相談窓口の罠
異世界のミコ様と妹の結子、高校時代のお話
最近、不思議な事に他人に相談事を持ちかけられる。
「あたしって、平凡だから・・・。」
なんだ自慢か。
「えっ。」
しまった、女生徒が驚いている。心の声が漏れてしまったらしい。とりあえず誤魔化そう。
「日本人の平均的な顔、つまり平凡がいわゆる美人と認識されるというデータがある。つまり自分は美人で困っている、そういう悩みだろう。というか、悩みなのか?そして、なぜ皆休み時間、放課後とわたしの所に相談に来る?わたしは忙しくはないが、暇でもない。目安箱を設置した殿様じゃあるまいし、なぜだ!?」
「え、いや違・・・だって。」
しまった、更に女生徒が驚いている。真面目な優等生なのに、つい途中で荒ぶってしまったのだ。
しかしみつあみはめんど・・・ゲフンゲフン。みつあみは髪の長さが足りなくて諦めたが、せっかくスカートの丈は完璧な膝丈を守っていると言うのに、これではわたしが優等生として見掛け倒しだと思われたかもしれない。それとも目は悪くないので眼鏡はかけていないのが甘かったのか。伊達でもしておくべきだっただろうか。だが、今から眼鏡をかけると目が悪くなったのか等々煩い輩が出るかもしれん。何とかこのスタイルのまま押し切ろう。
とりあえずなぜ急に相談に来たのか分からない、知り合いですらない女生徒には一応謝っておくか。それが優等生というものだ。
「・・・ごめんね。」
ぐ、キャラが定まっていないせいか、言い方を間違った気がする。まさか謝罪でサブイボが立つ羽目になるとは思わなかった。ごめんねなんて、わたしには合わない。すまんがベストだがそれはそっけない。しかしごめんなさいね、も何か偉そうだし再びサブイボが立ちそうだ。ここは優等生っぽくないが、ごめーんと軽く言うべきだろうか。
「あ、い、いいんです。白河さんに謝ってもらうなんて、あたしが禁じられた恋愛相談しようとしたのが悪いんだし。ホント滅相もないです!」
やはりというか、女生徒の言動がおかしくなった。それほど今のごめんねの衝撃は大きかったという事だな。謝罪自体は間違っていないと思うが、言い方が問題だったのだろうと更に謝罪を重ねたら、女生徒は逃げてしまった。ごめんなさいも不正解とは思わなかった。人間関係難しい。
学校という集団生活の場は社会の縮図だ。こんな些細な事で挫けていては、わたしは将来やっていけないと思う。何とかこの外面を完璧にしなくてはと心に誓った。
※ ※ ※
「白河妹!」
わたしと妹が一緒にいると、皆妹にそう呼びかける。妹は名前ではないのに、世の中は不思議だ。それより今日は帰ったら、目安箱を設置した殿様のDVDを見よう。
「会長。」
「おう、いつも姉さんには世話になってるな。またよろしくな。」
「よろしくって、そちらが勝手に利用してるだけでしょう。客寄せパンダにした礼はきっちり貰いますからね。」
「お、おう。やっぱ、怖ぇな妹。会計には話しておくから、お手柔らかにな!」
「さようなら、会長。」
「あ、ああ。またな。」
「さ よ う な ら。」
「・・・。」
男子生徒と別れを告げた妹が歩きだしたので、用は済んだのかとわたしも足を動かす。帰る所が一緒なのだ。妹という血の繋がった他人とでも、成長したわたしは一緒に行動できるまでになった。
そういえばあの生徒会長と呼ばれる男子生徒もそうだが、皆不思議な事に妹を通訳のように思っている節がある。わたしに話しかければいい事も一緒に居る妹に言うのだ。それだけわたしとの会話は難解とでも言いたいのか。しかし妹は大概、わたしには何も言わずにスルーしている。まあ、わたしもそれをスルーしてるから問題ないか。
「あ、姉さん。あのDVD何時発売だっけ?」
「確か、来週。」
「予約したの?」
「してない。金が無いしな。」
妹の言うDVDとはわたしの趣味で集めているシリーズのDVDの事を指す。それ以外で話題にする時は必ず前置きするのが妹だ。さすがは、わたしと違って心遣いの出来る神童と評判の妹である。
しかしわたしの趣味のDVDは、毎月の小遣いという名の支給金で必ず散財できるモノではない。たまに買えればいい方だ。やりくりは難しいが、それも今後の為だとわたしはケチと思われる程に頑張っている。親は頼めばいいと言うが、そういう甘えは将来社会を生き抜くのに不要だとわたしは思う。しかしバイトは出来ない未熟なわたしである。働きたくないでござる。
そのうち株を勉強してみるつもりだ。そのうち。
