってるぜ。

でもそれだけ心配していてくれたことに、不躾ながらも嬉しく思ってしまった。

「実は看過できない事態に見舞われているの」

『看過できない事態って何よ?』と怒気を孕んだ声音で詰問される。

「それは――」軽い耳鳴りに苛まれつつも私は、事の顛末をあっちゃんに伝えた。


『…そんなの迷子センターに任せたらいいじゃないの』

私の説明を聞いて、あっちゃんが簡潔に一言。

「………」

確かにそうだ!

何故か私が見つけてあげなくちゃっていう強迫観念的な思想が、念頭に刻まれていた。

こんな大勢の人達で溢れている店内で、一人の人物を見つけ出すのはかなり困難であり、例えるなら、え~……適切な比喩が思いつかない。

まぁそれはいいとして、何よりみっちゃんママも既に迷子センターへ向かっているかもしれないしね。そうだ。そうに違いない。

「ありがとう、あっちゃん。恩に着るぜ」

『え?あっ、ちょっ』

あっちゃんが何かを言おうとしていたけど、構わず通話を途絶させた。

それにしても自分の馬鹿さ加減をこんなところで痛感するなんて、思ってもみなかった。でもこれで難航していた状況に光明が差したというものだ。

「おわったよぉ~」

用を済ませたみっちゃんが個室から飛び出てきた。

衛生上を考慮し、バシャバシャ手を洗浄しているみっちゃんに、

「ちゃんと一人で出来た?」

「うん。ばっちし」と口角を上げ、OKサインを小さな手で形作る。

ぐっ!改めてその愛らしさに心臓を鷲掴みにされる。

そして、みっちゃんと手を繋ぎ、無駄に甘ったるい匂いが蔓延するトイレを出る。消臭のために芳香剤を設置している事はわかるけど、どうにもこの匂いを好きになれないんだな。

「みっちゃん、お姉ちゃん良い作戦思いついちゃった」

「いいさくせん?」

「迷子センターでママを呼び出して貰うの。そしたら直ぐにママが駆けつけてくるよ」

「ホントに!?」驚喜の混じった笑みを私に向ける。

「うん。ホント」と肯定して、エスカレーター近くに備え付けてある店内マップを確認。えっと……あった。迷子センターは三階にあるみたい。


三階へ上がり、迷子センターに向かう途中、みっちゃんが唐突に、「あっ!」と驚く。

「どうかした?」

「ママだっ!?」

掴んでいた私の手を離すと、みっちゃんは一目散に脇目も振らず走った。

「あっちょっと!」私は一瞬、あまりの急展開で呆気に取られていたが、みっちゃんの後を追いかける。

「ママぁ~!」叫ぶと、迷子センター付近に立っていた女性に抱きつく。どうやらあの人がママらしい。見つかってよかった。

「あっ美羽どこ行ってたの!いっぱい探したんだからね!」

「あのね、みうもりっちゃんと一緒にママを探してたの」

「りっちゃんって誰?」

「あのおねぇちゃん」とみっちゃんが私を指差す。

「どうも」私は頭を下げて、微笑む。

「そうだったんですか。どうもご迷惑おかけして申し訳ございませんでした」

みっちゃんママが畏まったように頭を下げた。

「いえいえ、迷惑だなんてとても」謙虚さの片鱗を覗かせつつ、手を振って否定する。実際、迷惑なんて毫末も思っていなくて、私はみっちゃんといるのが楽しかったのだ。

「よかったね、みっちゃん。ママ見つかって」としゃがんで、みっちゃんに笑いかけると、頭を撫でる。

「うん!」

それは、これまでにないくらい大仰な首肯だった。

「それじゃあ私達はこれで失礼します。本当にありがとうございました」

改めて深く低頭するみっちゃんママ。そんなにお礼を言われたら、こっちが恐縮してしまう。

「ほら、美羽。お姉ちゃんにバイバイは?」

みっちゃんママのその一言で私の心中が、悲愁に打ちひしがれる。そうだ、もうみっちゃんとは会えないんだ、と理解した瞬間、目頭が熱を帯びていく。

「りっちゃん、バイバイ」

みっちゃんも悲しいという感情を抱いてくれているのか、切なげな表情だ。

「うん。バイバイ」今できる精一杯の微笑みを形成して、破裂しそうな感情を押し込める。

そして、二人は私に背を向け遠ざかっていくのを見送る。

ヤバイ。泣きそう。二人と距離が離れていく都度、視界が段々ぼやけて、波打つ。下唇を噛み締め、なんとか流れ出そうなになるのを意地で牽制する。

「これっ」

後頭部に小突かれた衝撃を受け、反射的に背後を振り向くとそこには――

「あっ、あっちゃん」がいた。

刹那、私の涙腺の一糸は切断された。

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