10話
「どっか行きたいとこあるの?」
私は差し出された野菜炒めを口に含む。遊んでたからか少し冷めていたが、味は落ちていない。
「服でも見に行こうかなぁと思って」
相変わらず頬杖を付きながらあっちゃんは答える。
「服か…」
「なに?不満?」
「いや、不満って訳じゃないけど…」
やっぱり家でイチャイチャしたい願意は破棄できないってのが本音だ。
「しょうがないなぁ璃子は。帰りにアイスを買ってやろう」
難色な表情が流露してしまったのか子供を諫めるようにあっちゃんは言う。アイスっで釣るって…お子ちゃま扱いだなぁ。まぁデートだと思えばいいやと自らを抑止する。
「うんわかった。31(サーティワン)ね」
「はははっいいよ。特別に三段重ねだ」
あっちゃんは頬杖を外し手を後部に置き、くつろいだ体制になり快哉に笑う。
「わぁい!あっちゃん太っ腹ぁ」
「サムシングエルス」
小声で言い二の腕を両手でスリスリ。あっちなみに寒いって意味ね。『ラストチャンス』良い曲だったなぁと旧懐。
いつもクーラーを付けっぱにして寝ている。そのため体温が低下し目が覚めたのだ。
就寝時は二人別々。あっちゃんはベッドで私は敷き布団。実家に敷き布団しか無かったためベッドより敷き布団の方が落ち着くからだ。
酷暑続きの最近の助けはクーラーなのだが、地球に優しい温度でも長時間冷風を浴びるとさすがに寒く体が微細に揺れる。
だがクーラーを消せば熱が部屋を充満し暑さで目が覚める。
いそいそと立ち上がり隣りで寝息をたて安穏に就寝しているあっちゃんのベッドに転がる。
「ん~璃子どうした?」
気配に感づいたのかあっちゃんが夢現に覚醒しこちらを見た。安眠を妨害されても怒らない寛容さに安堵を覚える。父親の眠りを妨げようなら怒声が飛ぶのは日常だったためだ。『そないに怒らんでええやろ』と言いたくなる程憤怒していたなぁ。
「ちょっと寒い」
私が答えると、
「クーラー消す?」
「ん~ん。こうすれば大丈夫」
小声で返答しあっちゃんに抱擁。人肌の抱き枕は気持ち良く自然と瞼が重くなる。




