とある家系が執念深い件について
異世界のミコ様番外
その日、水無瀬 護は辞表を出した。
彼はある企業に勤めている。
彼がその会社に決めた理由は、比較的自由な社風にある。
イヤホンを常に耳に入れていても問題がないのが特に気に入った点だ。
消えてくるのは音楽ではない。
雑多な音。
そして、唯一の声。
『あー・・・山ぅぃ。この書類どうすんだっけ?』
『あー・・・それ前田、いや2つ向こうの机に置いとけ。』
(山内め、名前を覚えていないのを察して親切に指示してやるとは中々やるな。)
そう、彼がしているのは盗・・・ゲフンゲフン・・・ある方の警護だ。
水無瀬の家は、はるか昔からその家を守護している。護は本名だが、水無瀬は家が用意した偽名だ。
大義名分があった気もするが、結局はその家の人が好きだからしているのだと護は思っている。
好きじゃなきゃ犯罪すれすれどころか、振り切った形の守護なんてしない。
平成の世になっても、主だなんだと縋ってしまうのは最早呪いだと誰かが言った。
白河家。
それが護たちが守護する家だ。
といっても、守護しているのはそれぞれが主と決めた相手だけなのだが。
白河一族とは、たまーに成金の端っこに浮いたり沈んだりする程度だ。
華族とか財閥とか、そういった華々しい歴史はない。
昔はどっかの殿様の覚えが良かった人がいたり、嫌われまくった人もいた程度の家だ。
けれど、なぜか彼らは好かれてしまう。
異界の神に。
そして、一部の人間に。
※
昼休み。
護はスマートフォンを弄っている。
最近、どうもカメラの調子が悪いのだ。腐っても大手企業。盗撮カメラに気付かれたのかもしれない。
嫌な予感がする。
護は早退する事にした。
護の帰る家というと、もちろん警護している方と同じマンションになる。
ココを入手するのはかなり骨が折れた。
セレブ御用達まではいかないが、中々なマンションと言うのは手が届きそうな分人気も高い。
ちょっと、かなり無理をしてしまった。
あそこまで犯罪度を振り切ったのは中々ない事だな、と護は誇らしげに思う。
流石は主。護にとって警護する人は全てと言って良かった。
どうやら主は定時で帰宅したようだ。
護は自宅でその気配を感じた。
主命の護にとって同じマンション内に居れば、その気配を察する事は容易い。
常についていたいのは山々なのだが、彼の方は至近距離で警護できない。
周囲に潜む有象無象が多いのだ。
もちろん護はそんな奴等に気取られるようなヘマはしない。
正直護は気に食わないのだが、中々有能な奴が多いので通勤退勤位は奴等に守らせてもいいかと思うようにしている。
手段について明かすつもりはないが、危険だと感じたらすぐに排除できるよう準備も怠ってはいない。
ところで、護の家では要注意とされている事柄がある。
それは主の気配にノイズがかかった時。
対処法としては、主の足元に魔方陣があれば一緒に飛び込む。不自然な穴に落ちたら一緒に飛び込む。
とにかく消える際に原因となったソレに飛び込むのが一番とされている。
では飛び込める距離にいなかったら?
翌日、水無瀬 護は会社に辞表を出すと実家に戻った。
ちなみに水無瀬の家の表札は本名ではあるが白河ではない。
主と違う苗字なのは分家の端っこだからなのだが、護的にはそれがちょっと残念でならない。
『その執念たるや、おそろしや』
どこかの古文書にそう書かれたとか書かれてないとか。
とにかく筋金入りの護の家には、主の行き先について行くべき手段がある。
昨夜、護の大事な主の気配にノイズがかかった。
家に行くと案の定姿がない。
置いていかれたかもしれないペットを回収しようとしたが、その姿までない。
(やはり異界に連れて行かれてしまった)
黒装束に身を包み、護は儀式の間へと足を勧めた。
その執念を哀れんでくれた、八百万の神の一人が残してくれた手段。
一か八かの賭けだが、乗らない訳にはいかないのだ。
『けれど、同じ時にたどり着くとは限らない』
犯人が、異界の神であればその妨害があるのは致し方ない事だ。
それでも、それでも行くのが護の家の血筋だった。
『そして、成功するとは限らない』
「ここは、ドコだ?」
そして、あの方はどこにいる。
護が着いた場所、それは世界の中心と呼ばれる島よりはるか離れた大陸だった。
ミコ様担当守護者登場。広瀬の長兄でうっかりサンとは別人です。
彼らの家は、その執念にびびった地球の神様に1回だけ異世界に転移する権利を貰っています。あくまで片道切符です。
彼らの家はそれぞれ主と決めた人がいればどこまでも着いて行き、主がいない人はそれをバックアップしています。偽名を使うのは犯罪行為しまくりな自覚があるからです。
結子も呆れてましたが、本家は知りません。昔話で忍者がいたらしいよ、程度の認識。
護がミコ様に会えるかは神のみぞ知る。