「そう思って、予約しといたから。特典付きだよ。」
「・・・。」
マジか。そう思ったが、それは妹が入手したものであってうんぬんかんぬん。
「来週、一緒に取りに行こうね。」
「・・・うん。」
これがわたしが貰える物は貰う主義になろうと思った瞬間だった。
※ ※ ※
妹は本屋に寄ると言うので、別れた。わたしは本屋に用が無いのだ。
どこかに用があっても妹はわざわざわたしを待つ。そして途中まで一緒に帰ろうと言うのだ。わたしに滅多に用がある事はないが、あると妹はなんと付いてくる始末だ。
妹はもしやわたしを監視しているのではないだろうかと一時期思い悩んだ。悩みがあれば相談しろと煩い母親に試しに相談したところ、妹はわたしが心配らしい。だが、高校3年にもなって妹に心配されるのもどうかと思う。迷子属性もないのに、おかしな話だ。抗議したら、母親は幼い頃に一度迷子になったと言い張った。だがわたしにそんな覚えは無い。あれは迷子ではなく、幼い子供特有の自ら見知らぬ路地を進むという冒険だったのだ。しかも生きて帰れたからいいではないか。大した時間じゃなかったし。それを今まで引き摺るのはどうかと思うと言うと、母親はなぜか溜息をついてわたしでなく妹に同情していた。
結局母親に相談しても無駄だった。わたしの悩みは尽きない。生きるとは大変で、苦悩が尽きないものなのだ。
※
休み時間の相談は未だに来てしまうが、放課後はなかった。
なぜならわたしが担任に、生徒指導室に呼び出されたからである。
「高校生が金品のやり取りするのは感心しないぞ、白河。」
なんと・・・待ち構えていた教師に濡れ衣を着せられるとは思わなかった。要らぬ相談を押し付けられるのとどっちがマシかと考える。
「とぼけても無駄だ。会計の裏帳簿は抑えたからな。生徒会費を流用とは恐ろしい生徒だな、お前は。」
わたしの脳内で結論が出る前に、担任と待ち構えていた教師はドヤ顔でそう言った。
しかし会計か、生徒会に関係の無いわたしがなぜ疑われるのか分からんが、裏帳簿はいかんと思う。そういうのは残すからまずいんじゃないか的な意味で。あと見つかる所に置くな的な意味も含める。
「ここに白河ぃ・・・『白河へ』と金額迄、はっきり書いてある。」
担任はその部分を指す教師を二度見してくれたが、結局記されている『妹』の文字は見なかった事にされた。
「どうせ、お前が妹に受け取るよう指示したんだろう。」
相変わらずドヤ顔の教師の後ろで担任が拝んでいる。謝っているらしい。担任は力関係的に教師に何もいえないようだ。担任に守ってもらえない生徒は上司に守ってもらえない部下と同じだ。世知辛い世の中よ。しかし妹はナニやらかしてんだ。これを治めるのも姉の役目というヤツなのか?姉って大変だな。
グググ、ズッパーン!
横開きの扉から大きな音がして、考えながら思考が段々謀略に絡め捕られそうになった上様の図の妄想にシフトしていたわたしはハッとした。もう少しでお庭番が救助に来る所だったのに!
「おい、鍵壊すなよ!」
扉に向かって怒声を発したのは担任だ。教師は裏帳簿を持ったまま唖然としている。
「・・・センセイ。」
入り口から物凄い低い声がした。
後ろに有象無象を引き連れた妹だった。はて、こんな低い声の妹は居た覚えが無いんだが。
「センセイ、悪いのは全て私と生徒会長です。姉さんは悪くありません!」
「何を言っている!君は成績だけでなく、明るく活発で普通に優秀な生徒だ。しかも姉想いと評判だ。成績だけで、他の生徒を脅して支配している陰鬱な姉とは違うだろう!」
おいおい、どんだけこの教師はわたしを貶めたいんだ。
支配できるならまずお前を支配しとるわい!なんてね。
「いや、先生。流石に白河は脅してクラスを支配なんてしてませんよ。ただ、周りに一部おかしな生徒が居るだけで・・・。」
「友達と言う名の下僕が居る時点で普通じゃない!」
「確かにそうですが・・・あれは奴等が白河に勝手に群がってるだけですから。」
震えながらフォローしようとしてるようで、してない担任は何なんだ。
しかしわたしの優等生としての努力が功を奏したのか、クラスでのボッチはかろうじて免れていたのだが、どうやら教師が言うには物騒な輩にも群がられていたらしい。全くもって事実無根である。そんな物騒な輩なんて見た事もない。せいぜい同じクラスの隣の席のヤンキーがたまに出席しているのを見た事がある位だ。しかも見た目ヤンキーの彼は、出席すればわたしに挨拶をする実は生真面目な生徒だった。全然物騒ではないので、例に出すのも悪い位だ。
「センセイ!」
有象無象の中から青い顔をした生徒会長が飛び出して来た。そして生徒会長はすぐに頭を下げる。
「すいませんでした!俺が、生徒会の人気取りの為に白河姉妹に取引を強要したんです!」
「・・・会長。」
有象無象にツンと後ろから突かれて、会長は飛び上がっていた。会長は背中が敏感らしい。
「あ、違った。白河妹だけっ、妹だけです!お礼に金を出したのは俺の独断です!」
「会長、君まで何を言って・・・脅されてるのか?」
「いいえ、これが証拠です!」
「!?」
ババーンと効果音が出てそうな出し方で、妹は一枚の紙を勝訴的な持ち方で出した。あの裁判後に外に出てくる上下を持つ持ち方だ。
決め姿が印籠っぽくってかっこいいとか恨めしく思ってはいない。
「なっ、契約書?!『生徒会より白河妹に謝礼を渡す事とする』・・・こ、こんなもの偽造しようと思えばいくらでも。」
「日付入ってますよ。」
「だから日付だって、今日書いたのかもしれない。そんなの証明にならんだろ!」
教師は必死だ。ババーンと出ても納得しないって時代劇みたいだなぁと思った。そうなると、今度は何を出すんだろうと妹を見る。なぜか妹はわたしを見返して頷く。以心伝心みたいで気持ち悪いな。
「なります!なぜならこれが、デジカメの画像をプリントしたものだからです!」
ええーっ。有象無象からわざとらしい驚きの声が上がった。会長も驚いた顔をしている。ホントにこいつら何々だろう。姉として、妹に友達は選べと言うべきだろうか。友達が多くて恨めしいという訳ではない、念の為。
「わ、わざわざコピー用紙にプリントしたのか。データは確かめさせてもらうぞ。」
「どうぞ、きちんと撮影日が残ってますから。」
ガクリと机に手を突いた教師に妹は斜めに見下ろすような視線を向けた。
しかし流石神童、やる事が違うな。
どう生徒会と絡んで、契約書まで書かせたか知らんが。教師に疑われもしなかった自分ならそんなに罪にならんとか思ってたのか。正直に自白すればワシントン方式で許されるとか思ってんのかもしれんな。
「会長と白河・・・結子は一緒に来い!・・・・・白河、疑って悪かったな。」
妹と会長にそう言って、背中を向けたままの教師は一応謝罪した。わたしは優等生らしく大人しく頷いた。
「しかし、妹の管理不行き届きとしてお前も少しは反省しろよ。」
ブーブー、有象無象からのブーイングが沸く。だから何なんだ、こいつら。ハッ!もしかしてこの妹の友達である有象無象のせいで、わたしは取り巻きが一杯だと誤解されてんのかも。むむぅ、全て神童の策略であったか、恐るべし妹。こってり教師に絞られるがいい。
殊勝な態度をしつつ、振り返った妹をシッシと追い払ってわたしは溜息を吐いた。担任が有象無象を追い払っている。
「白河ん家には鍵の修理代請求するから。」
有象無象を散らし終えた担任にそう言われ、わたしは来月の小遣いが心配になった。しかしバイトはしたくないでござる。
まさかこの後、家族で外食に共に行く事を強要される事になるとはこの時のわたしは知る由もない。
※ ※ ※ ※ ※
「今期の生徒会は一筋縄ではいかないって言ったでしょ。君の身を切る必要は無かったんじゃない?」
「うーん。でも姉さんは気づいてないけど、奴ら成績と人気で勝てないからって何かと目の敵にするから。妹を利用して陥れようとまでする奴等には、コレで良かったんだと思う。せっかく書かせた契約書を盗まれた時はどうしようかと思ったけど、一之瀬君のアドバイス通りデジカメで保存しといてよかったよ。お陰で姉さんは無罪、私は大した罪にはならなかったし。」
「まあ・・・でも停学でしょ。」
「それが土日祝含めた、非公式な停学だって。」
「・・・・・・そっか、ならしかたないな。」
一之瀬 亮がそう微笑んだ真の意味を白河 結子は知る事はない。
ミコ様は色々勘違いしてますが、結子はそんなに器用じゃなく、天才でもない。でも生徒会に睨まれた姉の為ならえんやこら。一之瀬の苦労が伺える。
(;゜Д゜)(゜Д゜;(゜Д゜;)ナ、ナンダッテー!!な有象無象は結子の友達ではなく、取り巻きです。たぶんヤンキー君もそう。
遠巻きにされがちなミコ様は一部に妙に嫌われてるタイプ。
結子は八方美人、広く浅く。
もらえる物は貰う主義になったきっかけと言いながら、その片鱗はすでにあったミコ様。この時は時代劇に凝ってます。ミコ様は某上様と某鬼がいる火盗改のDVDを集めてました。